- 会議名: 平成21年度水産利用関係研究開発推進会議
- 会議責任者: 中央水産研究所長
- 開催日時: 平成21年11月20日(水)9:00~16:00
- 開催場所: 水産総合研究センター中央水産研究所 講堂
- 出席者所属機関及び人数:合計 70機関 88名
結果の概要
- 1)平成21年度水産利用関係研究開発推進会議の運営について
利用加工部長より,中央水産研究所の推進会議体制および,本水産利用関係研究開発推進会議の目的および運営規程,細目について概略の説明を行った。本水産利用関係研究開発推進会議の細目において,円滑に運営を行なうために,事務局長を中央水産研究所業務推進部長から中央水産研究所利用加工部長に変更したいとの提案があった。本件について,全会一致の賛成にて,提案が認められた。
- 2)行政部局等からの情勢報告
- ①農林水産省関連部局からの情勢報告
- 1.農林水産省消費安全局畜水産安全管理課水産安全管理課水産安全課
事故米の問題発生以来,農林水産省も消費者に対する食の安全性の確保という観点で対策作りを重点的に行っている。水産物については安全・安心,有害物質,有害微生物,リスク管理をキーワードに施策の策定を行っている。特にリスク管理に関しては,リスクの現状を調査するとともに科学的な根拠を明らかにした上で,具体的な施策を実施する必要性があると考えている。優先的にリスク管理する物質はヒ素,カドミウム,メチル水銀,ダイオキシン,麻痺性貝毒,下痢性貝毒である。平成22年早々,JECFA(WHO(世界保健機関)とFAO(国連食料農業機関)が1つになり,FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Addition(JFCFA))でヒ素とメチル水銀についてリスク管理の見直しのための専門家協議が行われる予定である。この国際的動きに注目している。カドミウムについては,10月に厚生労働省で基準値を設定した。貝毒については海水温等,海洋環境の変化に伴い,新たな貝毒発生の可能性があり,その対応のために研究を実施中である。
- 2.農林水産省総合食糧局食品産業企画課
農水省補助事業として,国内の食品機能性研究者,研究機関のデータベースを作成しており,この情報により日本各地の食品の高付加価値化に必要な技術的情報を提供する予定である。現在の登録者数は機能性関連研究者が487名である。今後,本推進会議に参画する研究者の登録と活用をお願いしたい。農商工連携については,本年5月に成立した農商工促進法の推進に取り組んでいる。高齢化や後継者不足の農林水産業従事者,消費低迷の商工業者,両者にとって苦しい状況であり,互いに強みのある経営資源で連携し,市場価値のある高付加価値商品と地域の雇用を生み出すことを期待している。促進法に関しては経産省とともに必要な予算措置,各種特例で連携のあと押しをしたい。水産関係では,①ホタテ貝殻を利用した内外装用壁材の開発と販路開拓(北海道)②乳業メーカーの殺菌・衛星管理技術を活用した高品質はシラス製品等の開発・製造・販売(愛知県)などがある。一層の取り組みのため支援をしたい。まずは農,商,工のマッチングが必要であり,その有益な情報提供として「農商工連携宝探しマガジン」を創刊した。
- 3.農林水産技術会議事務局
次年度研究予算に関する説明:委託プロジェクト研究と競争的研究費(実用技術開発事業)がある。前者はトップダウンタイプで,現在3本予算要求している。後者はボトムアップ型である。実用技術開発事業の次年度は研究領域設定型,現場提案型,緊急対応型の3つのタイプがある。現場提案型は平成22年度では「地域活性化のための技術開発支援事業」に変更している。「現場実証支援型研究」は水産に関しては従来の現場提案型と変わりない。「地域研究機関連携強化型」は県をまたいだ連携を支援している。研究領域設定型は基本的には平成21年度と変わりない。「食品の安全確保及び家畜の防疫対策の推進」は平成22年度から「レギュラトリーサイエンス新技術開発事業」として要求・実施の予定である。
