【情報の発信と交流】
第12回国際放射線研究会議に参加して
森田貴己
平成15年8月17日から22日の間,オーストラリアのブリスベーンで開催された「第12回国際放射線研究会議(ICRR2003)」に出席しましたので,その概要を紹介します。ICRRは4年に1度開催される国際会議で,その内容は物理,化学,生物,医学に関する放射線研究を網羅する非常に規模の大きい会議です。今回の会議には63ヶ国から計約950人の研究者の参加があり,非常に盛大なものでした。本会議で報告される主たる研究分野は,放射線生物学と呼ばれる分野です。これは,放射線(紫外線や宇宙線など)の生物への影響を調べる分野で,近年はDNA修復や生物死などがテーマとして多く取り上げられています。本会議でも多くの放射線生物学の研究報告が行われ,非常に活発な議論が行われていました。本会議の日本での窓口は日本放射線影響学会であり,ICRR2003の予告も本学会を通じて行われました。このため日本からの参加が非常に多く,中でも放射線医学総合研究所からは約30人の研究者が参加したそうです。ICRR2003がこれまでのICRRと異なる点は,環境の分野に注目したということです。本会議の主たる事務局である国際放射線防護委員会(ICRP)は2003年度勧告において,これまでの人間中心の防護から人間以外の生物(non-human species)や環境防護という方針に変更するとしています。また,1998年にオスロ-パリ委員会(OSPAR)は,2020年までに核燃料再処理施設からの海洋への放射能の排出量を技術的に「ほぼ0」にすると発表しました。さらに,2003年10月には,ストックホルムにおいて国際原子力機関(IAEA)が環境防護に関する会合を開くことになっています。このような世界的な研究の流れを受け,ICRR2003においても環境防護をテーマとした研究報告を募集していたことから,私は今回の参加を決めたというわけです。
会場でのポスターと筆者
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私の所属する海洋放射能研究室は,約50年前から魚介類中の放射能濃度のモニタリング調査を行っています。今回の会議で私は,放射能モニタリング調査の中でスケトウダラ中に検出されたセシウム-137異常値(食しても人体に全く影響の無いレベル)を過去のスケトウダラのデータやいくつかの他魚種のデータと比較した内容の研究をポスター発表しました。私の報告は,日本海のロシア・韓国側沿岸に放射能汚染源がある事を推測する内容でしたので,韓国の研究者達に関心を持たれ,いくつか質問を頂きました。韓国の研究者達にこうした汚染の現状を伝えることが出来ただけでも,本会議への参加は成功だったと思われます。また,私たちの研究室のように長期モニタリング調査を行っている研究室は世界的にも非常に珍しく,こうしたモニタリング調査を継続している研究所を評価する研究者も数人おられました。日本国内から参加している研究者は医学分野が多いため,初めて私たちの調査を知る方々も多く,良い宣伝になったと思われます。
私がオーストラリアを訪れた時期は,ちょうど冬にあたるわけですが,ブリスベーンの気候は日本の沖縄と似ているので,冬といっても横浜の春先ぐらいの陽気で過ごし易いものでした。また,オーストラリアは観光客が多いということもあり,私のように英会話がほとんどできない人間でも何とかなるので,外国初心者でもお勧めな国です。ただし,オーストラリア国内への持ち込み物に関しては検査が非常に厳しく,薬類や食料は一々説明しなければなりません。この点だけは要注意です。学会としては珍しいことですが,朝食・昼食・おやつと事務局が提供してくれ,さらに,私の宿泊していたホテルが会議場の隣にあったことから,会議期間中ほとんど移動せず過ごせたので非常に快適でした。
最後に,本会議への出席に協力していただいた企画連絡室及び海洋放射能研究室の方々に感謝致します。
(海洋生産部 海洋放射能研究室)
Takami Morita
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