中央水研ニュースNo.32(2003...平成15年7月発行)掲載

【研究調整】
各部の平成14年度の活動と平成15年度の方針


[企画連絡室]
文書管理・広報活動等の基本的な業務の改善と研究企画の強化
14年度の具体的な取り組み,得られた成果及び問題点
 中央水研ニュース29号において,企画連絡室の平成14年度方針として,試験研究の企画・連絡・調整等の業務の充実,ブロック・利用加工・内水面関係試験研究推進会議の一層の推進,ホームページの整備・充実等に取り組みたいとした。
(1)推進会議は,試験研究機関等のニーズ等を踏まえ,問題解決をめざし1年を通して活動するもので,部会が活動の原点との位置づけで対応した。「ブロック関係」では,「プロ研課題化」,「沿岸定線調査」と「極沿岸域の海洋環境と定着性資源」の3つのワーキンググループ(以下,WG)で論議を進めた(中央水研ニュース31号で参照)。また,「キンメダイ」WGを新たに設置するとともに,本会議で「人材育成」等の協議を行う等,貴重な成果を挙げた。「利用加工関係」では,民間・団体部会からの重点事項の提案等,新たな取り組みが始まったが,所謂「勉強会」の出口をどうするか等,まだ,関係研究部が連携協力して進めているとの状況ではないとの認識をもっている。「内水面関係」では,「部会」の考え方の整理,重点課題への対応について本会議で合意していただいいた。現在,出発点に立った状況で,部会活動等,部長・室長を中心に積極的な対応を考えているので,ご支援をお願いしたい。
(2)ホームページの充実をはじめとする広報活動の強化については,参議院農水委員会の来研を機に積極的に取り組んだ。特に,研究成果を国民に還元することの重要性を踏まえ,研究職員が自らの研究成果をチラシとして取り纏めることに取り組み,殆ど全員から提出された。一部は,昨年11月以降,順次「研究のうごき」としてホームページに掲載し,この旨を水産記者クラブにも紹介した。また,年度末には,玄関脇の情報コーナーを刷新するため,部紹介パネルと研究成果パネルを作成・展示するとともに,「論文別刷り」と「チラシ」コーナーを設置して研究成果を紹介することとした。来研の際には是非,このコーナーを見学していただきたい。
(3)文書管理,研究の企画・連絡・調整等の日常的業務は,一昨年度と同様の方針で対応した。一般公開は,海区水産業研究部,黒潮研究部とこたか丸,内水面利用部,横浜庁舎と蒼鷹丸の全てで実施し,多くの来客があった。また,昨年度はとりわけ外国からの高官の来研やマスメディアへの対応が多かった。業務運営には特に問題はなかったと考えているが,プロジェクト研究の企画等には企画連絡室として充分に対応しきれなかったと反省している。
(4)13年度末に企画連絡室付きとして発足したゲノムチームは,「先端技術を活用した有明ノリ養殖対策研究事業」と所内プロジェクト研究「組換え体飼料を与えた魚類への影響」に取り組んだ。研究成果として,ノリ葉緑体ゲノムの塩基配列をほぼ決定し,50個のマイクロサテライトマーカを作出した。現在,鋭意,研究を進めている。
15年度の活動方針について
 公文書の取り扱いや起案文書の作成について再確認するとともに,Eメールの利点・問題点を見極める等,文書管理のあり方について検討し,業務の効率化・迅速化をめざしたい。広報活動については,ホームページの充実及び随時の更新を図るとともに,中央水研ニュースの発行や一般公開の開催等にもより積極的に取り組む。また,研究成果をわかりやすく解説し,積極的に発信するよう,職員一人一人の意識改革をめざしたい。例えば,最近の研究成果等を取り纏めた冊子「研究のうごき」を作成し,関係機関に配布したいと考えている。
 研究の企画・調整の面では,特にプロジェクト研究等の立案・企画に際して,研究者らが自由闊達に議論・活動できるよう支援したいと考えている。また,所関連推進会議では,前年度の方針を更に進めるとともに,部会の活性化を重点事項としたい。
 ゲノムチームでは,ノリ葉緑体ゲノム塩基配列による色彩関連遺伝子の同定を実施するとともに,本年度より新プロ研「ヒラメゲノム関連研究」及び「組換え水産生物検定法の開発」を開始する。
 15年度になって,新企連科長を迎え,ゲノムチームも2名増えた。「明るく」かつ「楽しく」の中にも,一人一人が一層成長できる室運営を目指す。企画連絡室業務は所内,関係試験研究機関,行政機関に跨るものであり,皆様のご指導とご鞭撻を宜しくお願いしたい。
(企画連絡室長 中野 広)

[生物生態部]
資源・生態に関わる基盤的研究の推進と事業等への貢献
14年度の研究活動等の総括:
