■ 研究紹介 中央水研ニュースNo.38(2005. 平成17年10月発行)掲載
MVP(走航式自動連続鉛直プロファイラシステム:Moving Vessel Profiler)による海洋観測 廣江 豊(海洋生産部海洋動態研究室)


はじめに

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はじめに
水産資源の変動や漁場の形成を知るには、海の状況を把握しておく必要がある。近年、海面の水温分布などは、人工衛星から観測することができるようになった。しかし、海中の状況を知るには、観測船で測りたい場所に行って、CTD(水温・塩分・水圧計を搭載した機器)などの観測機器を海中に降ろして観測するのが主な方法である。ここでは、そうした観測機器のひとつで2000年に本研究所に導入されたMVP(走航式自動連続鉛直プロファイラシステム:Moving Vessel Profiler)の概要を紹介し、観測例を示す。
MVPとは
MVPとは
前述のように、海中の水温分布などの状況を知るためには、観測船で調査点まで行き、CTD等の観測機器を海中に降ろして観測を行う。通常は船舶を止めてウィンチからケーブルでCTDを降ろす垂下式で観測を行うのだが、例えば深さ1000mまでのCTD観測を行う場合1時間弱かかり、広い海域を短い測点間隔で調査するには時間がかかりすぎてしまう。また、船舶に加減速があると、航走しながら流れを測っているADCP(音響式多層流速計)が正常に観測を行えないことから、船舶を止めずに観測が出来る観測機器が求められた。その解決策として曳航式と自由落下式のCTDが考案された。
曳航式CTDとは、ある程度ケーブルを伸ばした状態のCTDを曳航して船舶が走りながらCTD観測を行う方式である。この際、CTDの水中部についた水中翼を操作して、船に曳航されて生じる流れを利用して揚力・沈降力を作り出し、水中部が海中を上下する。こうして、海中の水温・塩分の断面分布を得る。
自由落下式CTDでは、船舶は航走を続けながら、垂下式CTDに比べてかなり速くウィンチを繰り出す。このため、観測を始めると水中部はほぼ自由落下する。所定の深度まで水中部が到達し観測が終了したら、ウィンチでケーブルを巻き上げていくのだが、この間も船舶は止まらず航行を続け、水面まで巻き上げたところで次の観測を開始する。自由落下であるので、下降時はほとんど同一の地点の鉛直分布を観測し、1回の上下動の間に船舶が航走した分だけ離れた点で次の鉛直分布を測ることとなる。

図1:曳航式CTDと自由落下式CTDの水中部の軌跡
曳航式と自由落下式の水中部の軌跡を図示すると、図1(右)のようになる。
自由落下式を曳航式と比べると、自由落下なので1回の上下動の間隔が短い、つまり観測時間が短く、測点を比較的密にとれるという利点がある。また、曳航式よりも深いところまで観測することができる。
MVPはこの自由落下式の観測機器である。
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導入された
MVPの詳細

図2a : MVPウィンチ

図2b : MVP水中部
導入されたMVPの詳細
中央水研に導入されたMVPは、MVP300-3400 (Brooke Ocean Technology Ltd.:カナダ)である。図2aにその外観を示す。水中部にはマルチセンサフィッシュで水温・塩分計(CTD): Micro-Smart CTD (Applied Microsystems Ltd.)の他に、蛍光光度計: Flash Lamp Fluorometer 3000 Meters (WET Labs, Inc.)及び溶存酸素計: Ocean Seven 316 Multiparameter Probe & Oxygen Sensor (IDRONAUT Srl)を搭載している。ケーブルは3400mである。
このMVPでは約6knotで航走する船舶から、1000mの深さまでの調査を行うことができる。その際に繰り出すケーブルは約2000mで、約30分で1点の観測をすることができ、だいたい3海里ごとの水温や塩分等の鉛直分布データが得られる。繰り出しできるケーブル長は、船の航走速度が速くなると水の抵抗が大きくなることから、制限される。繰り出すケーブル長が短くて済む浅い深度の観測では、船の速度を上げることができ、200m深までの観測であれば、約12knotで航走ができる。
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MVPでの観測例
図3a
図3b
図3c
MVPでの観測例
このMVPを用いた観測例として黒潮続流域で行った観測結果を図3に示す。
観測は、2001年5月25日から6月9日において中央水産研究所の調査船蒼鷹丸で図3aの場所で行った。この海域では、本州南岸を流れてきた黒潮が日本列島から離れて黒潮続流として蛇行しながら流れている。そして、その北側にある混合域から亜寒帯循環起源の低塩分な水が黒潮続流を横切って南側の亜熱帯海域の中層に潜り込んでいる。この状況を詳細に観測するために黒潮続流を横切る測線でMVPによる1000mまでのCTD観測を行った。
図3b,cの水温・塩分断面図をみると、図の左側に比較的低温(青傾向)で低塩(青傾向)な混合域が位置し、右側に高温(赤傾向)で高塩(赤傾向)な亜熱帯循環域が位置している。この間にある等密度線の傾きの大きなところが、黒潮続流が流れているところである。この黒潮続流の下層に、混合域の表層200m付近から亜熱帯域の中層800m付近に分布まで連続して分布しているように見て取れる周囲より低温かつ低塩な水が分布している。これは、北側の親潮などの亜寒帯循環を起源に持つ水が亜熱帯循環域に入り込んでいるところをとらえた物である。
今までの垂下式CTDの観測では、時間がかかるためこれほど調査点を密にした観測は行われてこなかった。今回のMVPによる密な観測で、上記の亜寒帯水の貫入の状況が詳細に把握できた。これにより、貫入の際に起こる水の混合状況など、詳しい解析が行われ、形成機構などの研究が進んだ。
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おわりに
おわりに
このようにMVPを用いた観測は、水温・塩分などが水平方向で急激に変化するフロント域などの構造を詳細に観測するに有効である。ただし、MVPは海況の悪化に対し垂下式CTDよりも弱いなど、取り扱いが比較的難しいのが弱点である。また、海水試料の採集などは同時に行えないなどの制約もあるため、従来の垂下式CTDと補完しあいながら観測を進めている。
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