中央水研ニュースNo.32(2003...平成15年7月発行)掲載

【巻頭言】
水産研究を巡る情勢と所のとるべき方向について
-平成14年度における所の業務の総括と平成15年度の運営方針に係わって-
所長 中村保昭

 我が国の研究開発政策は時代とともに大きく変わってきた。1980年以前は欧米に追いつくための「Catch-upのHow 追求型」の時代であった。そして,1980年代は,自主独立の基礎研究重視の「What」の時代であった。しかし,バブル崩壊を迎え,失われた1990年代に突入した。2000年代に入って,低迷する経済を活性化するため,産業技術力再生のみならず国や大学の研究も大きく変貌を遂げつつある。
 この中にあって,平成14年度は,独立行政法人化2年目を迎えた独立行政法人水産総合研究センター(以下,「水研センター」)の業務も軌道に乗ってきた。筆者自身は,水研センターの役員業務に加えて当所所長も担うこととなり,多忙な1年であった。14年度の主な出来事については,既に中央水研ニュース(No.31,2003)により当所10大ニュースとしてその概略をお知らせした。ここでは周辺の動きも加味しながら,当所の果たすべき機能・役割を,業務運営及び組織・人材等の観点から,14年度を総括しつつ15年度の方針を述べたい。
1.効率的な業務の推進に当たって
(1)試験研究業務
 研究所は知識を生産する場である。我々の役割は,現在の事態を解決するのに役立つ知識を生産することである。生産する知識とは,産業技術に関するものであり,その振興に役立つものでなければならい。科学に対する世の潮流は,この基本的な立場を変える世界宣言の採択(ブダペスト世界科学会議:1999年)により,「科学のための科学」から「社会のための科学」へと切り換えられている。産業は社会の中で富を作り出す最も大きな仕組みである。「知識が富を生み出す」との構図である。
 科学技術研究への国家的投資と,その成果の産業への応用は世界共通の政策である。科学技術創造立国の実現に向けて我が国はその先頭を走っている。これは,昨今急速に進展する産学官連携の動きからも裏付けられる。このような動き・考え等を踏まえつつ,中央水産研究所(以下,「中央水研」)としては,以下のように取り組んでいる。
 中央水研は,千葉県から鹿児島県までの中央ブロック内における資源・海洋・海区水産業に係わる「海区としての基盤的研究機能」,及び水産利用加工,内水面利用,水産経営経済の「全国に対応する基盤的研究機能」,並びに資源・海洋研究分野における「海区に共通する基盤的研究機能」を有している。これらに関しては,平成14年度計画に則り,9研究部及び1企画連絡室において一般研究39課題,プロジェクト研究62課題,我が国周辺水域資源調査等推進対策事業等を実施した。それらについては,水研センター規程に基づき,各研究部毎に,研究課題に対する大学,都道府県の水産試験研究機関(以下,「水試等」),民間等からの外部専門家(外部評価者)による評価(研究評価部会)を行った。この結果,ほとんどの課題に対して,「計画に対して業務が順調に進捗している」との評価を得た。
 併せて,当所の運営全般にわたる評価(中央水研機関評価会議:15/3/18) においても,総合評価として同様の評価を得たまた,人材育成のOJT(職場での職業訓練)の実践の場として,所の競争的資金である「シーズ研究」(採用課題3課題)や「所内プロジェクト研究」(同4課題)への多数の応募(競争率2倍)に加えて,外部の競争的資金にも積極的にアプローチし,獲得した。一例として,平成15年度からプロジェクト研究「ヒラメゲノム研究」を実施することになっている。このように,若手の人材育成と相まって,競争的環境も醸成されてきている。多様な発想は競争のなかから生まれる。「平等」ではなく「公平」という思想の下に,良い意味での競争的環境の醸成と国の研究機関としての役割を踏まえつつ,一層研究の成果が上がるように指導するとともに,競争的資金が獲得できるように研究の企画を充実させていきたい。
(2)試験研究に係わる調整業務