 14年度は海区共通基盤研究部門として,海区水研資源関係部から要請される資源・生態研究に係わる調査・解析手法に関する基盤的な研究を推進し,そのためにプロジェクト研究に積極的に参画する方針の下に,一般研究3課題,プロジェクト7課題及び水産庁委託事業を実施しました。プロジェクト研究は前年の5課題より2課題増加しています。これらの研究では,競合や捕食関係を含む複数種の資源動態モデルについて検討した結果,離散型1次元拡散モデルが最適であると判断されるとともに,2次元の空間移動モデルについてマイワシのデータを用いてシミュレーションを行い,1990年代の資源量の減少を再現することに成功しました。また,マアジに関して,産卵場表面水温と再生産成功率の時系列変動の間に負の相関関係があることを見出すとともに,マアジ耳石の微量元素分析により地域個体群を区別できる可能性を示唆する結果を得ました。一方,主要資源について生産力とレジームシフトの関係を予備的に考察し,スルメイカに関してレジームに応じた動態モデルに基づく加入管理を提案するとともに,マイワシとマサバの再生産成功率の経年変動を密度効果,特定海域の表面水温および競合種の資源量を用いてモデル化しました。さらに,仔魚期のカタクチイワシがヤベウキエソとフウライカマスの2種と餌料を巡って競合していることを明らかにするとともに,フウライカマスによる1日当たりカタクチイワシ仔魚捕食量を5~10個体と推定しました。これらの成果は,学会誌13報,商業誌等13報,口頭発表16報,その他7報,特許等1件として発表・公表されました。特許は生物生態研究室(大関室長)が東京水産大学と共同で「小型浮魚類仔稚定量採集漁具」を考案し,特許出願・取得したものです。学会誌発表は前年の7報を上回り,順調に成果の公表が行われています。
 事業対応では,水産総合研究センターが水産庁から委託を受けて推進している資源評価調査事業に関連して,資源評価体制確立推進事業担当部長,資源評価・ABC算定基準作業部会リーダー,FRESCO作業部会リーダー等を務め事業の推進に資するとともに,マサバの資源評価及び漁況予報を分担・担当し,中央ブロック資源評価会議,太平洋イワシ・アジ・サバ等長期漁海況予報会議等でブロック対応における役割の一端を果たしました。また,黒潮研究部と共同でマイワシの資源変動に関する調査研究の総括を企画・推進し,残された問題点を抽出,今後の調査研究の方向性を検討しました。さらに,水産庁でABC説明会を開催し資源評価手法に関する理解の促進を図るとともに,国が推進する資源回復計画に関連するマサバの資源管理に関して,各種の試算結果を提供するなど水産庁関係部局及びまき網業界からの要望に対し,活動方針通り積極的に対応しました。
 委員等では,JICAマレイシア水産資源・環境研究計画分科会委員,日本水産資源保護協会中部国際空港に係る漁業モニタリング調査委員会委員,海洋水産資源開発センター沖合漁業等総合開発専門委員会委員,PICES 共同議長(WG16),PICES委員(MONITORタスクチーム)など応嘱した委員は計15件,学会等の委員計7件,連携大学院教官3名に上ります。外部に対する所レベルでの研修の実施では,中央ブロック資源管理研修会講師3件,招待された講演等3件,海外漁業協力等の実績1件でした。他機関との連携・協力では,海洋生産部とともに科学技術振興事業団との共同研究「日本周辺の海洋環境及び海洋生物データベース」を推進するとともに,神奈川水総研相模湾試験場との共同研究「耳石日周輪からみた相模湾におけるマアジ当歳魚の加入」を実施しました。学会等のシンポジウムの企画などでは,水産海洋学会シンポジウム「沿岸の環境と生態に関するモニタリング」を企画・担当しました。応嘱した委員は前年の7件を上回り,連携大学院教官は14年度から新たに応じたものです。このように研究活動以外でも外部の要請等に精一杯対応してきました。
15年度の方針:
資源・生態研究に関わる調査・解析手法に関する基盤的な研究を一層推進するとともに,そのために役立つプロジェクト研究を積極的に企画・提案します。水産庁からの資源関係委託事業の推進にあたっては全国的な総括,調整業務を率先して行うとともに,マサバの資源評価や資源管理方策の提案等を通じ,資源回復計画等の水産行政施策の遂行に貢献します。海洋環境研究部門との連携・協力の強化に努め,引き続き生態系や環境要因を考慮した浮魚類の加入量変動の予測,資源管理手法の開発を目指すとともに,レジームシフトと資源変動との関連解明に力を注ぎます。
(生物生態部長 入江隆彦)

フウライカマス全体像とその胃袋
捕食されたハダカイワシやシラスが透けて見える

[生物機能部]
重要産業種の資源生物学的な知見の充実をはかる
 生物機能部では,魚介類の生理状態と水温などの環境条件との関係を,遺伝子やそれらに基づき誘導されるタンパク質の性質の面から研究しています。また,水産生物の個体あるいは系統群等をDNAの塩基配列を基に識別する技術等について研究しています。これらの研究は水産資源の調査・管理の基盤的研究として重要です。
