中央水研ニュースNo.33(2004...平成16年3月発行)掲載

【研究情報】
所内プロジェクト研究課題「現有海藻分解細菌株のベースコレクション化」
内田基晴

背景
独立行政法人水産総合研究センターでは,有用水産生物資源の保存を目的とした水産遺伝資源保存事業を発足しています。本事業は,藻類・微細藻類サブバンク, 微生物サブバンク, およびDNAサブバンクから構成されており,中央水産研究所利用化学部応用微生物研究室は, その中の微生物サブバンクに所属し, 海洋微生物の収集・保存を担当しています。しかし,本事業における予算措置は必ずしも充分でなく,また植え継ぎ等に必要な人的資源の援助もないため,収集した菌株の維持管理が難しい現状にあります。そこで,中央水産研究所の所内プロジェクト研究に応募し,1)応用微生物研究室に収集・保存されている菌株の整理, 2) 保存すべき重要菌株の絞りこみ,3) 絞り込まれた菌株についての生物特性試験の実施および4) ベースコレクションとしての登録をおこないました。なお,本事業におけるベースコレクションとは, 保存に値する菌株として位置づけられた菌株のことで, これらのうち将来一般への分譲を開始した菌株のことをアクティブコレクションと呼ぶこととしています。今回試験の対象となった収集菌株には, マコンブ葉体分解細菌, 海藻発酵菌(乳酸菌および酵母) および中国淡水魚醤油から分離された魚醤油乳酸菌などユニークなものが含まれています。このようにして整理された保存菌株のうち,分譲可能と判断された菌株については, 今後上記水産遺伝資源保存事業において, 教育および研究目的のために一般分譲するための体制づくりが現在検討されているところです。
試験結果の概要
 2002年5月時点で収集保存されてあった410株について,生存試験,純度試験(コンタミネーションがないことの確認)で問題のなかった菌株について,16S rRNA遺伝子の部分塩基配列を決定し,タイプ分けをおこないました。さらにタイプ分けされた菌株に関して,これまで蓄積された生物情報から,産業上重要度の高いと判断される50菌株を抽出しました(表1)。微生物菌株を将来分譲するに当たり, 分譲を受ける側の立場にたてば, 菌株に関する性状データが蓄積されていることは大変有益です。即ち, 性状データの充実した分譲菌株は, 品質が高いといえます。このような考えのもと,上記50菌株について生物特性試験を実施しました。試験の実施に当たっては, 水産遺伝資源保存事業の担当者が変わっても, 継承性をもって試験が実施できること, また必要な場合には簡便に追試が実施できることが重要となります。このことから, できるだけ市販の同定キットを使用し, 簡便なスキームで特性試験を実施することをこころがけました。具体的な試験項目としては, 全菌株について基本性状試験を実施した後, グラム陰性の菌株には NF-18(日水製薬)試験を, グラム陽性の菌株(酵母, 乳酸菌, Bacillus属細菌)については, EB-20(日水製薬)試験を実施しました。また同じく市販キットによりAPI 50CH(ビオメリュー)試験およびAPI zym 20(ビオメリュー)試験を実施しました。さらに細菌株については, 16S rRNA遺伝子, 酵母株については, 18S rRNA遺伝子の部分塩基配列をそれぞれ決定し, これらの結果に基づいて暫定的な分類同定をおこないました。本課題で得られた生物特性情報は,延べ4200余りを数えます。その結果の一部を表2に示します。塩基配列情報は,DDBJに登録し,アクセッション番号を得ました。塩基配列情報と生物特性試験の結果から50菌株のうち28菌株については,暫定的な種レベルでの同定を終えました。また残りのいくつかの菌株は,決定された16S rRNA遺伝子の塩基配列が既知のものと大きく異なり,新規性の高い株であることがわかりました。最終的に50菌株について生物特性データをまとめ(水産総合研究センター研究報告に投稿中),ベースコレクションとしての登録を完了しました。また各菌株について保存用アンプルを5本ずつ作成しました。 今回の仕事と遺伝資源保存事業の今後
 我が国の微生物の遺伝資源保存事業は,縦割り行政の弊害から,弱小機関が乱立しており,この分野における国際的な流れを鑑みるとき,今後統合化とネットワーク化が進むと予想されます。そのような状況分析の上に立って,水産総合研究センターの遺伝資源保存事業は,今後パリティを確立することを意識しながら,戦略的に展開していく必要があると考えます。また分譲事業の実行にあたっては,お役所的な発想を脱し,ユーザー側の視点に立って,利用されやすい体制をつくることが肝要です。今回整備した50菌株のベースコレクションが有効に活用されるよう当該事業のマネージメント部門の今後の舵取りに期待します。
(瀬戸内海区水産研究所 生産環境部 藻場・干潟環境研究室)
表1. ベースコレクションとして集約された50菌株の内訳
表2. 供試菌株の基本性状試験結果

Motoharu Uchida
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