 我が国経済の再生は,幾倍ものエネルギーを出し得る産学官連携こそが,その鍵を握っている。独立行政法人の研究機関は,民間では不可能なエネルギー,宇宙,防衛といった巨大プロジェクトのほか技術シーズを産業化のレベルまで引き上げる基礎的・先導的な研究,必要に応じたベンチャー事業創出等が求められている。
 地域においても連携の機運が急速に向上し,今や「科学技術駆動型の地域経済発展」という時代に入った。とりわけ「知的クラスター」と「産業クラスター」との連携強化が加速されている。「産」は,国際競争力の源泉の強化を,「学」は基礎研究のカテゴリーの拡大を,「官」は施策立案・実施の合理性の向上が必要であり,政府主催の「第2回産学官連携推進会議」(15/6/7-8)においても,これらの意気込みが感じられた。この意味において,水産庁等の行政機関,水試等,大学,民間研究所等との連携・調整に係わる業務は,上記の目的を実行する上で極めて重要である。なお,連携に当たっては大学の独立行政法人化(平成16年4月予定)とともに水試等とは「地方独立行政法人法(平成15年7月2日:参議院通過)を踏まえて今後の在り方を検討しておく必要がある。
 中央水研は,「中央ブロック」・「水産利用加工」・「内水面利用」の水産業関係試験研究推進会議(以後,「推進会議」と略記)を,その重要な柱と位置づけている。本会議の下部組織として,部会,研究会・ワーキンググループを設置した。これらの機能の分担を明確にしながら,ニーズに対応した具体的な取り組みを中心に据え,問題解決に向けて取り組むとともに連携を進めた。なお,推進会議は,当該研究分野のみならず水産研究全般に関する「戦略会議」として,部会は当該研究分野の「戦略会議」として,研究会・ワーキンググループは当該研究問題等に対する「戦術会議」としてそれぞれを位置付けた。さらに,競争的資金獲得に向けての戦略・戦術を練る場としてワーキンググループを機能させ,連携・調整の機能強化を図った。
 この結果,競争的資金の獲得等,推進会議での協議に基づいて得た成果の他,例えば神奈川県と中央水研間で総括的共同研究契約を締結し,8課題について共同研究を実施した他,大学,民間機関との共同研究契約に基づく研究も積極的に推進し,多くの成果が上がっている。平成15年度も,既に,千葉,東京,神奈川,三重,和歌山,高知等各都県と推進会議の合意に基づいた共同研究「極沿岸海洋環境と定着性資源(略称)」の契約の締結・実施に加えて,東京大学,東京水産大学,日本大学等との共同研究の実施等,積極的に連携・協力を押し進めたい。
 平成14年度は,中央ブロック関連水域において,大型船舶の座礁等による油流出事故が数多く発生した。鹿児島県志布志湾(14/7/25),静岡県御前崎沖(14/8/8),東京都伊豆大島沿岸(14/10/1:座礁,11/26:火災),茨城県日立港錨地(14/12/5)が事例である。所内にいち早く「油流出事故対策委員会(委員長:企画連絡室長)」を発足させ,関係機関との情報交換や,初期対策等について支援・アドバイスを行った。また,相模湾で発生した「カギノテクラゲ」による刺傷事故等に対しても,神奈川県水産総合研究所と共同で原因解明と緊急対応等,機敏に対処した。
 今後も,推進会議の機能を「問題解決・地域完結型」と位置付け,一層の充実・強化を第一の主眼としたい。また,大学,民間機関等との研究協力を推進するとともに,共同研究の企画立案や競争的資金の獲得に積極的に挑戦したい。これにより地域及び研究分野等の問題を解決し,水試等及び水研センターが共に活性化・発展する推進会議としたい。また,万一の油流出事故等の社会的事件・事故等に対しても所を挙げて取り組んで行く。詳細については,本中央水研ニュース31号及び本誌の別掲を参照願いたい。
(3)研修・指導業務
 科学は知識の限界に挑戦するもの。先人が到達した知識を獲得した上でそれを乗り越えていくのが,その時代の科学者に課せられた使命である。科学研究は新規性を,成果は人間の知的活動への貢献(文化の形成)を,技術開発は実用化により経済効果を生み出す。現在,我が国は,産官学を含めて70万余の科学者・研究者を擁するまでになった。さらに多額の研究資金が投じられている。これらは社会から科学者に対するメッセージである。