 14年度は,全水研の共通基盤的研究として,とりわけ先端的な研究手法の導入を視野に入れ,一般研究課題3件,プロ研課題4件,受託事業課題4件,シーズ研究課題1件を実施しました。主な研究成果は次のようなものです。①マガキをモデルとして二枚貝の環境変動への適応機能を明らかにするため,神経機能と内分泌機能を併せ持つ内臓神経節に注目し,そこで発現する遺伝子解析を進めました。マガキ内臓神経節特異的cDNAライブラリからランダムに選択した約900クローンの塩基配列を解析し,約340種類のcDNA情報を得ることができました。その中には,神経機能,神経内分泌機能,代謝,細胞内情報伝達など生命の維持に欠くことのできない重要な機能に関わる遺伝子が多数含まれていました。これらの遺伝子の発現を今後環境変化の指標として利用することが期待されます。②魚類の高温耐性に関する遺伝子として,ニジマスの温度ストレス下におけるストレスタンパク質遺伝子群について,その発現動態を培養細胞や個体レベルで観察しました。その結果,日光系ニジマスとスチールヘッド(降海性ニジマス)で部分的な発現パターンの差があることを見出しました。今後これら遺伝子の魚類の育種マーカとしての利用などが期待されます。③浮魚類の資源量推定には海洋から採取した受精卵の魚種判別が重要です。しかし形態的な違いが乏しいため判別が困難です。そこで遺伝情報を利用した高精度な魚種判別技術を開発し,浮魚類の資源量推定の効率化に資するため,アジ類やタイ類等で同定した海産魚類の核ゲノム種特異的領域について塩基配列データを蓄積しデータベース化しました。このような分子生物学的な指標は単に魚種の判別にとどまらず,近縁種や加工品の鑑別や原産地の判別にも利用されることが期待できます。これらの研究成果は学会誌10報,その他の報告8報,口頭発表10報として発表・公表されました。また,これらの研究は,研究契約に基づく4件の共同研究や契約に基づかない7件の協同研究など,産官学の連携のもとに実施しました。この他,JICA専門家としての部員の派遣1件や韓国研修生の受け入れなどの国際協力に関する対応がありました。
 15年度は,前年度からの継続課題については一層の研究の進展をはかるとともに,新しい課題についても積極的に取り組みます。海産重要産業種の生殖生理を中心とした資源生物学的な知見の蓄積等を図りたいと考えています。水産資源生物に関する共通基盤的研究を行うという生物機能部の果たすべき役割を再認識し,研究成果が多方面で活用されることを念頭に研究活動を進めます。研究ニーズを的確に把握するため,中央水研の他の研究部はもとより,各水研,県水試などとの連携・協力を視野に入れて進めることとします。また,得られた研究成果については国際学会誌への投稿など,様々な形で積極的に公表するように努めます。
(生物機能部長 横山雅仁)

[海洋生産部]
海洋環境に関わる基盤的研究の推進と連携の強化
 14年度の研究活動等の総括:
 14年度は海区共通基盤研究部門として,漁業生産の基礎となる海域の基礎生産力に関する研究や低次から高次に至る物質循環の研究を中心に,経常研究4課題,プロジェクト研究10課題,委託研究5課題,所内プロジェクト研究1課題を実施しました。この中では,国の要請に基づき,我が国周辺海域の海底土や魚類の放射能レベル及びバックグラウンド値の把握による放射能汚染の監視など全国対応的な研究を継続実施するとともに,「温暖化がプランクトン生態系に及ぼす影響の評価と予測技術の開発」や「混合域・亜熱帯域における大気/海洋のCO2収支の把握」等の基礎的研究及び「漁海況特異現象のデータベース化と検索システムの検討」や「栄養塩,クロロフィルデータのクオリティーコントロールとデータベース化」など,研究方針に従い海区の研究に役立つと考えられる基礎的手法の開発,標準化等を積極的に進めてきました。また,御前崎沖の定線観測により海洋の物理構造,基礎生産,プランクトン量を季節別に把握する調査を継続実施し,黒潮流軸域とその周辺海域における基礎生産力,クロロフィル,栄養塩の季節変動を明らかにしました。そして,有明海の特別研究に取り組む中で,干潟域水中のクロロフィル蛍光値は,浮泥とともに凝集・沈降した藻類や浮泥に付着した藻類が潮汐によって巻き上がることにより上昇し,表層泥のフェオ色素は諫早湾内の湾口付近が最も高濃度となっており,同時に酸化還元電位が最も低くなっていることを明らかにしました。さらに,前年度に引き続き海区水産業研究部と共同で,所内プロ研として「カギノテクラゲの毒性・分布生態の解明と分類・生活史の再検討」に取り組み,分類及び分布生態をほぼ明らかにしました。カギノテクラゲは潜水漁の行われる藻場に2月~6月頃発生し,北日本で猛毒を持つと恐れられているキタカギノテクラゲと同種であることが分かり,これらの結果を地元の漁業者にも説明しました。また,近年注目されるようになってきた森と川と海の関係解明に関する研究では,知多湾には 2000年の東海豪雨後1週間に平年の4.9年分の土壌物質が矢作川から流出し,窒素・リンについては東海豪雨後1週間の負荷量は全窒素で0.8年分,全リンで2.4年分に達し,土壌無機リン負荷の影響が極めて大きいことを明らかにしました。これらの成果は,学会誌7報,研究報告7報,商業誌等5報,その他の報告17報,口答発表32報等により発表・公表しました。学会誌報告は前年の9報より少ないものの,口答発表は前年の17報より多く,概ね順調に成果の公表がなされていると思われます。
 委員等では,海洋放射能検討委員会委員(海洋生物環境研究所)はじめ,原子力軍艦放射能調査技術参与(文部科学省),藻場・干潟環境保全調査事業検討委員(水産庁),三番瀬再生計画検討会議委員(千葉県)など応嘱した委員は計12件,学会等の委員8件に上りました。また,科学技術振興事業団との共同研究として,水産研究所が長年にわたって調査・収集し,紙ベースで保管されている日本周辺海域の海洋環境,卵・稚仔,プランクトン,及び魚体測定データをデータベース化する「日本周辺の海洋環境及び海洋生物データベース」事業を部長が推進責任者となり積極的に推進しています。招待された講演等13件,共同研究3件,連携・協力6件,受け入れ研修2件のほか,低次生産研究室の中田薫室長が水産海洋学会宇田賞を受賞しました。