実用化技術開発事業の採択については,予算要求との関係で,遅れる可能性がある。年度内に1次審査まではやる予定である。課題選考における審査基準(資料)特に重視しているのは,科学的・技術的観点。点数配分も大きくなっている。研究方法,研究体制等研究計画の効率性が重用視される。高い成果の課題については,研究紹介として,ホームページより情報入手可能である。
- 4.(独)農林水産消費安全技術センター
(独)農林水産消費安全技術センターは,さいたま新都心,神戸,福岡等,全国に各地域センターがある。JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)の検査関連,有機JAS(有機農産物やその加工食品に関する日本農林規格)の登録認定,肥料資料の安全性,農薬の承認等の検査・研究業務で,700名の体制で実施している。表示監視部では食品の表示,偽装,品質表示基準の検査を実施している。水産物ではマグロ,アジ,サバ,塩蔵ワカメ,海藻類,あさりなど原産地が適性に表示されているかを様々な手法での検査を実施している。本年度の主な偽装例として,紅ズワイガニをズワイガニとして表示した事例,公正取引委員会からアジの塩干品についてオランダ産を静岡産として出荷した事例,湯通し塩蔵わかめの原産地偽造の事例があった。
- ②水産庁部局からの情勢報告
- 1.水産庁研究指導課
大型クラゲは例年よりも早く,範囲も北海道,九州,オホーツク太平洋側も広範囲にわたり出現している。ナルトビエイの被害も重大である。有害魚種による漁業被害も総合対策でザラボヤも平成21年度から対象になった。
各種事業に関し,従来の価格のみによる自動落札方式とは異なり,「価格」と「価格以外の要素」(例えば,初期性能の維持,施工時の安全性や環境への影響)を総合的に評価する「総合評価落札方式」が採用され,多くの事業が本方式に移行する。農林水産省のホームページで確認していただきたい。アサリ資源全国協議会では国産あさりの復活に向けて現地検討会など,話し合いの場として作られた。復活に向けた提言作り,今後の問題想定とその対応策等を検討している。地域水産試験研究振興協議会で,場長会,水研センター,水産庁の意見交換会を実施した。この中で,漁海況モニタリングの継続性の問題等が論議された。これらの結果と対策については水産庁のホームページに公表する予定である。
- 2.水産庁加工流通課
水産加工業は7割が中小零細であり,これらの加工業の体質を改善する施策が必要である。現在,4つの大きな政策で支援(融資)を行っている。①水産加工業の経営安定化:融資の見直しには至っていないが,法律の見直しも含め,できるだけ現在の加工業の現状を検討した上で対策を講じたい②加工原料の安定確保に係る支援:昨年来,すり身原料が確保できない。原料をどのように安定的に確保するか,従来使われていない水産資源の利用が課題である。③消費者に信頼される水産物の供給:水産食品のCODEX(世界の食品規格基準)への対応として,添加物等の食品基準に水産業界の現状やニーズを把握し,それらを基準値設定に盛り込みたい。現在の問題点は食品添加物に関する見直しである。水産加工業でも添加物は幅広く使われているものの,天然由来の添加物には従来規制がなかったが,基準を作る必要があろう。今後,水産関連で食品添加物の使用実態等,都道府県試験研究機関から情報を得たい。④水産加工品の新たな需要の創出:これまですり身は蒲鉾練り製品など既成概念の製品のみであった。このままでは水産加工業の頭打ちとなるため,今後新規製品開発することが重要だと考える。伝統食品も必要であるが,すり身原料を離乳食,高齢者向け,介護向けなどに活用するなど,水産加工業としても新製品,新ニーズ等を考慮して製品開発していただきたい。
