- 会議名: 平成22年度水産利用関係研究開発推進会議
- 会議責任者: 中央水産研究所長
- 開催日時: 平成22年11月19日(金)9:30~16:00
- 開催場所: 水産総合研究センター中央水産研究所 講堂
- 出席者所属機関及び人数:合計 72機関 88名
結果の概要
- 0)開会
主催者,中央水産研究所所長 福田雅明より開会の挨拶,来賓として,水産庁増殖推進部研究指導課 伊集院兼丸総括課長補佐様より挨拶をいただいた。
- 1)行政部局等からの情勢報告
行政部局,農林水産技術会議事務局,農林水産省総合食糧局食品産業企画課,農林水産省消費安全局畜水産安全管理課水産安全室,水産庁研究指導課,水産庁加工流通課より情勢報告が行われた。
- 2)各ブロック幹事からのブロック情勢報告
- ①北海道ブロック
水産加工業の実態と問題点として,日本海地域で沿岸資源や沖底資源がかなり減少してきている。高付加価値化への取り組みを進めている。太平洋はサケ,マダラの脱血活け締めへの取り組みを漁協レベルで進めている。サンマについては生協を通じた展開を図っている。シシャモについても生鮮で出荷して高品質の加工に取り組んでいる。オホーツクでは主幹漁業であるサケについて新製品の開発が課題である。また,ホタテガイは増産しているが小型化がすすみ,品質が課題である。道南地域ではスルメイカの漁獲変動が大きいため原料の入手等問題である。活イカの出荷も考えられているが,さらに広域流通への取り組みが進められている。食品加工では付加価値率が全国に比べると少し低い。付加価値化率の向上などが課題である。未利用水産資源のすり身化技術開発研究を実施している。また,ニシンの高付加価値化も課題である。
サケの脱血装置開発を行い特許出願を目指している。オホーツク海方面でもホタテガイの加工,生鮮状態での流通への取り組みをすすめている。水試開発の活貝柱製造技術を地域に展開していく,地元漁協加工業者に周知など進めている。グレードの低いブナザケ等の肉質判別手法の開発が課題。道南地域ではアメリカオオアカイカの加工技術開発や,品質に見合ったコストでの鮮度保持技術開発が求められている。昨年に続き生産量が2万トンを切ったコンブについては人的要因か,生物学的な要因か環境要因かどうか不明。その他として北海道の22試験機関が独法化された。
- ②東北ブロック
- 水産加工業の実態と問題点:
青森:スルメイカ,ホタテガイ,サケ等の地域主力原料の確保が困難になり,価格高騰が起きている。
岩手県:低次加工業者がサンマの不振で苦慮している。サバ,サンマ,スケソウの海外輸出は定着してきたが,スケソウはロシア船上凍結品の増加で販売不振。サンマ,サケ原料の安全確保とサンマ単価の上昇が課題である。中国,ロシアへの輸出手続きの期間短縮が求められている。高次加工業者では円高が追い風となっているが,台湾漁船が漁獲したサンマを台湾や韓国から輸入しており,国の輸入枠に到達しそうであり,水産加工原料の輸入枠を臨機応変に調製するシステムが必要。
福島県:サンマ,イワシ,メヒカリ資源減少に伴う価格の上昇と供給不足が懸念されている。
茨城:タコ原料価格の高騰や,量の確保から国内産原料も使用してきているが,輸入原料の価格の変動と量の確保が課題である。
宮城県:加工原料の多くが輸入に依存しており,輸入原料の安定確保と地元原料の有効活用が課題である。
- ③日本海ブロック
水産加工業の実態と問題点として,加工業者が小さいこと,消費が伸び悩んでいる,原料として地元原料に人気が出ているが安定供給に問題がある。その他に新しい製品作りに取り組むための対応が困難,バイヤーの過剰要求がある。最近では,サワラなど南方の魚が取れるようになっているおり,ニシンなども獲れるが,利用方法の蓄積がないことが問題である。研究の今後の取り組みと問題点として,中央水研を中心として各県共同で小型サワラを中心に利用加工についての研究開発を進めているが,去年から漁獲量が減っているのが問題。また,加工担当者が減っている問題がある。
- ④中央ブロック
情勢報告として,漁協が加工に進出する傾向があるが,在来の加工業者の減少につながるという問題がある。新しい動きとして,MSC漁業と連携した加工を行う工場も出ている。行政施策として安心安全な製品作りの始動,6次産業化への取り組み,県ブランドの認定の動きがある。研究テーマの新たな動きとして漁獲物の鮮度保持,低利用・未利用資源の有効利用,ブランド化技術への取り組み等がある。業界からの要望として,安心安全のための衛生管理技術,在来品の差別化技術,低利用・未利用資源の有効利用技術の開発などがあげられている。研究機関の問題点としては,機器整備予算の減少,研究員の人数が少なく技術のノウハウの継承が困難になっている。