 連携・協力に関しては,ブロック推進会議海区水産業研究部会における各県からの要請により,海区水産業研究部が中心となってブロック関係各県担当者の参加の下に新たに立ち上げた沿岸生態系作業部会において,アワビの減耗要因を解明するための極沿岸浅海域の海洋環境及び生物生産諸量のモニタリング調査項目,方法に関してアドバイスを行いました。ブロック推進会議の海洋環境部会は黒潮研究部と連携・協力しながら部長が窓口となって運営しましたが,沿岸定線調査等の問題に当部が主体的に取り組むまでには至りませんでした。また,マサバの資源予測等の具体的課題で資源研究部門との連携・協力を目標にしましたが,思ったようには進展していません。その他,海洋放射能研究室に新人1名(藤本 賢)が配属され,前年度の目標に掲げた国民生活の安全に関わる放射性物質や地球環境に関与する化学物質のモニタリング体制維持に一定の見通しがつきました。
 15年度の方針:
 海洋物理,海洋化学,海洋生物部門の共同調査,共同研究を一層促進し,データの取得及び解析の効率化・高精度化を図るとともに,海区の研究に役立つ新手法の開発,標準化などに積極的に取り組みます。資源研究部門との連携を一層強化し,マサバの新規加入量予測等の具体的課題で協力して問題解決に当たります。黒潮研究部と連携・協力してブロック推進会議海洋環境部会を運営するとともに,部会等で論議になった沿岸定線調査等の問題に積極的に取り組みます。当部の研究評価部会で外部委員から出された地方水試への成果の還元,実用面での活用,研究の指導等の要請を念頭に置きながら進めて行きます。
(海洋生産部長事務取扱 入江隆彦)

[内水面利用部]
効率的な内水面推進会議の構築を目指して
 内水面利用部は,内水面における水産生物の生態と資源の維持増進,水産資源の評価と漁業利用技術および水産生物の生育環境に関する業務を行うことになっています。現在内水面では,問題も多く,バス類,ギル類など外来種対策と在来種や生態系に及ぼす影響の解明,アユの冷水病,希少種の保護,カワウ対策,湖沼・河川の生態系保全,漁業,遊漁の振興など多岐に亘っています。平成14年度の研究活動も,一般研究(経常研究)3課題,プロジェクト研究10課題,水産庁等からの受託事業など6課題を実施してきました。それらの成果については,国内外の学術雑誌への論文投稿,学会等で積極的に公表することに努めた結果,学会誌への投稿が12編,学会での口頭発表が13課題,プロ研,事業報告書6編となりました。また,オランダで行われた国際生物多様性会議に2名が派遣され,生物多様性や環境保全についての現状,方針などについて,外国の著名な研究者と活発な議論を行ってきました。その他,長野県水産試験場,長崎大学,滋賀県水産試験場,山形県内水面試験場,和歌山県農林水産総合研究センター内水面漁業研究所などとの共同研究を継続しています。
 14年度の成果の一部を紹介すると,生態系や在来魚への影響が問題となっている外来魚コクチバスについて,卵や仔魚を保護する雄親を除去することで卵仔魚を死滅させ個体数を効率的に減少させる「繁殖制御マニュアル」を作成しました。また,外来魚ブルーギルについては,ナマズが10日間に50尾のブルーギルを捕食すること,ナマズの大食漢を応用し,ブルーギルを駆除し湖沼・河川の生態系を復元させる可能性を示唆しました。アユについては,アユが珪藻を採食することで藻類種構成が変化し,珪藻から栄養価の高い藍藻に変化し,結果としてアユ自身が畑を耕し,ガーデニングを行い食料生産を行っているというユニークな研究です。また,水生昆虫,ウグイ,アユの種間関係を調べ,藻類を食べる水生昆虫がウグイに食べられることにより,藻類の現存量が増大するため,アユの成長が良くなることを明らかにし,河川の生物多様性を高める意義を提唱しました。
 平成14年度全国内水面推進会議が平成15年2月に開催されました。推進会議開催や部会設立に関するに情報伝達の不備の指摘等の反省事項が多々ありました。全国湖沼河川養殖研究会,場長会議,推進会議の関係の問題,部会設立の問題などが活発に協議され,資源・生態保全部会(仮称)と養殖部会(仮称)の二つの部会の設立が提案され了承されています。前述のように内水面関係では多くの問題が顕在化していますが,水試等が実際に直面している問題等を科学的に明らかにし,これらに対して具体的に対処方法を提示することが重要であります。我々は,推進会議が最も効果的に問題解決を図ることができる場であることを,実例で示す必要があると思います。その時こそ連携・協力は強化され,信頼関係も自然と生まれてくると確信しています。部会は,推進会議の運営の効率化を図るためのシステムのパーツの一つであり,円滑に推進するための潤滑油的役割を果たすものです。研究分野責任者間(部課長クラス)での分析,情報収集,情報の共有化,問題解決のための戦略等を日常的に行い,常に活発な議論ができる場としたいと思います。また,問題に直面しているのは研究者ですから,担当者が中心となり部会の下部組織となるワーキンググループ(WG)や研究会を設置して,ニーズ,問題に関する調査・研究手法の検討,共同,共通研究課題の企画,立案を行います。15年度にはアユの冷水病に関するWGの設置を考えています。現在施行されているアユ冷水病対策事業では,その発現原因が明らかとなり,対応策も実験室レベルではあるものの完成しつつあります。今後は,自然水域での対策立証試験が必要となるため,アユ研究者が中心となりWGを設立することを考えています。