水産庁による予算措置による支援については,国産原料確保を視野に入れた利用資源活用プロジェクトを拡大する。大手企業の参入も期待している。零細水産加工業者は大手企業や研究機関と連携して,応募してほしい。
3)各ブロック幹事からのブロック情勢報告
- ①北海道ブロック
来年度より北海道立の研究機関が独立行政政法人化する。平成13年度以降,研究予算の総額は1億~1億2千万で推移しているが,道単独の予算は減少してきており,道単費の比率が平成13年度の64%から,平成21年度には37%へと低下し,外部資金への依存度が高まっている。水産食品関連職員は平成11年の68名から現在は59名と13%減少している。年齢構成は平成11年の平均41歳,平成21年には平均47歳と,高齢化が急速に進んでいる。
- ②東北ブロック
平成21年9月に開催された平成21年度東北ブロック水産試験場等連絡協議会利用加工分科会の開催について報告があった。本分科会には9県の参加があり,各県の水産加工業の取り組み,農商工連携体制につい状況,魚食普及のための食育への参画状況,加工業者等への衛生管理指導について,クレーム処理への対応,水産加工機械施設の解放状況,機器整備の現状,研究資金の獲得状況等に関する報告と協議を行った旨の報告があった。ブロック内での独立行政法人化の動きとして,青森県では平成20年4月から実施された。他の県では現在動きはないが,全国の情勢によって独法化の可能性がある。予算は各研究機関で県単予算が年々減少しており,競争的資金,民間外部資金,などを用いて対応している。今後,地方水試の役割として研究と並び,水産加工指導が重要であるものの,予算削減の影響で機器の導入,新規分析,加工機械の導入が困難な県もある。助成措置が必要である。
- ③中央ブロック
中央ブロック各県の水産資源状況とそれに対する研究体制およびエチゼンクラゲの漁業被害の実態等の報告がなされた。今後の研究として,低・未利用資源や加工残滓の有効利用,水産物のアレルギー起因物質の制御技術開発が重要である。研究課題は東京都,千葉県では低・未利用資源や残滓の有効利用,神奈川県はカジキマグロのヒスタミンに関する研究,静岡県はカツオを原料とした応用研究が主要課題となっている。
- ④近畿・中国・四国ブロック
各県の研究予算状況,研究人員の推移等の報告がなされた。本ブロックは特に集まって会議を開催していないが,農研機構や産総研とブロック内4県の公設試で地域の農産物の健康機能性成分の分析マニュアル開発などの連携の事例があり,今後も人的交流や予算獲得に向け研究連携を図る予定である。
- ⑤九州・沖縄ブロック
各県の水産業の現状と研究体制が報告された。九州の水産業は各県,気候,海域状況の違いもあり,各県で漁獲魚種の違いにより産業構造も多様性に富んでいるものの,各県とも加工業者は中小規模が多い。地域水産業の振興を目的として,中小規模の加工業者向けにオープンラボの実施を積極的に行っている。本ブロックの重点的な課題は,養殖トラフグ,アサリ,ハマチ,海藻などが対象となっている。また,水産物の付加価値向上,未利用資源の有効利用,鮮度保持技術開発,機能性研究等の課題が実施されている。一方,加工業者,漁業者のために水産加工機器を解放するオープンラボは各県で実施しており,年間1000人以上が利用する県もある。最近の水産加工業の問題として,スケトウの原材料や地元産の原料の資源と価格の変動が大きいこと,共同研究の中核的役割を担える高度な人材の獲得と育成が必要であること,漁業者と加工業者の,製品の品質管理,供給体制が充分に整備されていない等があり,今後,これらの対策が必要である。地域水産加工業者への指導・研究のニーズが高いにもかかわらず,利用加工研究の価値が正当評価されておらず,施設の老朽化,多様性への対応に支障をきたしている。
- ⑥日本海ブロック
