中央水研ニュースNo.34(2004...平成16年11月発行)掲載

【情報の発信と交流】
FRAとSEAFDEC
松里寿彦

 2003年12月のASEAN-SEAFDEC国際シンポジウム(東京),1月21日SEAFDEC本部におけるFRAとSEAFDECの協力に関する覚え書き調印,フィリピンのSEAFDEC-Aquaculture Departmentでの養殖分野の共同研究打合せ,さらに2月19~24日のマレーシアにおける人材育成に関するASEAN-SEAFDEC共催による地域ワークショップと続けてSEAFDEC関連会議等に参加する機会を得ました。これらの会議を振り返りながら水産総合研究センター(FRA)と東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)との関係について考えてみたいと思います。
 昨年12月上旬,東京の両国を舞台に行われた「SEAFDECの活動を通じた持続的漁業を促進するための日本とASEAN諸国との協力」に関する一連の会議(国際セミナーを含む)では東南アジア地域における漁業,水産業の重要性をお互い改めて認識するとともに,我が国を含めたASEAN諸国が協調して,持続的漁業を促進するため,いかにSEAFDECの活動を充実させるかが政府高官レベル,技術者,研究者レベルで広く討議されました。特に,技術者,研究者レベルの国際セミナーでは,参加国の多くから,漁業資源管理のための理論や技術,持続的養殖の確立,さらに,将来の水産を担う人材育成に関する援助の要請がなされ,FRAのこれらに対する貢献が強く求められました。
 平成14年度からSEAFDECの活動の支援を目的にSEAFDEC技術協力委員会が設置され具体的活動を行っていますが,FRA全体としては個別の要請に答える型での支援しかしてきませんでした。遅ればせながら,平成16年1月21日,タイ国バンコク市のカセサート大学構内にあるSEAFDEC本部において,FRAとSEAFDECの包括的協力に関する覚え書きを取り交わし,さらに一層の協力を約束しました。平成16年2月マレーシアで行われたASEAN-SEAFDEC共催による「人材育成に関する地域ワークショップ」では,SEAFDECの永年にわたる各種研修による人材育成の努力が地域各国参加者から高く評価されるとともに今後は,各国の実情に応じた多彩なプログラムによる支援が要請されました。確かにSEAFDEC加盟各国の状況はかなり多様であり,シンガポールのように,高付加価値水産加工技術開発を指向する国からカンボジアのように水産の試験研究,技術開発のための基本的施設,資材(当然人材も)欠く国などが含まれており,統一した要望をまとめることは困難となりつつあります。ただ,今までSEAFDECが行ってきた「地域各国との協力の下,共に学ぶ」の精神はむしろ重要性を増しつつあり,SEAFDECの特色でもある試験・研究・調査部門を持った多国間協力こそ現在の東南アジアの支援体制としては最適と思いました。
 話は前後しますが,残念ながら,現在のFRA職員の中においても,必ずしもSEAFDECを知る者は多いとは言えません。幸いSEAFDECについては村上光由氏の「東南アジア漁業開発センターの現状と役割」(水産振興351号平成9年4月)が出されており,設立の経緯,1998年頃までの活動の内容等が書かれています。SEAFDECは1967年に設立され,今年で既に30数年の歴史を持つInter-Governmental Organization です。SEAFDECは設立当初より,漁業訓練(TD),海洋水産調査(MFRD),養殖(AQD),海洋水産資源開発管理(MFRDFD)の各専門部と本部事務局からなり,職員総数510数名,加盟国は我が国以外に,フィリピン,インドネシア,ベトナム,ラオス,カンボジア,ミャンマー,ブルネイ,マレーシア,シンガポール,タイの十一カ国であり,東南アジアの全ての国が加盟しています。また,タイにある漁業訓練部局は,200t型の新鋭漁業訓練開発調査船を持ち,フィリピンにある養殖部局には,バイオテクノロジー実験棟も併設されています。
 国立水産研究所時代より,各部局に対し,短長期専門家の派遣,研修生の受け入れなどの支援を行ってきましたが,法人化の後も,これら従来からの支援をさらに強化するとともに,共同研究や技術協力を行うことを約束しています。今後の具体的活動としては,1.コイKHV病の東南アジアにおける共同調査研究 2.沿岸資源調査解析に関する専門家派遣 3.水産利用加工技術の普及 4.研修資料の製作支援 5.内水面調査・試験・研究の指導などが考えられます。
 国立水産研究所時代から,技術援助分野ではSEAFDECに限らずJICA,OFCF,JIRCAS,ICLARM,FAO等様々な機関を通じて,積極的に行ってきましたが,旧日本栽培漁業協会,旧海洋水産資源開発センターグループが新たに加わった新FRAは世界的な「持続的漁業の確立」を目指して,従来以上にこの分野における活躍が期待されていますし,水産経済,内水面研究,利用加工等水研センター内唯一の専門分野を持つ当研究所は,FRAの中核機関の一つとして,社会的要請に充分答えていきたいと考えています。
(所長(事務取扱))

nrifs-info@ml.affrc.go.jp

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