 小職は5月14日付けで,今まで経験のない内水面の世界に飛び込んできました。あまりにも問題が多いので驚嘆していますが,推進会議,部会,WG等を活用して積極的に問題解決に取り組んで行きます。問題を解決するには水研センター内水面部門と各県内水面関係機関等との関係や連携・協力がキーワードとなりますので,関係機関のご協力をよろしくお願い致します。
(内水面利用部長 白石 學)

[利用化学部]
水産廃棄物を宝の山に
 利用加工関係は,年度計画に記されている大課題「消費者ニーズに対応した水産物供給の確保のための研究」を中心とした試験研究を行っています。その中で,利用化学部は,未利用の水産物や水産廃棄物等の資源に含まれる各種の成分の理化学的性質及び機能性物質の特性を探索・解明し,それらの成分や機能の利用技術の開発を行うことで,低・未利用で貴重なバイオマス資源を有効利用しようとしています。
 14年度には,この大課題に沿った一般研究,プロジェクト研究,事業など,23の小課題について試験研究を実施し,研究広報として,学会誌への発表が16件,公刊図書が1件,その他の報告が28件,口頭発表が29件,特許が2件,合計76件を公表しました。主な研究成果としては,化粧品素材として注目を集めているセラミド誘導体が二枚貝に豊富に含まれることが分かり,実用化に向けた研究を平成15年度から開始しようとしていること,ワカメと魚油(魚油を含んだ焼き魚など)の同時摂取が脂肪肝や高脂血症等の生活習慣病の予防に有効であるだけでなく,魚肉タンパク質自体にも,線溶系亢進作用などの有効な機能を持って健康維持に有用であること,外見だけでは区別が難しいマダイとゴウシュウマダイの判別が遺伝子の分析から可能となり,また,チダイとの区別も可能となったこと等が挙げられます。
 部員は,行政部局や各種団体からの要請による種々の委員や連携大学院教官,特別講演など対外的な面においても広く対応いたしました。また,他機関との連携協力については,契約に基づく共同研究を6件,連携協力した研究を13件,研修の受け入れを7件,海外協力を2件というように,民間,都道府県,JICA,JIRCASなどからの要請に積極的に対応しました。
 13年度の利用化学部評価部会では外部評価委員の先生から「初年度の課題が多いという事情はあるが,学会誌などへの投稿が口頭発表や事業報告などの他の報告形態と比較すると,やや少ない」との指摘を受けました。14年度にはこの指摘に積極的に対応し,学会誌などの査読付き論文は7編から16編へと増加しました。今後も,得られた成果はできるだけ早く,また,種々の方法で広報していこうと考えています。
 また,13年度には,都道府県の抱える水産利用加工関連の問題を4つに集約し,ブラッシュアップして問題解決を図ろうとする勉強会の立ち上げを水産利用加工関係試験研究推進会議に提案し,了承を得ました。そして,①イカ新需要開拓のための技術開発,②水産加工廃棄物の創資源化技術開発,③腸炎ビブリオ対策など魚介類の安全性確保技術開発,④美味しい養殖魚作りと超鮮度保持技術の開発の4つについて,14年11月の「都道府県部会」後に勉強会毎に集まって,意見交換や今後の進め方などについて熱心に討議しました。参加・不参加・脱退は自由で,現在でも,参加希望があります。また,メールを用いた会の運営は初めてのことですが,都道府県からの課題の提案などがあり,15年度は積極的に対応して行きたいと考えています。
 15年度は,13年度に策定した実施課題の3年目に当たり,14年度の利用化学部評価部会で了承いただいた研究実施内容に沿って,試験研究を進めていきます。主な研究方向としては,世界各地から日本が輸入しているウニの原産地特定技術の開発,アオサなどの未利用海藻などの生理活性機能の探索や有効利用技術の開発,二枚貝の未利用部分からのセラミド脂質の抽出利用技術の確立,水産物中心の日本型食生活がもたらす生活習慣病予防効果の解明,本年度開始のアブラソコムツやコンブの未利用部分の有効利用を目指す水産バイオマス事業など,海藻,貝類,甲殻類や魚類などの水産生物が持つ機能を解明し,低・未利用の水産生物や加工残滓などの工業素材・工業原料・医薬品・化粧品等への利用を図ることで,生産から消費までのトータルな発展を目指すという利用化学部の基本に沿った研究を推進していきます。
 また,研修や共同研究などの各種の要請や研究成果の広報等についても,積極的かつ広範囲に対応していこうと考えています。
(利用化学部長 池田和夫)

[加工流通部]
がんばれ水産加工業
14年度の活動の総括:
 14年度当初方針として,研究活動の活性化,行政施策への貢献,特に,食の安全性確保等の社会的要請への積極的対応等の目標を掲げてスタートした。