 優れた後継者を育成していくため,大学生・院生等に対して,見学・研修,インターンシップ,出前講義,連携大学院等,各種制度による教育の補完を行った。或いは科学に対する子供たちの興味・関心の向上,若者の理科系離れの防止の観点から,教育現場では果たし難い体験学習,研究所一般公開,インターネット等による啓蒙・普及を進めた。本年度もこれらに一層力を注ぎたい。
 また,国際的には,多くの外国から賓客の視察・訪問の他,例年の如くJICAの水産加工研修,各種研修生,日本学術振興会外国人特別研究員等を受け入れるとともに,当所からも多くの職員を国際会議・委員会,政府系機関等に派遣した。国内では,中央ブロック資源管理研修会等を実施するとともに,水試や民間等から多数の研修生を受け入れた。また,水産業界や水産庁等の関係機関の各種委員会委員,学会等の委員や講演活動にも協力した。本年度も旧年度に増して積極的に対応したい。
(4)情報発信・交流業務
 大学は,平成16年度の独法化に備え,生き残りを賭けている。このため,大胆な知的財産戦略のもと,評価に直結する外部資金の獲得に大きく舵を切った。大学発のベンチャー企業は今や500社を超え,TLO(技術移転機関)の経済効果は,130億円を上回るという。このように,大学は,その知的財産と企業の独創・創造的な技術との融合・実用化を目指して,産学連携イノベーションやTLO等を推進しており,その意識改革には目を見張るものがある。これをさらに押し進めるため,研究者の評価には引用論文数のみならず,既往の研究・教育に加えて,知的財産の多寡や社会的貢献,つまり知財を多く得た者,それが活用された者が重視されつつある。一方,大学そのものの評価では,産業への具体的な寄与(産業化率)を評価軸に加えていく必要性が説かれている。
 研究成果の産業界へのスムースな移転には,知財の取り扱いが重要である。我が国でも,研究資金の流動化や知的財産の取り扱い等における規制の緩和・撤廃等による後押しが,産学官連携に拍車を掛けてこれらが,技術開発のスピードアップ化,クイックレスポンスに応えている。。なお,TLO[農林水産省関連は(社)農林水産技術情報協会が窓口]の充実,及び明確で柔軟な契約ルール(知財の帰属,守秘義務等)の整備等が必要とされている。また,外国に遅れをとっている特許情報についても,データベースの内容や検索機能の高度化等,改善すべき事項が多くある。
 アメリカでは,この意識改革は定着している。科学の原動力となる内在的な好奇心や面白さを重視する研究体制が,多くのオリジナルな成果と我が国の主要大学の10倍位の特許を生み出すとともに,ベンチャー企業創立やライセンス料にも結びついている。これを「対岸の火事」とするのではなく,むしろアメリカに倣って,「死の谷・ダーヴィンの海」のスムーズな乗り越えを目指し,研究と技術開発との狭間を埋めるべく,技術移転に一層務めることが重要と考えている。
 このような動き・考え等を踏まえ,中央水研として14年度は次のように取り組んだ。情報発信の強化としてまず,各研究部長による研究職員への論文作成等に係る個別指導を強めた。その結果,14年度は,研究職員一人当たり約1報を超える学会誌,水研センター報告等を発表し,センター年度目標値を超えた。また,研究成果の公表は研究所の活動の原点と位置づけ,所のホームページの内容を充実・随時更新した。最近の研究成果として「研究のうごき(第1号:平成15年7月刊)」を発行するとともに,所の玄関にある情報コーナーを刷新する等して情報発信の機能を強化した。特に,研究成果の技術移転の一層の理解を得るためや職員に広報活動の必要性を認識させるため,「納税者に成果を還元する」との観点から,以下の点に取り組んだ。すなわち,従前のパネル方式による研究成果の紹介に加えて,来訪者が直接手に取ることのできる研究論文(別刷り)を掲示したコーナーや,研究者の顔とでも言うべき「研究成果チラシ(各研究者が国民の目線に合わせて1年の成果をA4用紙一枚に集約した。)」を設置したコーナー(来訪者による持ち帰りを自由とした新たな試みでもある。)を新設し,広報
の強化を図っている。平成15年度も情報発信を所の重点事項として位置づけ,とりわけ広報活動に力を注ぎたい。