ブロックの漁獲状況は,サワラおよびサゴシは京都府,石川県で漁獲が多い,秋田県ハタハタは安定推移,兵庫県のイカナゴは極端な不漁、石川県のスルメイカ,鳥取県のマグロは減少傾向である。本年はエチゼンクラゲの来襲が各県に及んでいる。独立行政法人化は鳥取県のみが実施されているが,他県では大きな動きはない。予算については,鳥取県で現状維持の他,他県は毎年県単が10-20%削減である。各県,競争的資金の獲得を目指すものの,地元に密着した研究,組織,施設維持には県単予算が必要である。本年度から3年間の実施計画にて,本ブロックが中心となって立案したプ農林水産技術会議実用開発事業「日本海で急増したサワラを有効利用するための技術開発」が開始した。しかし,現在のところ,本年はサワラ(サゴシ)の漁獲が低迷している。
4)中央水産研究所から研究課題等の情勢報告
利用加工部長より,中央水産研究所利用加工部の情勢報告として,利用加工部活動概況の説明および部が取り組んでいる研究内容,研究課題の説明を行った。
平成21年度に実施中47課題概要説明がなされた。平成21年度よりの新規課題は,技術会議実用技術開発事業で,【魚介類の出荷前畜養馴致による高品質化技術開発】にて,「温度馴化に伴う遺伝子発現の変化と生体制御」,「生息環境制御によるウニ類の成熟メカニズムの解明」,【魚食によるメチル水銀のリスクと交絡因子の解析】にて「水産物の水溶性及び脂溶性ヒ素の毒性解明とリスク低減技術の開発」,「メチル水銀のリスク低減化技術開発」,【血合肉褐変防止技術を基盤とする国際競争力の推進と海外市場展開】にて「エノキタケ新抗酸化成分の抗酸化活性機能発現メカニズムの解明」,【発酵・塩蔵水産食品のヒスタミン低減化技術の開発】にて「発酵・塩蔵水産食品製造におけるヒスタミン生成菌の分布および生成因子の解明」,「水産物における病原微生物のリスク低減技術の開発」,および農林水産省消費安全局委託事業(貝毒安全対策事業)にて「新規貝毒高感度分析法の開発及び貝類の毒化状況の調査」に取り組むことを報告した。また,継続課題として,水産物の安全・安心性の確保,水産物の機能特性の解明と高度利用技術の開発,その他,各種研究ニーズへの対応の現状を含め,利用加工部での実施課題の概略と成果を報告した。これらの研究推進には各研究機関との連携が必要であり,今後も利用加工部は研究開発推進のため,本推進会議を基礎とした,都道府県,団体,民間等の研究機関との連携を深め,全国水産利用加工の研究開発コーディネーターとしての役割を果たしたい旨の説明があった。
一方,研究成果の普及活動として,地域水産加工技術セミナーはこれまで各地で13回開催しており,好評を得ている。第14回は長崎にて平成22年2月19日に開催する。また,水産総合研究センター主催の,研究と産業界の連携促進を目的とした水産技術交流セミナーにこれまで,水産食品の機能性,水産食品の安心・安全,カタクチイワシの高度利用等の講演で参加している。今後もこれらの講演会,セミナーへ積極的に参加し,利用加工研究の成果の普及に努める。来年度の利用加工部の研究開発の方向性は,①水産業の健全な発展と安全・安心な水産物供給のための研究開発,②高付加価値化のための基礎的基盤的研究,この2点を重点的に取り組む予定である,との報告がなされた。
5)平成20年度本推進会議等のフォローアップ
利用加工部長より,平成20年度本推進会議等のフォローアップとして,説明があった。近年,地域の水産資源の減少とともに,加工原料の原料魚も減少するとの問題がある。地域で加工原料,特にすり身化可能な魚資源を水産加工品の原料とし,地域のブランド化するための技術の開発が必要であり,これら技術開発の全国的取り組みを提案した。しかし,その後,この取組は水産庁,水産加工業界,団体等から予算的支援を得られるようになり,各地域で地域漁獲物を加工原料として有効利用する取り組みが活発になってきた。本推進会議でも全国各地の研究機関が参画できる低・未利用資源の有効のための研究開発の課題化を模索したものの,地域に密着した魚はそれぞれ加工特性が異なること,地域によって加工業者の経営規模が異なること,地域によって資源種と量が異なる事等から,課題として1つにまとめることは難しいとの結論に達した。