 加工流通部の抱える総研究課題数は平成13年度の21課題から,14年度は23課題へと増え,研究者一人当たり(部長を除く)2.6課題となった。発表論文数は前年と同じ13報であったが,公刊誌6報,その他の研究報告15報,国際学会等も含めた口頭発表は23件であった。この他,JICA研修の実施やSEAFDECへの派遣などの国際貢献においても,多様で充実した研究活動を実施してきた。また,「水産物品質保持技術開発基礎調査事業」等の多くの水産庁の事業の推進,継続参加,課題提案を通じて,行政施策へも寄与してきた。
 今年は,食の安全・安心への対応がますます喫緊となった。当所では,ウナギの偽装表示問題を契機に,「近縁魚介類等の魚種判別および漁獲地判別技術開発」研究が,農林水産技術会議の先端技術を活用した農林水産研究高度化事業としてスタートした。14年度の成果として,ミトコンドリア遺伝子を指標として,日本種とヨーロッパ種のウナギを判別することができるようになった。また,こうした方法は缶詰や干物等のほとんどの水産加工品についても応用できる事を明らかにした。一方,微量成分を用いて漁獲地を推定する技術開発にも取り組み,一定の成果が得られており,表示を検証できる科学的手法の開発に繋がるものと期待されている。さらに,14年度に開始され,15年度に拡大更新された農林水産技術会議の「食品の安全性及び機能に関する総合研究」に新たに水産関係で7課題を提案し,参加することになった。その内容については今年度の方針で詳述する。
15年度の活動方針:
 中央水産研究所の利用加工分野の存在が見える研究活動を展開したい。例えば,課題の提案や成果の広報に力を入れる他,トップネームの論文を増やしたい。
 連携・協力では,水産庁が今年度から全国各地で実施する「地域水産加工セミナー」に積極的に協力する。利用化学部と加工流通部は,共催関係機関として,水産加工技術の地域水産業への移転,水産加工業の振興や活性化を図る。また,部を越えて,さらに公立研究機関との連携等の様々な機会を捉え,多様な方法を駆使して地域水産加工業を応援していきたい。
 水産食品の安全性に関する研究では,上述した「総合研究」の中で,当部として新たに「魚介類の凍結履歴の有無の判別技術開発」,「水産物中のカドミウムと水銀分析手法の確立と現状把握」と「ビブリオ属及びヒスタミン生成菌群の一斉検出法の開発」の3課題を担当する事になっている。着実に研究を進め,消費者の立場にも軸足を置き,信頼確保のために,こうした課題に今後とも積極的に対応する。
 以上,関係機関・研究部と協力し,「がんばれ水産加工業」をスローガンに,さらに充実した成果を上げられるよう努力していきたい。
(加工流通部長 中村弘二)

[経営経済部]
他分野との連携の推進
 経営経済部では,水産物の国内及び国際的な需給・消費・流通構造の解明と地域振興計画手法の開発(中期計画)にむけて,平成14年度は,一般研究課題4,交付金プロジェクト課題1,受託事業関係8課題を実施しました。
 一般研究課題については,まぐろ類の安定的な漁獲量と価格水準の解明,産地集出荷拠点の効率的配置モデルの開発,水産業活力を診断するための「水産業活力指標」の開発,沖合底びき網漁業における資本投資の経済性評価手法の開発の4課題を実施しています。何れも5年計画の2年目であり,研究評価部会では各課題とも順調に進捗しているとの評価を得ました。今年度は,中間年次であるだけに,研究の出口を意識した研究の推進が必要となります。一般研究の主要成果としては,まぐろ価格水準に関する課題において,まぐろ類の供給関数の推定により,地域漁業管理機関非加盟国の漁獲が資源に及ぼす影響を分析し,まぐろ類の漁獲量のうちTACの設定されていない部分は過去の漁獲量と価格によって説明されることを明らかにしました。その成果を成果情報として取りまとめました。
 交付金プロジェクト課題の都市・漁村連携による漁村活性化手法の開発では,愛知県吉良町における潮干狩りのレクリエーション価値をTCM法により経済評価しました。この成果も成果情報として取りまとめました。
 水産庁の委託事業課題では,水産物持続的利用推進事業における貿易自由化の我が国水産業や地域経済への影響の分析,水産基盤整備事業におけるローコストの事業評価手法の開発と流通施設整備の事業効果の分析,水産加工残滓リサイクル事業における残滓発生量の把握と高度リサイクルのためのシステム開発に関する基礎的調査研究を実施しました。研究成果は,研究成果発表会で報告するとともに報告書として水産庁に提出し,水産施策の推進に貢献しました。
 14年度は,前年度の研究評価部会や機関評価会議における「他機関との連携を強化する必要がある。」の指摘に基づき,他機関との連携にも努めました。
 水試との連携に関しては,前年度に引き続き,神奈川,秋田,福井の実施する特定研究「遊漁と資源管理」に関する研究推進のための支援を行うとともに,神奈川県とは共同研究契約に基づき,魚価向上対策に関する研究協力を行いました。また,部内セミナーの開催頻度を高め,他機関からの参加も呼びかけるなど,情報交換の場としても活用しました。