2.人材育成について
 我が国のこれからのモノづくりは,「作る」・「造る」から「創る」とする必要がある。「創る」で大切なのは人材である。我が国経済の再生や企業の実力は,人材の集積によって決まる。企業はその存亡を賭けて人材育成に先行投資を行っている。我が国は,「問題」を解決することに優れた人材を育ててきたが,今後は,良い「問題」を発見できる人材育成が必要である。それにはオリジナルなものを尊重する風土にしなければならない[野依良治(2001年ノーベル化学賞受賞)]。
 人の示す道を進むのではなく,自ら何をなすべきかを考える創造力豊かな人材を育てるには,企業も教育もその方向にギアを入れる必要がある。個人の重視は,1人ひとりの能力や成果をきっちり評価することから始まる。企業は年功序列制ではやっていけないし,教育も横並びではなく個性や能力を伸ばす指導が必要だ[江崎玲於奈(1973年ノーベル物理学賞受賞)]。何れにしても,教育がなければ人材の底上げが果たせないのも事実であり,教育に対する期待・注文も大きい。簡単に0から1は生まれない。また,人材育成に関しては,「発見には幸運が,発明には知性が必要だ(ゲーテ)」や「幸運の女神は用意された心のみに宿る(パスツール)」等の言葉にも学ぶべきことが多い。
 我が国の衰退が話題となるが,これは経済というよりも文化の衰退だ。文化で大切なのは,科学,論理,情緒,言語の4要素で,これらは強く関連する。「創る」においても,科学や論理だけでなく情緒や言語が重要な役割を果たす。そういう視点で,子供たちの心に「創る」ことの志をはぐくまなければならい。「創る」とは,物事を俯瞰できる知識基盤に立ち,しかも常識にとらわれずに好奇心を発揮することだとの至言もある。これらは,単に企業で留まるものではなく,当センターとも重描する。幅広い知識を習得させ,視野の広さ及び現場感覚を身につけさせ,競争心を持って学ぶことによって,人材の原石が磨かれることも事実であろう。
 研究の継承には,若い新鮮な血の補充が必須である。これを怠ると組織はたちまち動脈硬化を起こす。組織は正に人であり,人材こそが将来発展の源であり,この育成・確保に尽きる。研究の継承性と人材育成[水研センター広報:No.4,1~2(2003年5月)参照]の観点から,「幅広い知識を基盤とした高い専門性(真の専門性)」を有する研究者育成のため,OJTとして「専門性の深化(縦糸)に基づく専門性の活用(横糸)」をシステム(体制)としたい。関連して,研究者のライフステージ[全国水産試験場長会報:No.206,65~71(2000年8月)参照]に沿った育成の機会(例えば,資格取得,研究交流,プロジェクト研究への参画,教育・研修等)の付与においても,現状の研究室(2~3名)では小規模のためこれらに支障を及ぼすので,研究室の大型化が必須である。研究室制とグループ制を組み合わせることにより,スケールメリットを活かしたフレキシブルな対応が可能な研究室にして,後述する組織改正で生かしたい。
 何れにしても「知の世紀」と言われる21世紀を知識社会として捉え,頭脳と意志・行動力を資本とする時代を推進するには,「知の源泉としての人材の育成・確保」が必須である。他方,知識と知恵はいわば表裏一体である。すなわち,物事についての明快な理解・認識が”知識”であるとするなら,物事の理を考え,判断し,処理する働きが”知恵”,いわば知識は自ら外から得るものであり,知恵は自らひねり出すものと言える。知恵の閃く個性的な人材の育成,中でもKey Personの育成が要であり,”知恵”の土俵・環境つくりが管理を担う者の務めである。
3.組織の改正について
 水研センターでは,基礎的・先導的研究から生産現場における技術開発まで,体系的・効率的な研究推進が重要である。解決すべき問題の「複雑化」及び「困難化」に伴い,研究内容の深化が必要で,より専門性の高い研究業務が求められている。組織に基づいて仕事をするのではなく,仕事に基づいて組織をつくるとの発想の下,組織の見直しに当たっては,情勢に対応し,前向きな対応が必要である。このような観点から,当所では平成14年に,研究部・所・水研センターの各レベルを切り口として,各研究分野における情勢,ニーズ・シーズを取り込んだ研究の展望及びこれを効率的に推進するシステムを検討した。