- ⑤近畿・中国・四国ブロック
岡山県:ノリ,カキ養殖が大幅に減少している。水産加工関連では,水産試験場の再編統合により,開発利用室が設置され,未利用・低利用魚の付加価値向上技術開発等に取り組んでいる。また,シログチ等の小型魚の付加価値向上技術開発について検討している。
広島県:瀬戸内海の水産物を利用した新商品の開発に関する相談が増えている。
徳島県:冷凍食品の割合が多くなっているが生産量では3割減少している。依頼分析では,細菌検査等に対応しているが技術相談では,衛生管理,新商品開発などに対応している。特に新商品開発に関する相談が増加している。来年度から県産品を利用した商品開発を計画している。
香川県:佃煮製造業での研究会活動が活発に行われている。
愛媛県:八幡浜地区において漁業,生産量ともに減少している。漁獲金額では低価格魚種や変動の激しい魚種が多いことが問題となっている。こうした中,未利用魚・低利用魚の新たな水産加工品の開発要望が強くなっている。
高知県:シイラ等の商品開発に取り組み品質管理当の指導を行っている。企業からの情報・ニーズを受けて素早く対応できるような関係を築くことが重要。
- ⑥九州・沖縄ブロック
水産加工業の実態と問題点として,漁獲量の減少による原料の入手が困難になっている。一方,未利用魚の新商品化,鮮度保持の取り組みが漁業現場でなされている。研究の現状と今後の取り組みとして,加工施設はオープンラボのため,漁村女性部等により利用されている。研究テーマによっては,「アイゴの加工手法開発」など複数県で取り組んでいる事例がある。また,従来の新製品開発から流通改善,鮮度品質保持関連技術に研究がシフトしている。ブロックが広範囲であることから共通テーマの設定が困難であったが,共通テーマを前もって設定することなども提案されている。
- 3)中央水産研究所から研究課題等の情勢報告
利用加工部長より,中央水産研究所利用加工部の情勢報告として,利用加工部活動概況の説明を行った。
現中期計画における大きな5つの柱と研究態勢について説明した。安心な水産物のための課題として,「水産物,水産加工品の産地,原料偽装問題」への対応として,ウナギ,アサリ,ノリの原産判別技術開発について説明を行った。また,安全な水産物のための課題として,「貝毒による中毒の防止」「貝毒発生による生産量の減少軽減」への対応として新たな測定手法の開発等に関する説明を行った。高付加価値化のための課題として,「高品質でおいしい水産物への消費者の要望」「生産者の魚価上昇の要望」への対応として,ノリの紫外線吸収物質,小型魚処理機械の開発,サンマのグローバル商材化技術開発について説明を行った。今後も利用加工部は研究開発推進のため,本推進会議を基礎として都道府県,団体,民間等の研究機関との連携を深め,全国水産利用加工の研究開発コーディネーターとしての役割を果たしたい旨の説明があった。一方,研究成果の普及活動として,地域水産加工技術セミナーはこれまで各地で14回開催しており,好評を得ており,第15回は来年1月に千葉県銚子市での開催を予定しているとの説明があった。
- 4)平成21年度本推進会議等のフォローアップ
利用加工部長より,平成21年度本推進会議等のフォローアップについて説明があった。昨年度の会議で1.漁業者が製品の高品質化をアピールできために品質測定技術の開発が必要であること,2.水産物の流通形態が変化する中,新たな鮮度指標が必要になっていること,3.ヒスタミンの管理技術が必要性になっていることが確認されたため,これらに関連する研究を推進するために農林水産省の事業に応募し,2課題が採択された。「バイオジェニックアミン類蓄積抑制技術の開発による日本産水産物の競争力強化」では,わが国の現状と課題提案の背景について説明するとともに,ヒスタミン蓄積抑制技術の開発を行い国際的に通用する水産物検査・製造マニュアルを作成することを目標とすることが報告された。「魚価上昇および高品質な水産物,水産加工品の提供を目指した品質測定機器の開発」では,課題提案の背景が説明され,流通現場等では簡便・迅速・正確に測定できる小型で安価な機器開発が必要となっているため,ATP等核酸関連物質を指標とした鮮度測定機器の開発,電気伝導率を指標とした資質等の品質測定機器の開発を目指すとの報告があった。一方,採択が見送られた新たな鮮度指標関連課題については,本推進会議により新たな鮮度指標の提案を企画したいとの提案が出された。
- 5)平成22年度都道府県研究機関の課題と研究ニーズのまとめ
- ①研究課題のまとめ
利用加工部長より各県報告の利用加工研究課題の資料についての説明があり,今後,この資料を基に各県の連携を深めて欲しいとの説明がなされた。
- ②研究ニーズのまとめと回答
