ヒラメのミトコンドリアDNAはどんな構造をしているか


[要約]
 ヒラメの持つ核外遺伝子であるミトコンドリアDNAの構造を、分子クローニング技術を用いて調べた。その特徴は、ほかの魚類やヒトなどの脊椎動物とよく似ていたが、D-ループという部分に隣接して74塩基対を単位とするヒラメに特有の繰り返し配列があり、高い変異を示した。
東北水産研究所・八戸支所・底魚資源研究室
[連絡先]  0178-33-1500
[推進会議] 東北ブロック水産業関係試験研究推進会議
[専門]     資源生態
[対象]     ひらめ
[分類]     研究

[背景・ねらい]
 寿司や刺身の材料として高価に取り引きされるヒラメの資源管理を生物多様性に配慮しながら行うための基礎資料を得るため、ヒラ メの天然魚や養殖魚にどの程度の遺伝的多様性があるかを知りたい。そこで、ヒラメの持つ遺伝子群の1つ、ミトコンドリアDNAの構造 を、分子クローニング技術を応用したDNA配列の読みとりによって調べた。

[成果の内容・特徴]

  1. ヒラメから取り出したミトコンドリアDNAを大腸菌の遺伝子に組み込んで、その繁殖力を借りて分析に使える量まで増やした。
  2. 大腸菌に増やさせたヒラメのミトコンドリアDNAの配列を部分的に読み、ヒトなど数種の脊椎動物と比べたところ、ほかの脊椎動物 とよく似た構造をしていた。
  3. D-ループと呼ばれる部分のDNA配列を読みとったところ、それに隣接して、74塩基を単位とする、ヒラメに特有の繰り返し配列 のあることがわかった。
  4. 日本海(若狭湾)と太平洋(青森県と岩手県沖)から得た約50個体のヒラメについて、繰り返し配列のある領域の長さを調べ、繰り 返し回数を推定したところ、約5~12回の変異があった。

[成果の活用面・留意点]

  1. ヒラメの天然魚は高い遺伝的多様性を保有しており、種苗生産や移植放流には生物多様性をとりわけ考慮する必要があることを示して いる。
  2. ヒラメの繁殖集団の海域ごとの独立性と交流の程度の研究に応用できる。

[具体的データ]

図1.実験の流れ

図2.ヒラメのミトコンドリアDNAのD-ループ周辺領域の模式図と、この領域の長さの突然変異


[その他]
研究課題名:魚類ミトコンドリアDNAの高精度制限サイトマッピングに基づく遺伝的解析手法の開発
予算区分 :重点基礎
研究期間 :平成7年度
研究担当者:斉藤憲治
発表論文 :Prelimiary data on restriction mapping and detection of length 
            variation in Japanese flounder mitochondrial DNA. 
      Aquaculture 136巻,1995
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