 組織見直しの目的は,研究部・室間の重複部分を整理し,ニーズに合った合理的な組織をつくることである。組織の見直しに当たり,①基本単位を大型化する,②研究の継承性,人材の育成の観点を維持・発展させる体制とする,③共同して研究できやすくすることを考える等を基本的な視点・枠組みとした。具体的には,人材育成のOJTに連動させる組織体制とするため,①基本的なライン(指揮命令系統,所謂,縦軸)は部・研究室とする。研究室は,基本的に学問(科学)体系別とする。ここでは,室長の指導に基づいて,研究の継承性,人材育成等を含め,専門家集団としての学問・科学の質の向上を図る,②効率的に試験研究・業務を推進するため,部内,部間で連携し易くするために研究グループを設ける。研究グループは,複合的な分野にわたるプロジェクト研究や事業等に対応するものとする,③室長,主任研究官,研究員については,ライフステージに応じて,研究室業務や研究グループ業務等の比重が異なる等である。
 個別には,すでに平成15年4月に黒潮研究部黒潮調査研究官の業務を海洋動態研究室主任研究官に振り替えた。今後は,①内水面研究部門の強化・集中化(養殖研と協議),②利用加工研究部門の大型化,③基盤研究部門の再編(資源・海洋部門の研究業務の明確化と組織の大型化。黒潮研究部を含む。)等を図る。この内,内水面研究部門については,一定の手続きを経て,今年度の半ばを目途に組織改正を検討しているところである。残りは,改正の方向付けについてさらに所内論議を深化させ,9月末までには結論を出したい。10月以降,同月に予定されている3法人統合後の新組織に諮り,平成16年度期首を目途に組織改正を行いたい。何れにしても今回の組織改正は,研究業務の合理的な推進体制について検討しているものであり,各部門で知恵を出し合い,論議を深める必要がある。
4.おわりに
 我が国の官民のシステムの制度疲労が,時代の変化に追いつかない「日本病」として揶揄されている。この病根として①「前例主義」,②「危機意識の欠如」,③「先送り主義」があると言われている。また,我が国のシステムがバブル期の成功病に罹かっており,①「競争しない」,②「リスクを冒さない」,③「責任をとらない」の別の日本病御三家がはびこっているとの指摘もある。感染力の強いこれらの病いに罹らないよう日頃から体力の強化に努めたい。何れにしても,変わるリスクよりも,変わらないリスクが大きい。変化は進歩の一里塚でもあり,改革は「両刃の剣」でもあるが,「変革の時代・転換期における現状維持は退歩である。」との信念のもとに,プラス思考で業務に邁進したい。
 当所としては,今後とも我が国の水産業を巡る情勢と我々の役割を認識しつつ,特に「リスク」管理・リスト評価(事故・自然災害・食を通じて国際関係(法規制)」,「パートナーシップを考慮した情報発信・研究交流機能の充実」等を強化したい。これらの基本は部課長会議にあり,その推進力は企画連絡室長・研究部長の力量によるとの考えのもとに,所の運営に当たりたい。さらに,管理職の業務とは何かを常に問いかけ,管理職一同が問題意識を持って部下の指導・管理業務に当たるよう一層努めたい。もとより,世間に間々見られる文書や資料の「垂れ流し」,業務の「丸投げ」は以ての外である。
 最後に,平成15年10月1日には,海洋水産資源開発センター及び(社)日本栽培漁業協会との統合が予定されている。また,平成15年度は独法化3年目の中期計画の半ばにさしかかり,水産基本法のいう「水産物の安定供給確保」と「水産業の健全な発展」を意図とした中期目標を達成し,評価に堪えうる成果を上げるうえで,重要な時期となっている。このような重要な時期を迎えるに当たって,当所が持つ水産研究の中核的機能の一層の強化を図り,かつ研究成果を国民の目線に合わせて還元する等してその存在感を一層打ち出すことによって,話題性に富みかつ顔のよく見える研究所になるよう,その舵取りに傾注したい。

Yasuaki Nakamura
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