平成22年度に各公立研究機関より出された研究ニーズに対して,利用加工部長より説明がなされた。
- 宮城県産業技術総合センターより
「前浜魚の活用促進」ニーズが出された。水研センターからの対応案として,研究成果の公表,各地域ブロックでの情報交換,水研センターの研修制度等の活用等が出された。
- 水産大学校より
「もったいない水産資源から食品中間素材の製造技術開発による地域水産業活性化計画」ニーズが出された。水研センターでも重要な研究課題と認識しているため,次期中期計画に基づき今後の対応を検討する旨の説明があった。
- 地方独立行政法人北海道総合研究機構より
水産物における寄生虫の存在状況把握と可視化及び除去技術の開発」ニーズが出された。昨年度から出されているニーズであり,情報を収集して関係機関に情報を提供することや,食の安全・安心の観点から重要な研究課題と認識しており,次期中期計画に基づき今後の対応を検討する旨の説明があった。
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また,アンケート調査によるニーズへの対応案が示された。「各地域の研究機関と協議したい項目」において出された前浜魚の活用,低未利用水産資源の現状と利用可能性では,利用加工部のこれまでの研究成果の公表で対応するとともに,鮮度が重要なポイントとなるとの認識が示された。全国一律の品質評価を導入することによる利点と問題点の検討については,全国一律の評価は難しいが,本推進会議で推奨できる客観的新品質評価法の確立を目指し,課題化を提案したいとの説明があった。中央水研と地方水試との共同研究の推進では,中央水研の依頼研究員,研修制度等の利用,地域ブロックでの情報交換による対応が示された。
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「研究ニーズ」への対応として,サンマについては,H19-21実用開発事業にて研究を実施しており,
水産学会でシンポジウムを開催しており,研究成果が出版される予定であり,
これらの情報を参考にしてほしいとの説明が行われた。
資源管理と投棄魚の有効利用技術開発では,
利用加工部のこれまでの
研究成果の公表で対応するとともに,地域ブロックでの情報交換による対応が示された。
水産加工品の品質劣化指標のマニュアル化については,
個別の品質評価や衛生管理について対応することは困難であるが,
品質測定法の情報提供や研修受け入れで対応したいとの説明があった。
職人や検査員による目利きや品質評価の客観化では,本推進会議で情報提供するとの説明があった。
現場での簡易な鮮度測定技術の開発,ヒスタミン生成機構の解明については,
本年度より実用開発事業で研究を開始しており,研究成果については随時,公表する旨報告された。
- 6)品質安全研究会,資源利用研究会報告
本推進会議に先立って行われた品質安全研究会および資源利用研究会の2研究会の報告が,研究会担当室長より行われた。
品質安全研究会では,鮮度,品質,安全面では貝毒,ヒスタミン,メチル水銀等に関連する30件(発表29件)の研究発表があり,活発な論議が行われた,との報告があった。
資源利用研究会では,未利用資源の有効利用,高度利用,食品機能に関する研究等,28件の研究発表が行われ充実した論議が行われた,との報告があった。
- 7)研究成果情報の報告 (品質安全研究会,資源利用研究会)
品質安全研究会,資源利用研究会に提出された12課題の成果情報の検討状況の報告が担当室長より行われた。全ての課題は研究会で論議後,掲載に向け今後修正が行われる,との報告がなされた。
- 8)重点検討事項
- ①水研センター利用加工研究関連第二期中期計画成果概要説明
本年度の重要検討事項について,利用加工部長から利用加工研究関連第二期中期計画成果概要の説明が行われた。中期計画(ウ)水産物の機能特性の解明と高度利用技術の開発では,ホタテガイ卵巣より探索した紫外線吸収アミノ酸,養殖ハマチ加工残渣に含まれるコラーゲンの高効率抽出法の開発とすり身への添加技術,水産物の科学的評価手法の開発,水産物の品質を維持できる最適冷凍温度設定,養殖魚における肉質改善技術開発(飼料へのセレン補給による栄養改善),未利用成分に含有する有効成分としてアコヤガイ中のセラミドアミノエチルホスホン酸の確認について報告された。(エ)安全・安心な水産物提供技術の開発では,魚類のPCR等による簡便な判別法の開発,ノリ,アサリにおける微量元素組成分析による国産・外国産の識別法,脂肪酸組成分析による天然・養殖アユの判別法,サンマ,クロマグロを対象とした近赤外分析による凍結履歴判別手法の開発,マアジ鮮魚について日本初のトレーサビリティ試行,ヒスタミン生産を防止する水産発酵食品用スターターの開発,脂溶性貝毒ペクテノトキシン6の毒性評価と新規ペクテノトキシンの発見,下痢性貝毒簡易測定キットの開発,新規貝毒の質量分析法による一斉分析法の開発,有害元素の防除等に関する技術として,新規セレン含有アミノ酸セレノインによるメチル水銀の解毒の可能性について報告された。
