【情報の発信と交流】
PICES北太平洋生態系報告書ワークショップに参加して
石田行正
北太平洋の海洋科学に関する機関(PICES)では,設立以来10年余の活動による成果をカリフォルニア湾,カリフォルニア海流,アラスカ環流,ベーリング海,オホーツク海,黒潮・親潮,日本海,黄海・東シナ海,西部亜寒帯太平洋,東部亜寒帯太平洋および移行域などの海域ごとに,その気象,海洋物理,海洋化学,低次生物生産を含む海洋環境と水産資源の状態についての知見を取りまとめ,北太平洋生態系報告書として公表することにしている。この報告書は,PICES活動の成果として重要な公式出版物であり,参加各国でオーソライズされる必要性がある。そのため,平成15年4月に開かれたPICES科学評議会と総務会の合同会議にて,関連各国が参加するワークショップを8月に開催して執筆の進捗状況および内容,編集方法等を検討,確認することになった。
このような経緯で本ワークショップは平成15年8月25~27日にカナダのヴィクトリア市にある会議センターにおいて実施された。日本からは,PICES CCCC(Carrying Capacity & Climate Change)共同議長を務める柏井誠氏,および気象庁海洋気象情報室調査官の杉本悟史氏,そしてPICESのFIS(Fishery Science Committee)議長を務める小職の3名,その他のPICES加盟国から中国(1),韓国(3),ロシア(1),日本(2),米国(10),カナダ(3),メキシコ(1),事務局(3)が参加した。
1日目の最初に,本報告書作成にあたっての取りまとめ責任者であるカナダ漁業海洋省のペリー科学評議会議長から,報告書の対象スケールと目的について,以下の事項が確認された。(1)本報告書では,最近5年間の北太平洋の気候・海洋および生態系の状態を記述し,それより長い期間の変動(トレンド)も対象とする。(2)各海域における記述から共通する要因を抽出し,北太平洋スケールでの要約を作る。(3)生態系にとって何が本質的かを明らかにする。(4)生態系の理解にとって鍵となる問題,およびそれに必要なデータの不足を明らかにする。
それに対し,出席者から,本報告書の対象(ユーザ)を誰にするのか,また今後どれくらいの間隔で(第2回目以降の)報告書を作成していくのか,などといった質問が出された。ユーザーとして考えられるのは,北太平洋を対象としている科学者や資源管理の関係者,気候変動・資源管理に携わる行政者,一般の人々であるが,ここでは行政者および一般の人々にわかるような報告書を作成すること,一回作成した後も定期的なアップデートが必要であるが,毎年ワークショップを開催するとまではいかないと考えていることなどが説明された。また,章によってはデータの不足等から,対象とする期間の変動が記述できないケースもあることが指摘された。また,当方からは資源管理は個別の管理機関の活動を尊重するべきであることを指摘した。

発表準備中のペリー科学評議会議長と石田
後方はビチコフPICES事務局長
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その後,2日目の午前中にかけて,各海域の内容の紹介をリード・オーサーが発表し,質疑が行われた。全体的には「黄海・東シナ海」の原稿が提出されたこと,原稿の提出はないが,移行域およびNPAFCからも話題提供があったことなど成果は多かった。
2日目の午後から各水域に共通する事項を議論した。いくつかの意見のなかで,バチェルダーCCCC共同議長が各地域のスケトウダラ,マイワシ類,サケ類,イカ類の資源変動とそれぞれの漁業・環境の差異などとの対応の検討により共通する要因が導かれる可能性を指摘した点は支持できる意見であった。
当方からは,資源変動が漁獲係数と自然死亡係数により決まり,前者は漁業により把握できるが,後者は気候変動や生物生産,さらに捕食により変動し,今後,特に重要な研究課題であることを指摘した。また,各地域で海産哺乳動物の記載があり,アラスカ湾では魚類などの総-資源量500万トンのうち,漁獲量が56万トン,夏季の一部の海産哺乳類による摂食量が16万トンと推定されており,海産哺乳類による資源変動への影響も無視できず,調査が必要なことを指摘し,当面は報告書にこれらの情報を取り入れることを提案した。
この報告書が,行政者や一般の人々によりわかりやすい北太平洋の生態系の情報を提供し,また海洋科学調査の国際協力をより促進することを期待している。
(黒潮研究部長)
Yukimasa Ishida
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