カイアシ類群集の特性とそのイワシ個体群への影響評価


[要約]
 日本海南西部におけるカタクチイワシ仔魚の餌料としてカイアシ類群集の季節変化と生物・非生物的環境との関係から、対馬暖流水の季節的消長に対応したカイアシ類群集の出現量と種組成の経年変化がイワシ個体群の動態に大きな影響を及ぼしている可能性を指摘した。
日本海区水産研究所・海洋生産部・生物環境研究室
[連絡先]  025-228-0451
[推進会議] 日本海ブロック水産関係試験研究推進会議
[専門]     水産海洋
[対象]     プランクトン
[分類]     研究

[背景・ねらい]
 多穫性魚類の個体群変動を支配するメカニズムを把握する上で、餌料としてのカイアシ類群集の特性を明らかにする必要がある。し かし、餌料カイアシ類のうち、暖海性種の初期餌料としての重要性を定量的に評価できる資料は乏しく、多穫性魚類の資源変動と餌料生物 との相互関連を解析していく上で大きなネックとなっている。本研究では日本海南西部(山口県沖定点)における暖海性カイアシ類群集の 季節変化を明らかにすると共に、それがカタクチイワシの個体群動態に及ぼす影響について検討した。

[成果の内容・特徴]

  1. カイアシ類群集の春季(3月)ピークは年間最大を示すが、少数の温帯性種からなり、他方、秋季ピーク(11月)は量的には劣るも のの、種多様性に富む温帯-亜熱帯性種からなる(図1)。
  2. カタクチイワシの秋季仔魚は春季仔魚に比較し、小規模な植物プランクトン増殖とそれに伴うカイアシ類ノープリウス幼生の小さな出 現ピークに依存している(図2)。
  3. カタクチイワシ仔魚の消化管内容物(餌料)組成は、水塊の季節的交替に伴うカイアシ類群集の季節的遷移を反映して、秋にはより多 様性に富むことを見出した(表1)。
  4. これらの結果からカイアシ類群集の量・質的変化がイワシ個体群の大きな数量変動を引き起こす重要なキィとなり得ることを指摘した。

[成果の活用面・留意点]

  1. イワシ類など多穫性魚類の資源変動予測において,その予測精度の向上を図る上で基礎資料となる。
  2. 対馬暖流の変動に対する餌料生物群集の応答の仕方を解析する手掛りが見出され、日本海における地球環境研究にも有効な知見を得た。
  3. 「漁場生産力モデル開発基礎調査」事業のなかで、カタクチイワシの主餌料となる暖流系カイアシ類を対象とした餌料生物生産のモデ ル化を検討していく上で活用できる。
  4. 仔魚の餌料環境については新知見を得ることができたが、仔魚とその捕食者(ヤムシ等の肉食性プランクトン)との相関関連に課題を 残した。

[その他]
研究課題名:動物プランクトンの群集構造の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成7年(平成3~5年)
研究担当者:平川和正、井口直樹
発表論文 :日本海南西部におけるカイアシ類群集の特性とそれがカタクチイワシ個体群
      動態にもつ意味、日水研報告、第46号、45-64p、1996
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