今後,利用加工部は,各地のこれら低未利用資源の有効利用技術開発の手助けとなるような,汎用的な高度加工技術の開発を中心に基礎的なフォローアップを行う予定である。また,利用加工部では低未利用資源の有効利用との目的で,カタクチイワシの高度利用技術開発に関する課題を実施している。本課題で開発した利用技術はカタクチイワシに限らず,各地域の雑魚でも応用できる技術と考えられることから,要望があれば各地域で積極的に講習会等を実施する予定である。
さらに,本推進会議では,地域での低未利用資源の有効利用のための情報提供として,全国蒲鉾加工品協同組合から「地域低未利用資源すり身化原料としての現状と今後」と題して,低未利用資源の利用の現状,利用加工部品質管理研究室から,雑魚の鮮度保持に最適な冷凍・解凍技術の紹介として「品質を維持した冷凍・解凍技術」の情報提供を行う,との報告がなされた。平成21年度水産利用関係研究開発推進会議のフォローアップに関し,以上の説明を行い,出席者の了解を得た。
6)都道府県研究機関の課題と研究ニーズのまとめ
研究課題のまとめ
利用加工部長より各県報告の研究190課題の概要の報告があり,今後,この資料を基に各県の連携を深めて欲しいとの説明がなされた。
研究ニーズのまとめと回答
平成21年度に各公立研究機関より出された研究ニーズに対して,利用加工部長より説明がなされた。
- 北海道立中央水産試験場より「生鮮魚介類の寄生虫防除に関する研究」ニーズが出された。本研究ニーズは高いものと認識している。今後,養殖研究所と連携し,防除技術開発に向け検討を行うとの説明がなされた。
- 北海道立中央水産試験場より「水産物の原料特性に関する研究」ニーズが出された。限りある水産資源を有効利用することは中央水産研究所だけではなく,都道府県試験研究機関でも重要なテーマであると考える。地域に目指した研究推進をお願いしたい。利用加工部では,基礎的な技術開発は今後も継続して行い,積極的な情報提供を行うとの説明がなされた。
- 北海道立釧路水産試験場より「冷凍水産物の品質評価手法及び品質推進手法の開発」ニーズが出された。冷凍水産物の解凍技術と品質に関しては,本推進会議にて利用加工部より情報提供を行う。また,冷凍水産物の品質管理技術に関しては,水研センター交付金プロジェクト「まぐろ類の凍結保管における省エネルギー化に向けた適正温度管理設定」に冷凍状態と品質を科学的に分析し,水産物の品質維持に最適な冷凍手法を明らかにし,成果を速やかに公表する,との説明がなされた。
- 北海道立食品加工研究センターより「未・低利用水産資源に存在する機能性成分の有効活用システムの確立」のニーズが出された。機能性成分の抽出濃縮等の技術開発は一研究機関のみでは困難であり,他機関あるいは民間との連携が不可欠であると考えている。利用加工部でもノリから紫外線吸収成分の探索と機能評価を実施し,有効な成分であることを明らかにしている。本課題では,最終的に,民間企業と連携して製品化までを視野に入れており,これが製品化すれば良いモデルケースとなると考える。今後の進展および成果は公表していくので,参考にしていただきたいとの説明がなされた。
- (独)青森県産業医術センター食品総合研究所より「HACCP対応高鮮度魚類利活用研究事業」のニーズが出された。利用加工部では農林水産省技術会議の実用化開発事業にて,「サンマのグローバル商品化のための高鮮度・高効率加工技術の開発」にてサンマのグローバル商品化に向け,HACCP対応型漁船設計,漁港整備の要件を検討中である。また,超高鮮度魚類の加工技術開発についてはHACCP対応の水産物流通システムも大きな問題である。これらの問題も含めて,参考となるような成果を公表するので利用していただきたい,との説明がなされた。