 海外の機関との連携としては,日韓農林水産技術協力事業における韓国水産科学院や国際農林水産業研究センター(JIRCAS)の国際プロジェクト研究に関わる東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)からの研修生等を受け入れるなど,国際研究交流にも積極的に取り組みました。
 他機関との連携強化の課題のうち,水試等の経営経済関連研究ニーズを把握し,共同研究の課題化や当部の研究方向の検討に反映するための情報交換の場の設置については,前年度内に実現できませんでした。これについては水試等の意向も聞きながら,年度内の実現に向け,早期に会の持ち方を検討します。
 また,経営経済部は水研センター内唯一の社会科学研究部門であり,センター内の他の研究分野との連携も他機関の連携とともに重要な課題です。今年度は,2法人との統合も控えており,それら機関との連携も視野にいれつつ,課題化を通じて他分野との連携の方策についても積極的に検討していきます。
(経営経済部長 平尾正之)

[海区水産業研究部]
沿岸資源の増大を目指してアワビなどの共同研究が始動
 海区水産業研究部は,沿岸資源の維持・増大と沿岸漁業が抱える問題に対応するために,都県等の関係機関と連携協力して,4つの一般研究課題と3つのプロジェクト課題,そして資源評価と水産基盤に関する委託事業により14年度には以下の研究内容に取り組みました。
 ①暖流系アワビ類資源の減少原因を,生理的生化学的側面(親貝の産卵機能の低下の有無)と生態的側面(加入量変動機構)から究明。②栽培対象種ヒラメの生体標識技術開発の基礎となる色素胞の分化増殖の制御機構の解明,および浅海砂浜域のヒラメ稚魚を中心とした種間相互関係の栄養生態学的の解明と,放流適地の環境条件等の解明。③沿岸重要資源マアナゴの加入量変動に影響する接岸機構の解明。また,マダイ,ヒラメ,トラフグなど栽培対象種の資源評価の高度化と資源回復計画への貢献。
 平成14年度に得られた主な成果として,①アワビ類の再生産の生理的側面として,クロアワビの成熟卵巣にメガイアワビ,トコブシの卵巣と同じ2本の卵黄タンパク質バンドの出現すること,生態的側面として,暖流系アワビ類の浮遊幼生は表層に最も多く出現し,幼生出現ピーク時の海洋環境が初期稚貝の着底密度の年変動に影響し,稚貝生息密度は産卵期の同所の幼生着底密度と対応すること,②安定同位体比分析から,浅海砂浜域の優占種の一つサビハゼがヒラメ稚仔魚と類似した食性を持ち強い競合関係が予想されること,放流ヒラメは約3週間で天然魚と類似の同位体比の値(天然に馴致?)を示すこと,③沖合域で初記録となる70個体のマアナゴ仔魚(全長80-110mm主体)を採集,それらの分布が12-18℃の表層水温範囲にあり,同水温時期に沿岸域へ来遊すること,④マダイ・ヒラメなどの放流が天然資源の資源動向に影響していること,などを明らかにしました。
 また,5,6月に横須賀地先のアワビ採貝漁業者に被害をもたらすクラゲがカギノテクラゲであることやその出現・分布生態や毒性を所内プロジェクト研究で明らかにし,その成果を漁協で報告するとともに,発生状況に関する情報を漁業者に発信しています。
 15年度の研究活動として,①アワビ類の成熟期に変化する卵黄タンパク質等の生殖腺特異的成分を特定し,その動態と成熟との関連の把握。②アワビ類の加入量指標値を定量的に把握するための調査手法を検討し,潜水による直接法により推定した親資源密度と加入量水準との関係の把握。また,アワビ類の種毎の分布特性に応じた浮遊幼生の定量的採集技術を開発し,種別の付着基質選択性の解明,③砂浜域ヒラメ底魚群集の主要種について,胃内容物査定,安定同位対比,体成分等を分析し,底魚群集の食物連鎖構造とエネルギーフローの把握,また,放流稚魚の天然海域への馴致過程,群集構造に与える影響等を検討。④マアナゴ仔魚の耳石微量元素を日齢を追って測定し,沿岸域に至る分布との関連の解析,などを行います。
 平成13年度中央ブロック推進会議海区水産業研究部会において,広域的に減少しているアワビや大型褐藻など沿岸資源の増大を図るには,ブロック内の研究機関が連携協力して,沿岸の海洋環境を考慮に入れた調査研究を行うことが重要性であることが共通認識となり,「沿岸浅海域の環境変動が定着性水産生物の生産性に及ぼす影響の評価に関する調査・研究手法を検討する」WGが設置されました。このWGで一年を掛けて問題点を洗い出し,調査研究課題を検討・整理しました。そして,14年度の推進会議では8つの研究機関が参画する共同研究の企画案が承認され,平成15年4月から共同研究契約を結んで研究を開始しました。さらに本活動を進めるため,当所の海洋生産部と協力して,所内プロ研を実施することになりました。また,アサリ資源の減少原因の解明と資源回復に関する都県からの要望を受けて,上記WG中にアサリ検討グループの設置が親部会で承認され,3月末に第1回の検討会を開催しました。現在,関係機関でメーリングリストを立ち上げ,共通認識に立った問題点の整理,予算化に向けて具体的に動き始めました。関係機関の更なるご協力をお願いします。
