中央水研ニュースNo.33(2004...平成16年3月発行)掲載

【研修と指導】
今年のJICA「漁獲物処理コース」研修を終えて
中村弘二

 JICAの海外研修生向け「漁獲物処理コース」も5年目となり,一つの節目を迎えています。  今年も,講師陣として,昨年同様,釧路水産試験場佐々木政則加工部長,青森県ふるさと食品研究所小泉正機技師の支援を受け,サンマ,サケ,イカ,ホタテの4魚種,9つの水産加工品を,8月4日(月)~8日(金)の1週間で製造しました。受講生は,9カ国から,いずれも温帯,熱帯に属する国から来ていますので,恐らく,初めて扱う魚ばかりだったのではないでしょうか。今年は,新たにホタテ貝柱の燻油漬けに挑戦しました。工程は,冷凍ボイルホタテを原料として,解凍し,ヒモ,内臓を除去後,ボイル,風乾,温薫し,暖めたサラダ油(月桂樹,ローズマリー入り)に浸漬,油切りの後,袋詰めし,製品としました。こうした一連の作業を,朝9:30頃ミーティングし,直ちに作業に取りかかり,午後4:00頃終了,その後反省会と質疑応答と,大変忙しいスケジュールをこなしました。
 研修生は大変まじめで,掃除に至るまで丁寧に行っていました。質疑応答ではとくに衛生管理に関する質問が印象に残りました。私たちは何気なく加工し,貯蔵していましたが,風土の影響について指摘がありました。彼らの住む熱帯では,気温の関係もあり,微生物汚染,繁殖が起こり易いので,日本と同じ加工方法,製品管理,貯蔵では食用に耐えないのではないかとの疑義です。当を得ています。残念ながらこうした質問に対して,「日本では問題ない」というような答えしかできませんでした。正確に即答するためには,日本と熱帯地域での微生物相,繁殖の違いについて,科学的研究データが手元に必要です。今後,資料の収集を含め,反省会などで,製造,製品管理の講義を充実させるなど,さらにきめ細かいフォローアップが肝心です。また,海外現場での指導も重要で,JICA派遣職員との緊密な連携を図ることを考えるべきでしょう。
 恒例により,8月7日(木)作業が終わった夕方に,研修生,講師諸氏,(独)水産総合研究センター本部,中央水産研究所職員,関係者に集まって頂き,交流会を兼ねて,試食会を催しました。その場には,乾しコマイ,マダラトバ,本物の干しシシャモなども並べられました。ラウンジの外では魚を焼くバーベキューと言った趣向もあり,製品の出来具合等を話題に,楽しく歓談しました。研修生も成果に満足していた様子です。上述したホタテ燻油漬けも好評でした。
  今回の研修が滞りなく終了したことに対して,全ての関係者の方々に感謝致します。
 冒頭にも触れましたが,本JICA「漁獲物処理コース」も,一定期間を経て,費用対効果など研修の妥当性が総合的に評価されることになっているそうです。結果によっては,次年度以降本事業が継続されるかどうかは不透明です。5年前,中央水産研究所で研修を引き受けることに対して様々な意見がありました。そうした意味では,最初に引き受け,取り組み,実施された部長,室長の決断は大変だったろうと推察します。「井戸を掘った人の功績を忘れない」とある人に言われたことを思い出します。パイオニアの勇気は貴重です。また,それを継続発展させるためにも多大なエネルギーを必要としますので,以降の関係者の努力にも敬意を払いたいと思います。

写真. サンマの開き方を指導する小泉講師(左端)と研修生.
 (独)水産総合研究センター中央水産研究所は,独立行政法人化したとは言え,民間とは異なり,国の施策の実施といった高い視点での運営が求められます。また,水産物の国際物流が盛んになる中で,我が国が水産先進国として,国際貢献をすることが求められています。そうした点からすれば本事業を推進することは私たちの必然的な業務と考えていますし,当所の存在意義を高めるという意味でも大きな貢献を果たしたと信じます。今後も,JICAの研修が継続されるなら,その役割の一翼を担っていくべきだと考えています。
(加工流通部長)

Koji Nakamura
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