■ 受賞の紹介 中央水研ニュースNo.36(2005. 平成17年3月発行)掲載
受賞の紹介 谷津明彦室長と高須賀明典研究員、第13回PICES年次会議で最優秀賞を受賞


受賞の紹介




 第13回PICES年次会議において、科学評議会シンポジウム「大陸棚斜面域を超えて:北太平洋の複雑性と変動性」で中央水産研究所の谷津明彦室長が、そして、海洋生物委員会のトピックセッション「北太平洋の生態系を制御する機構」で高須賀明典研究員がそれぞれ最優秀賞を受賞した。
 谷津室長の発表課題は「春季の黒潮・親潮移行域および黒潮続流域における小型浮魚類と中層性魚類の生態的な相互作用」で、農林水産技術会議のプロジェクト研究として、マイワシやカタクチイワシ、サバ類の加入にとって重要な海域として近年注目されている春季の黒潮・親潮移行域と黒潮続流域を対象にしたものである。小型浮魚類の稚魚とハダカイワシ類の鉛直分布を調べたところ、移行域の0-30mの水深で両者は重なって分布していた。また、フウライカマスは発育段階が進むにつれカタクチイワシの稚魚からオキアミやハダカイワシ類に食性を変化させること、表層性の動物プランクトンが小型浮魚類の稚魚やハダカイワシ類の稚魚により利用され、発光器を持ち鉛直移動するオキアミ類などはハダカイワシ類によってもっぱら利用されていた。このように小型浮魚類の稚魚とハダカイワシ類の稚魚の間に動物プランクトンを巡る競合の可能性が示唆された。今後の課題として、水深100mまでの表層域の動物プランクトンをめぐるハダカイワシ類稚魚の競合、フウライカマスの間接的な影響の評価、さらにこれらの定量的な評価が必要であるとした。
 高須賀研究員の発表課題は「カタクチイワシ仔魚とマイワシ仔魚で異なる成長速度最適水温:魚種交替のメカニズムか?」で、(1) なぜ、わずかな環境変化によって大規模な魚種交替が起こるのか、そして、(2) なぜ、同じ海洋レジームにおいて、同時にカタクチイワシは増加し、マイワシは減少するのか、という謎を解こうとする試みである。カタクチイワシ仔魚およびマイワシ仔魚の耳石から求めた成長速度と表面水温の関係から、成長速度の最適水温はマイワシ仔魚で16度、カタクチイワシ仔魚で22度であり、両者には約6度の差があることがわかった。また両仔魚が経験すると想定される表面水温は主に16~22度の範囲内で長期変動していた。その結果、そのような表面水温の変化から推定される成長速度の変動はカタクチイワシとマイワシの魚種交替の傾向に対応していた。わずかな水温変動が成長速度の変動を介して莫大な資源変動を引き起こし得ることに着目し、カタクチイワシとマイワシの初期生活史における成長速度最適水温の差によって、両魚種の優劣が入れ替わる魚種交替現象が起こるとする「成長速度最適水温」仮説を提唱した。
 両方の発表とも資源評価調査によって得られた標本やデータを利用したものである。ABCの算定だけにとどまらず、このような生物学的な機構の研究が資源変動の要因の解明につながり、資源評価の水準をより高めていくものと期待している。

詳細はPICESホームページ(下記)をご覧下さい.
発表のパワーポイントファイルも掲載されています。
 

 
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