- ②次期中期計画の研究重点課題
水研センター本部から次期中期計画の研究重点課題について説明が行われた。第三期中期計画案では,出口を明確にして整理をし直しており,利用加工関連課題は(4)水産業の発展と安全・安心な水産物の供給のための研究開発(ウ)安心・安全な水産物供給技術の開発に含まれており,柱となる研究概要について説明された。
- ③水産物の品質・評価指標の研究開発について
本課題を設定した趣旨について利用加工部長から概要が説明された。各ブロックへのアンケートの結果,流通・経営の多角化,消費者の安心・安全への要望,品質向上への対応など多岐にわたる対応が必要になっているため,各ブロックの要望に対応すべく,情報提供のために本課題を設定した旨説明が行われた。
中央水研利用加工部品質管理研究室木宮研究員から「水産の現場での科学的品質評価に向けて」と題する情報提供が行われた。ノルウェーを例に鮮度や異物検出についての品質評価法の自動化技術について紹介され,現場での実用性を考慮した非破壊計測の利点があげられた。また,演者らの研究例として可視・近赤外分光法を用いたメバチの脂肪含量測定による品質評価法が紹介され,目利きに代わる科学的品質評価法としての可能性が示された。
釧路水試加工利用部辻研究主幹からは「客観的な品質評価による生鮮魚のブランド化」と題する発表が行われ,「ブランドさんま」を例に鮮度保持の現状と客観的な品質評価について紹介された。
水産大学校食品科学科福田特任教授からは「ユーザーは冷凍技術や冷凍装置について責任ある説明を求めている」と題する講演が行われた。コールドチェーンシステムによるマグロ肉の超低温冷凍保管の例や凍結速度,冷凍保管温度,解凍における問題点が紹介された。また,冷凍温度帯でも生化学反応は進行することから冷凍温度帯で生化学反応を制御することにより,解凍後の魚肉の品質を改良できることや冷凍魚肉に品質評価指標として,筋肉タンパク質,筋肉細胞膜等が良い指標となることが示された。これらの知見を合わせて,品質変化の定量化で経済的適性温度プログラムを作る必要性が示された。
- 9)全体討議
利用加工部長から,前浜資源の利用には高付加価値化と有効利用の二つがあるとの認識が示された。また,冷凍技術,新たな鮮度指標技術の必要性が指摘された。有効利用の課題と問題点として,原料確保が不安定,技術開発だけではなく開発現場での応用が重要,漁獲から加工までの一貫した開発利用が重要,などの点があげられた。すり身加工の問題点として,全蒲からは,海外のすり身原料の供給が増加し,未利用魚の利用が困難になっている等の現状が紹介された。また,青森県から未利用魚利用の取り組み例が紹介された。また,長崎県からは離島における前浜魚の利用現状や加工における問題点等が紹介された。また,宮城県からは,サンマ等の前浜魚の利用加工技術開発の現状が示され,外国産すり身原料の増加による前浜魚利用への不安が示された。
中央水研担当研究室から重要検討事項に関わる研究プロジェクトの提案として「水産物の鮮度評価要因の探索及び評価法の開発」についての説明があった。提案の背景として,漁獲,流通システムの進歩に沿った簡便・迅速で現場対応可能な新たな鮮度評価技術の開発が求められていること,そのために必要な技術的課題について説明され,本年度の提案に向けての協力が要請された。
- 10)その他
水研センター本部研究支援課から,共同研究機関との契約方法の変更について,従来の中核機関と共同研究機関との再委託方式ではなく協定書の締結によるグループ提案方式となるとの説明があった。22年度実用化技術の新規課題については,協定書の締結によるグループ提案方式により事業を実施していることや,グループ提案方式により,グループとしての一体性が高まる利点があるため,今後水研センターが立ち上げる事業についてもグループ提案方式とすることを検討していきたいとの説明があった。協定書に知事印が必要になる県もあるかもしれないので,事前調整を進めてほしいとの要望が出された。
- 11)閉会
推進会議の閉会を受け,水産総合研究センター石塚理事より,推進会議参画構成研究機関に対して,23年度以降の次期中期計画の概要を紹介した,大きくは変わっていないが力を注ぐべき点を全面に出している,重点化した事は予算だけではなくニーズや突発事象に対応するために不可欠なことであり,産官学の連携が必要との挨拶で,本推進会議を閉会した。