中央水研ニュースNo.33(2004...平成16年3月発行)掲載

【情報の発信と交流】
放射線からの環境防護に関する国際会合に参加して
森田貴己


写真1.レセプションが行われたストックホルム市庁舎
 平成15年10月6日から10日の間,スェーデンのストックホルムにおいて国際原子力機関(IAEA)の主催で開催された「放射線からの環境防護に関する国際会合」に出席しましたので,その概要を紹介します。国際放射線防護委員会(ICRP)は2003年度勧告においてこれまでの人間中心の防護から人間以外の生物(non-human species)を含めた生態系全体の防護という方針に変更するとしたことから,IAEAは,生態系防護への取り組み方を検討すべく本会合を開催しました。本会合には50ヶ国,及びWWFなど8国際機関から総人数288人の参加がありました。日本からは,私以外に放射線医学総合研究所6名,核燃料サイクル開発機構1名,原子力研究所1名,原子力発電環境整備機構1名そして東京大学1名の参加がありました。参加国の多さから,本会合が国際的に関心の高いものであったことが伺いしれます。会合の進め方は,招待講演者がこれまでの知識を総括する発表を行い,続いてRound Tableを開き4人のパネリストが自らの考えを述べた後,参加者からの質問や意見を聞きまとめるという進め方です。私はこうした会合に初めて参加したので議論の進め方など大変参考になるものでした。
 本会合の重要な議題の一つは,放射線からの環境防護調査における参照生物(reference organism)を選定することです。一口に参照動物といっても,国々により再処理施設・原子力発電所の有無,立地場所などの条件が異なりますし,食習慣も違うことから簡単に決定することはできません。水産研究に関連する主な生物は魚類ですが,魚類といっても各国が共通して採集できる魚種はありません。どのような種類に決定されるのか興味深く聞いていたのですが,最終的な合意に至りませんでした。今後のさらなる検討が必要であると思われます。本会合の重要な議題がもう一つあります。それは,生態系・環境を防護することを目標にしても,どのような基準で防護を評価するのか,ということです。自然界に存在する放射生元素は人工的なものだけでなく天然のものがあります。これらを別々に評価するのか,まとめて評価するのかさえもこれまでは決定されていませんでした。また,我々環境放射能研究者の多くは放射能元素の濃度を測定しているのですが,線量を評価するとなると換算計数が必要となります。人間中心に線量を評価するのであれば,食事の種類や量などから人間が受ける線量を評価することになります。しかしながら,生態系・環境を評価していくとなると何の何に対する線量評価なのかを明確にしなければならず,さらには安全基準の設定も行わなければなりません。このような問題点に対して,どのような指針がでるのか非常に興味があったのですが,本会合では残念ながら明確な指針は示されませんでした。
 ストックホルムというと直ぐに連想されるのがノーベル賞だと思います。本会合のレセプションが行われた会場は,ノーベル賞受賞祝賀晩餐会が行われるのと同じ市庁舎で行われました(写真)。ただし,受賞祝賀晩餐会のような豪華な食事が出たわけではありません。ノーベル賞が設けられてから2001年で100周年を迎えたそうで,ノーベル博物館が期間限定(2001年4月から2004年8月まで)で設けられています。博物館には浜松ホトニクス製光電子倍増管などが展示してあり,たまたま訪れた時期に,期間限定の博物館に入場できたことは幸運でした。
 最後に,本会議への出席に協力していただいた水研センター本部,中央水産研究所企画連絡室及び海洋放射能研究室の方々に感謝致します。
(海洋生産部 海洋放射能研究室)

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