 平成14年度中央ブロック推進会議の資料によると,昨年の都県試験研究機関が行った研究・事業課題の約半数が栽培漁業に関係するものでした。しかしながら,今後の沿岸漁業を考える上で,特に栽培漁業に焦点にあてて研究課題や事業予算等について検討する時期にきているように思われます。このことを15年度の重点課題として検討したいと考えていますので,今後ともご意見・ご協力をお願いします。
(海区水産業研究部長 靍田義成)

[黒潮研究部]
資源変動と海洋環境との関係への挑戦
 黒潮研究部は,平成14年度,黒潮域の資源・海洋研究を中心に,一般研究5件,プロジェクト研究10件,委託事業8件を実施しました。
 一般研究では,水温別にカタクチイワシの卵の分布量を明らかにし,卵数法を用いて直接的に資源現存量を算定しました。またウルメイワシの漁場形成と,餌の分布,土佐湾内の流れや黒潮の流路との関係について仮説を提示しました。平成15年度は中期計画の中間点です。これまで蓄積されてきた資料を解析し,論文化に努めるとともに,中期計画後半への研究展開につなげたいと考えています。
 プロジェクト研究では,沿岸漁業へ加入する直前のマアジ仔稚魚が都井岬~種子島周辺の海域に集中して分布することを確認しました。また九州東岸で採集されたマアジ稚魚の孵化日を耳石から推定すると2月下旬から3月下旬となり,相模湾で得られるマアジの孵化日の範囲とほぼ一致することが分かりました。今年度も調査を継続するとともに標本をさらに詳しく分析し,マアジの加入機構の解明に迫りたいと考えています。
 委託事業では,マイワシなどの生物学的許容漁獲量を算定するための調査研究を実施するとともに,長期漁海況予報会議や資源評価会議などを開催しました。特に資源の低迷が話題になっているマイワシについては,水産庁や外部の有識者の方々,当センターの多くの研究者の方々の協力を得ながら検討会を開催しました。その内容については事業のホームページに掲載されています(http://abchan.job.affrc.go.jp/index.html)。15年度には,資源評価や予報の精度向上だけでなく,資源変動と海洋環境との関係の解明が要請されています。これらの課題に取り組みながら,さらに分かりやすい成果の広報をめざしたいと考えています。
 中央ブロックの研究推進の面では,「海洋環境部会」と「漁業資源部会」のもとに設置された2つのワーキング・グループ(以下,WG)が活発に活動しました。研究課題化WGは各機関と協議しながら,「ブリを通して海洋構造が見える」をキャッチコピーに「ブリ・ネットワークによる黒潮水域の海洋環境変動予測技術の開発」を提案しました。沿岸定線調査検討WGは沿岸定線調査をブロック全体で対応して行くことを再確認するとともに,「海洋環境基本図集」の作成などを共同ですすめ,沿岸定線調査の水産および自然科学への貢献について一般に分かりやすい形で示していく予定です。また,新たにキンメダイに関するWGを立ち上げ,関係機関の研究者と意見交換し,共通の理解を得ることができました。さらに中央ブロック全体の公的連絡網として「掲示板」の設置や「黒潮の資源海洋研究」誌を中央ブロックの刊行物として継続することなどが決定されました。15年度には,これらの決定事項を実行するとともに,人材育成や研究の効率化など各機関に共通する課題に取り組みたいと考えています。
 このような黒潮研究部の調査研究,資源評価などの行政対応,そして中央ブロックの研究推進への対応といった3本柱の活動は,3月の機関評価会議でも高い評価をいただきました。15年度の黒潮研究部の方針は,このような活動を継続するとともに,とりわけ近年注目されている資源変動と海洋環境との関係の解明に挑戦していくことです。今後とも皆様のご意見・ご協力をよろしくお願いいたします。
(黒潮研究部長 石田行正)

[蒼鷹丸]
調査技術の向上
 14年度運航実績:
 運航日数については,本部の基本方針である400~800トン型年間180日を目安に,177日の運航計画が作成された。調査航海によっては台風等の影響で短縮された場合もあったが,その後の航海で調整され,結果的には当初目標に近い176日の運航実績が得られた。
 調査航海の成果については,後日,各乗船調査員から報告されるものと思われるが,本船に係るトピックスとしては,7月22日の北海道日高舟状海盆において水深7490mからの採泥に成功したことであろう。これは,蒼鷹丸にとって採泥の最高水深記録である。
 平成13年度の定員削減で名称変えとなった看護士室を,研究者からの強い要望により,調査員室へ変更することとした。10月のドック工事でベッド1個を増やし,2人部屋とした。この結果,乗船可能な調査員は7人から9人に増加した。
15年度運航予定:
 昨年末に各研究室から提出された希望日数は206日であったが,各調査航海の日数調整が行われた結果,平成15年度の運航予定日数は181日間となった。
 調査内容も年々新しい項目が付加されることから,調査員の希望に叶う成果が上げられるよう乗組員の調査技術の向上に務めるとともに,調査員との意志疎通を十分に図っていきたい。
(蒼鷹丸船長 飯田恵三)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
back中央水研ニュース No.32目次へ
top中央水研ホームページへ