中央水研ニュースNo.33(2004...平成16年3月発行)掲載

【情報の発信と交流】
バングラディシュの水産研究者から見た日本
泉 庄太郎


写真. 試料の取り扱い方法を習っているラハマン博士(右)
 平成15年7月9日から9月21日まで,招聘研究員としてバングラディシュ国のラハマン・ハビブール博士が来所されました。先生は同国のラジャヒ大学生命科学部動物学科水産学専攻の助教授で,水産増殖を専門とされています。高知大学で学位を取得後,養殖研究所で研究に携わった経歴を持っておられ,好きな食べ物は刺身,相撲は雅山,サッカーはアントラーズ,野球はジャイアンツのファンという大変日本通の先生に,今回の日本滞在を振り返ってインタビューに答えていただきました。
(問)今回の研修では何の研究をされましたか?
(答)水産資源生物の分子系統解析技術を学びました。私にとっては初めての分子生物学的手法を用いた実験でしたので,大変興味深く,そして楽しく研究を行えました。
(問)バングラディシュでの水産研究の現状について教えてください。
(答)ご存じの通り,川や沼の多いバングラディシュでは,国民の動物タンパク源として水産物は高い割合を占めています。したがって,生命科学分野での水産研究は重要であり,政府も分子生物学的研究をバックアップしているのですが,まだまだ施設や設備が十分であるとは言えません。今回の研修で基礎的・実践的な技術と必要な機材がわかりましたので,帰国後は積極的に政府にも働きかけていきたいと思います。
(問)バングラディシュの水産業界で問題になっていることは何ですか?
(答)一つは,最近日本でもよく問題になっている水産物の偽装表示です。バングラディシュでは魚が切り身でパックされて売られることはほとんどないので魚種の偽装はないのですが,原産地の偽装が問題です。消費者には近隣諸外国から輸入された魚は衛生面からもあまり食べたくない,という意識がありますが,国としてのルール作りはまだ始まっておらず,現在は野放しの状態です。また,全般的な水産研究に関しては産・官・学の連携が十分行われているとは言えず,国外で学位をとった研究者がそのまま外国に留まってしまうと言う,いわゆる頭脳流出も問題です。
(問)今回の研修についてはどう思われますか?
(答)非常に近代的な設備と研究に適した環境の中,研究室の方々の助けにも恵まれて,とても充実した研修期間を過ごせました。また,ほかの研究所や大学を見学する機会も与えていただき,多くの日本人研究者と交流を深め,見聞を広めることができました。このような研究交流は,バングラディシュにとっては最新技術を学ぶことができ,日本にとっては水産研究の先進国であることを示すよい機会となるので,両国にとって有益だと思います。
(問)日本人研究者について,どの様な感想をお持ちですか?
(答)私のお会いしたみなさんはとても研究に対してアクティブな方ばかりでした。実験手技だけでなく周辺知識も豊富で,研究計画のコーディネイト能力にも長けている方が多く,研究者としての総合能力が高い人が多いと感じました。
(問)日本での生活についてお聞きします。久しぶりの日本滞在はいかがでしたか?
(答)学位を取得した高知やSTAフェローとして過ごした三重に比べ,横浜は大都市ですので,いろいろと戸惑うこともありました。しかし,東京が近くて交通の便もよく,慣れれば非常に住みやすいと感じました。物価が高いのには驚きましたが,それは都会なのでしょうがないですね。
(問)それでは最後に一言お願いします。
(答)今回は本当にありがとうございました。チャンスがあればまたぜひ来日して,中央水産研究所での研究活動に従事したいと思います。そのときはジャイアンツにはもっとがんばって欲しいですね。
(注;このインタビューは9月上旬に行いました。)
(生物機能部 生物特性研究室 重点研究支援協力員)

Shotaro Izumi
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