- 静岡県水産技術研究所より「深層水の機能性評価研究」のニーズが出された。本年度より,利用加工部では静岡県からの委託事業「駿河湾深層水の機能性評価研究(H21-23)を実施している。本事業では,駿河湾深層水の処理水(ED水等)について,高ミネラル特性に着目した新たな健康面における利用効果を解明することにより駿河湾深層水の利活用促進を図ることを目的としている。今後,この事業を円滑に推進し,成果を積極的に公開する,との説明がなされた。
7)品質安全研究会,資源利用研究会報告
本推進会議に先立って行われた品質安全研究会および資源利用研究会の2研究会の報告が,研究会担当室長より行われた。
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- 品質安全研究会では食品の安全・安心,高品質な加工品の製造技術,高鮮度保持技術,冷凍技術,分析法など34課題の研究発表が行われた。食品の安全関連ではビブリオ,貝毒,魚醤油等の発酵食品中のヒスタミン生成抑制,食品の安心関連では,フグの種別判別,ウナギ加工品の原産地判別技術,水産物品質改良関連では,蓄養技術開発,冷蔵・冷凍技術と品質,品質を維持した解凍技術等の研究発表が行われ,活発な論議が行われた,との報告があった。
- 資源利用研究会では未利用資源の有効利用,原料特性に関する研究,肉質改善技術開発等,35課題の研究発表が行われた。なかでも,肉質改善技術開発に関する研究発表では、マグロのやけ肉に関する研究の発表が充実し,いろいろな視点からやけ肉発生の原理,防止方法等の研究発表が行われ,充実した論議が行われた,との報告があった。
8)研究成果情報の報告(品質安全研究会,資源利用研究会)
品質安全研究会に提出された7課題,資源利用研究会に提出された6課題の成果情報の検討状況の報告が担当室長より行われた。すべての課題は研究会で論議後,掲載に向け今後修正が行われる,との報告がなされた。
9)利用加工分野と経済研究分野,養殖研究分野との連携協力について
水産総合研究センター中央水産研究所水産経済部長より,利用加工分野と経済研究分野との連携協力について,養殖研究所生産システム部長より,養殖研究所の情勢報告とともに,今後の利用加工分野との連携の重要性について報告が行われた。
10)重点検討事項
本年度の重要検討事項について,利用加工部長から概要説明が行われた後(本報告書,5)平成20年度本推進会議等のフォローアップ参照),昨年度の「安全・安心・エコ地域漁獲物高付加価値すり身加工品ブランド化の構築に向けて」のフォローアップとして,国蒲鉾水産加工業共同組合連合会 伊東尚武 専務理事より,「地域低未利用資源のすり身化原料としての現状と今後」と題し,すり身の需給量・生産量の推移,原料資源状況,低・未利用魚の利活用対応の変遷,米国産スケトウダラでフィレーやドレスの生産量が増加する一方,すり身生産量が減少している。昨年のすり身高騰後は価格も一段落し,すり身生産が増え,在庫量も増加した。本年9月末の供給量と在庫量は例年並みであるもの,来年の漁獲見込み量は81万トンであり,来年の供給は厳しい状況である。さらに,世界的な白身魚需要の増加により,今後の供給ひっ迫が予測される中,低・未利用魚のすり身化の水産庁補助事業を利用し,漁業者と加工業者のコミュニケーションを密にし,対応することが重要である,との講演をいただいた。
また,地域の低未利用魚を利用するためには原料確保も重要な課題となる。低・未利用魚は安定的な漁獲と供給が保証されないため,冷凍保存での原料保存が必須となる。そのためには品質を維持した冷凍・解凍技術が必要である。この技術情報として利用加工部品質管理研究室今村研究員より「品質を維持した冷凍・解凍技術」として,情報提供をおこなった。この中で,マグロは色調の劣化(褐色化)が品質評価の低下の指標となるが,詳細な条件検討によって良好な色調を維持した新しい解凍技術が紹介された。
