■ 調査情報 中央水研ニュースNo.38(2005. 平成17年10月発行)掲載
「横浜市金沢湾におけるアサリ稚貝調査」 渡部 諭史(海洋生産部 浅海生態系研究室) 中田 薫(浅海増殖部 浅海生態系研究室)


はじめに

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写真1
写真2
はじめに
 全国的にアサリ資源は減少傾向にある。ところが、横浜市金沢区の海の公園では、例年春から初夏にかけて大勢の市民が潮干狩りに訪れ、ほぼ採り尽くす勢いで大量のアサリを採取する。しかし、貝を蒔くことなく、翌春にはまた大量のアサリ採取が可能となるため、アサリ生産が高く維持されている水域と考えられている。過去に中央水産研究所が行った調査により、海の公園には5月から10月にかけて断続的に浮遊幼生が出現し、稚貝が着底していることがわかっている。断続的な浮遊幼生の出現・着底とともに着底後の成長と生残を支える稚貝期の餌料環境が高生産維持に貢献している可能性が考えられるが、アサリの加入量が決定される仕組みは明らかでない。
 実際、アサリはポピュラーな貝類でありながら、現場水域でアサリ稚貝が主として依存している餌を明らかにした研究例がなく、成長速度や生残率を把握する手法の確立も行われていない。そこで、平成16~18年度の独立行政法人水産総合研究センター 交付金プロジェクト「アサリの加入量決定機構の解明」の一環として、アサリ稚貝の食性を明らかにし、成長速度測定手法の確立を行うとともに、餌料環境と成長速度の関係を把握するため、中央水産研究所の浅海増殖部浅海生態系研究室と海洋生産部低次生産研究室が協力して金沢湾で調査を行っている。ここではアサリ食性解明の部分に焦点をあて、金沢湾におけるアサリ稚貝調査の概要を報告する。
調査の概要
図1
図2
調査の概要
 金沢湾で干潮時にアサリを採取するために砂を掘り進むと、1~2cmから時として10cm程度の深さ(特に大型の貝)で食べごろサイズのアサリに出会う。一方、水管はすでに形成されているものの着底から比較的間がない殻長5mm程度までの稚貝に出会いたければ、砂粒1粒分程度の厚さの底質表層をさっと指でとり払い、じっと目をこらすと底質上に稚貝が横たわっているのを目にすることができる。このようにアサリ稚貝は底質表層から数mm以内に主として分布している。したがってアサリ稚貝の主要餌料は海底直上水中か底質のごく表層に分布するものの中にあると考えられる。
 調査は2004年5月から月一度大潮時に、金沢湾内に岸から105m以内に設けた8定点(2005年4月まで)あるいは3定点で(2005年5月以降)実施している。各点では、底質のコアサンプルをとり、表層から1cmまでの底質中の植物色素量と強熱減量を測定している。本年度からは炭水化物量、タンパク質量の分析を開始する。岸から105mの点では取水口を海底直上1cm以内に設置した手動液送ポンプで海底直上水をとり、植物色素量と懸濁態有機炭素組成を調べている。懸濁態有機炭素組成は、顕微鏡観察によるバクテリアや植物、動物プランクトンなどの生物群別生物炭素量の推定と、質量分析計で測定した懸濁態有機炭素の総量から生物炭素量の総計を差し引いて算出したデトリタス炭素量をあわせてもとめている。図1に測定例を示すが、これまでの測定結果から、直上水中の懸濁態有機炭素の大半はデトリタスで、とりわけ干潮時には懸濁態有機炭素の90%以上をデトリタスが占めることが明らかとなってきた。では、アサリ稚貝が依存する炭素源は直上水中の懸濁態有機炭素にあるのだろうか、それとも底質の中にあるのだろうか。このことを明らかにするための試料採取も各点で行っている。これは、餌とその捕食者では炭素の安定同位体比がほぼ同じ値をとるということを利用してアサリ稚貝が主として依存する炭素源を解明しようとするものである。これまでの予備的な測定結果では5mm以下の稚貝とそれ以上のアサリでは主として依存する炭素源が違う可能性が示唆されている。さらなるデータの積み上げと今年度から開始したアサリ稚貝の消化管内容物組成調査から稚貝の主要餌料解明にせまりたいと考えている。
 一方、岸近くでは、潮汐に伴って流速や底泥の巻き上げ状況、さらに沖から運ばれてくるプランクトンの分布状況が変化するために(図2)、とりわけ海底直下数mm以内のところに分布するアサリ初期稚貝の餌料環境も大きく変化するものと推測される。そこで、毎月の調査では1点あるいは2点で流速計とクロロテックを設置して底層水の流れや植物量の24時間の連続データをとっている。また、本年度は6月と10月に12時間調査を行い、1時間ごとに試料採取を行って潮汐に伴った海底直上水中の有機炭素組成と稚貝の消化管内容物の変化を把握する予定である。
 この他、各点ではアサリ現存量測定のための枠とり調査、稚貝の成長速度の解析を行っている。これらの結果もあわせて、今後成果報告を随時行っていきたい。
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