中央水研ニュースNo.34(2004...平成16年11月発行)掲載

【情報の発信と交流】
上田庁舎一般公開顛末記
井口恵一朗

 9月28日という微妙な時期に,上田庁舎の一般公開は挙行されました。動員実績の凋落傾向に歯止めをかけるべく,集客の見込める企画の模索に気合いが入りました。知恵を絞ったあげく,ようやく思いついたのが,実験用の大型止水池を利用した釣り堀大会でした。マス類を供する都合上,夏の暑い時期では餌付きが悪く,釣りになりません。10月に入ってしまうと組織統合に伴う部名変更の事態も予想され,事前のアナウンスに支障をきたす恐れがありました。そんなこんなで,9月最後の休日が,開催日となった次第です。しばらく続いた不順な天候にやきもきしたのも杞憂に終わり,開催当日は朝から快晴。季節はずれのミンミンゼミには,少し驚かされました。
写真1
写真1.講演の様子
 一般に向けて公開されるべきは,もちろん釣り堀ではなく,常日頃の私たちの業務であることは理解していました。町はずれの池のある施設の中で,一体どんな人が何をやっているのだろう?素朴な疑問に答えつつ,ついでにアピールもできる,絶好の機会を逃す手はありません。そこで,ちょっとせこい仕組みを設けました。「釣りを科学する」と銘打って,職員に講演をお願いし,聴講と引き替えに釣り券を配ることにしました。10時の会場から,1時間に1題,合わせて5つの演題を用意してもらいました。話の内容は,川虫からフッキングモータリティまで多岐にわたり,小さなお子さんでも意外と(?)飽きずに聞いていた姿が印象に残りました(写真1)。また,講演開始までの待ち時間は,入り口ホールに並べられた研究紹介パネルや出版物で費やせるように工夫しました。養殖研日光支所やセンター本部からの出展もあり,好評を博したのは言うまでもありません。どの講演でも,立ち見が出るほどではなかったにせよ,演者に適度な緊張を強いる程度の聴衆に恵まれました。
 釣り券は,手渡した時間帯に応じて色を違えておきました。参加者殺到のまさかの事態に備えて,入れ替えを画策していたのですが,実際には午前と午後の境目に一度だけ人員調整を実施しました。「ぼく初めて釣ったよ!」とサブテーマにも挙げておいたように,当初から小さなお子さんが釣りを通して魚と触れ合える場を提供できればと考えていました。小さい子を連れて来られた若いお母さんは,やはり釣り経験の乏しい方が多いようで,仕掛け作りのコーナーは,いつも親子で賑わっていました。父子よりも母子の連れが目立ったような気がしましたが,お疲れのお父さんが多いせいかも知れません。
写真2
写真2.釣り堀の様子
 自前の釣り具を持参された方はごくわずかで,事前に用意した少し長めの竿が次々と貸し出されていきました。餌は,団子に練った魚粉です。
 池には養殖業者から購入したニジマスを筆頭に,イワナ・カワマス・コレゴヌス(シナノユキマス)を放しておきました。歓声があちこちから湧きあがり,竿を立てれば楽に魚を取り込めるのですが,小さい子はなぜだか竿を引いてたぐり寄せていました(写真2)。子供そっちのけ漁獲にはまっているお母さんは,ご愛敬でした。合わせが上手くいかないようで,針はずしを手にしたスタッフは大活躍でした。手に手に魚の入った袋をぶら下げて帰られた皆さんは,だれもが満足げでした。水産人口の底辺拡大という目論みも,少しはかなったかも知れません。来場者数は昨年のおよそ3倍,120名ほどでした。従来の公開に比べて,一人あたりの滞在時間が長かったせいか,密度の濃い時間が過ぎたように感じられました。
(内水面利用部 魚類生態研究室  現 内水面研究部 生態系保全研究室)

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