■ 研究紹介 中央水研ニュースNo.38(2005. 平成17年10月発行)掲載
マサバのようなゴマサバ 梨田一也・清水昭男(資源評価部・生態特性研究室・生理特性研究室)


マサバのような
ゴマサバ

中央水研ニュース目次へ
No.38トップページへ
中央水産研究所日本語トップページへ
写真1
図1
写真2
 日本近海で多獲されるサバ類には、マサバとゴマサバがあります(写真1)。
マサバはゴマサバに比べるとやや北に分布する傾向にありますが、同じような海域で漁獲されることもしばしばです。まき網で漁獲される場合は、サバ類として一括して水揚げされる場合が多く、資源量を計算するために必要な魚種別の漁獲量を算出する際には、漁獲物の一部を抽出して、魚種判別を行う必要があります。マサバとゴマサバの判別法は、第1背鰭の第1棘から第9棘の基底長と尾叉長の比率による方法(図1)が確立されています。この方法を用いると99%以上の精度で判別可能です(ただし、尾叉長100mm未満の場合は別の方法が必要です)。
筆者らは、高知県土佐清水市漁協の立て縄漁船で漁獲されたゴマサバの特大および大銘柄を毎月1回購入して、ゴマサバの年齢査定や成熟過程の把握を行っています。これまでに、1,500尾以上のゴマサバを測定していますが、2005年1月24日に漁獲されたゴマサバ大銘柄の1尾を測定しようとしたところ、いつもとは違う顔をしているような気がしました。そこで、注意深く他の身体の部位を観察したところ、マサバの特徴である背側の「くの字」の文様が見られる上に、体型もゴマサバ(丸サバ)に比べるとマサバ(平サバ)のように側偏(左右方向に平たい)していました。
この個体は、尾叉長387mm、体重は750gで、いざ腹を開いてみると内蔵の下部に脂肪のような精巣、内臓の背中側には卵巣が見えるではありませんか。このような個体を雌雄同体といいますが、めったにお目にかかりません。マサバとゴマサバは同属(Scomber属)であり、交雑することは以前から知られていましたので、これは雑種第一代(以下、F1)に違いないと思い写真撮影を行い(写真2)、魚体を凍結保存するとともに、生殖腺をホルマリン固定しました。上記の背鰭基底長による方法では、ゴマサバと判別されました。しかし、このサンプルを送って頂いた土佐清水市漁協の吉村貞俊氏に魚体の写真を見ていただきましたが、どう見てもゴマサバには見えないということでした。
雑種第一代には、雑種不稔性すなわち生殖能力を欠くという現象が知られています。この個体は精巣と卵巣を持っていましたが、普通のゴマサバに比べると明らかに生殖腺の発達が悪く、生殖能力があるとは思えませんでした。
高知県水産試験場の新谷淑生氏からお聞きしたところでは、足摺岬周辺で漁獲されるゴマサバで、マサバとゴマサバの雑種と思われる個体は、ゴマサバの約0.1%位いるということで、このような雑種の出現は特異な現象ではないようですが、初めて見た筆者らは、それ以降ゴマサバを測定する度に、「これは、ほんまにゴマサバかいな?」と疑心暗鬼になってしまいました。近年、高知県沖で漁獲されるサバ類は、圧倒的にゴマサバが多いのですが、最近、マサバも少ないながらも徐々に増えつつあるといわれています(新谷淑生氏私信)。海域は違いますが、伊豆諸島周辺海域は、かつてはマサバの主要漁場で火光利用のたもすくい漁船もマサバが減少するまでは、主にマサバを漁獲していました。ここ数年はマサバが極端に不漁となり、ゴマサバを漁獲して何とかしのいでいます。この海域でも、マサバの資源量が多かった頃には、ゴマサバとのF1もかなりの頻度で出現していたという話を一都三県(千葉県、東京都、神奈川県及び静岡県)の水産研究者の皆様から伺っていました。もしかすると、足摺岬周辺でもマサバの資源量が増大しており、その結果、F1の出現頻度が高くなりつつあるのではと想像しています。
大型の個体ですとマサバはゴマサバの2倍近い値段がしますので、マサバ資源が増大する傾向にあるかも知れないということは漁業者にはもちろん、我々水産研究者にとっても夢のある話です。今回獲れた個体が本物のF1かどうかは、まだ確定していませんが、F1の出現がマサバ資源の回復の兆しであることを祈っています。最後に、いろいろご助言を頂いた資源動態研究室の谷津明彦室長に深謝します。
ページのTOPへ
 

 
nrifs-news@ml.affrc.go.jp
(c) Copyright National Research Institute of Fisheries Science,Fisheries Research Agency All rights reserved.