一方,地域の取り組みとして,本年度より日本海ブロックの研究機関が主体となり,農林水産技術会議実用開発事業「日本海で急増したサワラの新需要創出技術の開発」の研究紹介が行われた。この事業では,近年,日本海で漁獲量が増加しているサワラ(サゴシ)の有効利用を各県で取り組み,最終的に地域振興に結びつく製品作りを目標としている。本研究計画と設定目標について,本事業の利用加工研究責任者である利用加工部長より説明がなされた。今後,低未利用資源の有効利用のための研究開発は地域に根ざした地域発の研究課題化,さらに各ブロックでの研究機関連携での研究課題化への取り組みを行っていただきたい。そのためには利用加工部は課題提案のための取りまとめとしての役割を担うとともに,積極的に基盤的技術開発とその成果の普及活動を実施していく,と今後の取り組みを解説した。
本年度の推進会議のもう一つの重要検討課題として「水産物および水産加工品の新しい品質評価法の開発に向けて」の概要説明がなされた。近年,水産流通システムが発展するにも関わらず,水産物の品質評価法はいまだにK値や色調,pH等の測定値が使用されている。これらの評価法は,感度は良いものの,専門的知識と器具と時間が必要であり,現場で,生産者や流通業者が利用できる評価法ではない。今後,魚価を向上させるため,また,消費者に安心・安全・高品質の水産物を提供するためには現場に対応できる,安価な評価するための手段が必要であり,そのためには機器の開発が必要だと考える,と概要が説明された。これに関して,水産物の品質表法に関し,利用加工部品質管理研究室平岡芳信室長より,「水産物の鮮度・品質評価技術の現状と今後」と題し,情報提供を行った。魚介類の鮮度判定方法について,多種多様の鮮度判定法(官能的方法,化学的方法,物理的方法,微生物学的方法等)はいずれも一長一短で多くの魚介類に利用できる簡便な科学的方法はなく,依然として経験にたよっている現状にあること,魚介類鮮度を簡便,迅速,的確に評価する方法を最近のニーズに合わせて開発することは緊急であり,現場では強く要望されている,との内容であった。
水産物の品質評価を現場で実施するには小型で安価な機器の開発が必要である。そのためにはセンサー技術の導入が考えられる。センサー設計研究が専門である,筑波大学大学院数理物質科学研究科物性・分子工学専攻長 鈴木博章教授より「最先端のセンシング技術を水産の現場」と題して,最先端のセンサー技術の紹介をいただいた。
11)全体討議
利用加工部長の「水産物および水産加工品の新しい品質評価法の開発に向けて」の重要検討事項に関する概要説明および上記の2つの話題提供と1つの講演を基に全体討議を行った。
水産利用関係研究開発推進会議では今後,「水産物の新しい品質評価法の開発」と「現場で測定できる水産物の評価機器の開発」の2つの取組につき,本推進会議構成研究機関を中心として外部資金を主体とした課題化を目指すとの提案がなされた。
これに対して,長崎県より,今一般的なのはK値。既存の指標と新しいものの対応が求められるが,既存の指標がどこまで絶対的か,魚種特異性や時代の変化への対応のため,これまでの指標を見直すことも入れて頂ければ良いのではないか,との意見が出された。この意見に対して,課題化の一つとしてこれまでの鮮度指標の妥当性を確認する課題を設定する必要があると考えている,との回答がなされた。利用加工部長からの本提案について,平成22年度の新規外部資金獲得のための課題化へ,各研究機関の協力の要請が行われた。平成22年度での本研究の方向性に対して,参画研究機関から了承を受けた。
12)閉会
推進会議の閉会を受け,水産総合研究センター石塚理事より,推進会議参画構成研究機関に対して,本推進会議は利用に関する研究開発会議である。研究機関の研究ニーズをお互いに把握し,共通認識を深めることが重要である。効率的な水産資源の利用技術開発,水産物の安全・安心を担保するための技術開発に向け,水研センターとしても,今後も力を入れて対応していきたい。との挨拶で,本推進会議を閉会した。