中央水研ニュースNo.32(2003...平成15年7月発行)掲載

【研究情報】
外来魚ブルーギルに関する話題
片野 修

ブルーギルとは?

ブルーギル.当歳魚は可愛い顔をしている.
 ブルーギルLepomis macrochirusはブラックバス(オオクチバス,コクチバスなどの総称)と同様にスズキ目,スズキ亜目,サンフィッシュ科に属する淡水魚です。北米において海に生息するスズキ型の魚が大西洋から淡水域に進入したのち,適応放散したと考えられています。日本では,サンフィッシュ科の魚で定着しているのは,オオクチバス,コクチバス,ブルーギルの3種くらいですが,北米では約30種が知られています。ブルーギルの本来の分布は北米のロッキー山脈より東の地域に限られていたらしいのですが,現在では自然にまた人為的に分布を拡げており,日本のほかカナダ,アフリカなどでも広まっています(1)。
 日本には1960年に17尾が移入され,当時は養殖用に有用であると信じられて,人工増殖やいくつかの湖沼への放流が行われたことが記録されています。実際ブルーギルは良質の餌を与え続ければ,30㎝ほどの大きさになります。私も琵琶湖産のブルーギルを塩焼きにして食べたことがありますが,十分に食用になると記憶しています。しかし,日本の湖沼においてブルーギルが大きく育つことは稀なことがわかってきました。湖沼等に侵入した当初は20~30㎝に達するものが多く出るものの,やがてその湖沼の餌を食べ尽くすと,個体群全体が餌不足となり,大半が5-15㎝程度の小型個体ばかりになってしまうのです。また小骨が多いこと,皮が匂うことなどによって,養殖用としても人気は出ず,1980年代にはブルーギルの養殖はほとんど行われなくなりました。
ブルーギルの分布の拡大
 1980年代になって,ブルーギルの養殖や公的機関による放流が行われなくなったにもかかわらず,ブルーギルは全国に分布を拡げるようになりました。しかも,小さなため池や沼のように,水産事業が行われていないような場所でも見かけるようになりました。この頃は,ブラックバス釣りが盛んになっていった時期ですので,ブラックバスの放流と合わせてブルーギルも放されていったのかもしれません。当時は,ブルーギルはブラックバスの餌となるので,ブラックバスを増やすためにも,ブルーギルを放流するのが良いと考えられていた可能性があります。
 湖沼や河川でブルーギルはブラックバスと共存することが多いのですが,ブルーギルが侵入するとブラックバスは減少することが報告されています。ブルーギルはブラックバスの産卵床へ侵入して,その卵を大量に捕食するので,ブルーギルが増加するとブラックバスは減少するといってよいでしょう。しかし,ブラックバスとブルーギルが生息する湖沼では,その両方とも駆除しないと,元来の生態系は取り戻せません。そういう意味で,ブルーギルが侵入することによってブラックバスが減ると喜ぶわけにはいきません。現在では47都道府県のすべてにブルーギルは分布しています。そしてブルーギルは何の役にも立たない害魚として,嫌われる魚になってしまったのです。
ブルーギルはどうして強いのか?
 日本には多くの外来魚が移入され,報告されています。その中でブルーギルの増殖力は極立って強く,その分布を拡げ個体数を増やしているのですが,その理由は何でしょうか。ブルーギルは北米の温帯域で進化したので,日本の水温環境が適しているということが第1に挙げられます。また沖縄から北海道まで分布することから考えると,広い水温耐性をもつと考えられます。生態的には,食性の広さも大きな武器となっています。ブルーギルは,水中や水面の昆虫はもちろん,泥の中のユスリカなどもよく食べます。他魚種の仔稚魚や卵を食べるのも上手です。幼いうちは水中の動物プランクトンを捕食することが多く,水草などの植物も摂食します(2,3)。つまり,口に入るものは何でも食べるのです。さらに繁殖期には産卵床に卵を産みつけ,雄がその卵を守ります。そのために卵の生存率は高く,1つの産卵床から出現する仔稚魚は5千-22万尾に達するという報告があります(1)。少数のブルーギルの親から膨大な数の子供が生まれるのです。
 ブルーギルが在来魚に与える影響の詳細は必ずしも明らかになっていませんが,滋賀県の瀬田月輪大池では3万個体生息すると推定されたモツゴがブルーギルの侵入後にほぼ消滅したという報告があります(4)。かわりに池では2万個体のブルーギルが確認されたことから,モツゴはブルーギルによって絶滅させられたと考えられています。このほか長崎県の川原大地では,ブルーギルとオオクチバスの侵入後,モツゴ,カワムツ,ウキゴリ,メダカなどが激減したという報告もあります(5)。琵琶湖では,1000トン以上のブルーギルが生息するという推定がされています。いたるところにブルーギルが生息することが,漁業にも悪影響を与えているのです。
ブルーギル食害等影響調査事業
 このような状況下で,ブルーギルの生態的特性や生態系への影響を明らかにし,駆除方法を開発するための事業が水産庁栽培養殖課のもとに平成14年度から推進されており,私ども魚類生態研究室が全国内水面漁業協同組合連合会とともに,とりまとめ役を務めています。中央水産研究所内水面利用部で2課題(ブルーギルの個体群構造及び食物関係の解明・ブルーギルをめぐる捕食関係の解明)のほか養殖研究所遺伝育種部が1課題(ブルーギル3倍体を利用した駆除技術の開発及び遺伝的多様性の解析)担当し,ほかに9県と3大学が駆除技術の開発やブルーギルの生態系への影響について取り組んでいます。まだ2年目なので,全体の成果を提示する段階ではありませんが,私が担当している課題について現在までの状況を報告したいと思います。
ブルーギルをめぐる捕食関係の解明
 ブルーギルをめぐる捕食関係とは,ブルーギルによる他の魚類の捕食や,他の在来魚によるブルーギルの捕食の実態を解明し,その影響評価や駆除技術の開発を行うということです。平成14年度には,3つの実験・調査を行いました。

ナマズ.上田庁舎で飼育している個体.
 第1に,ブルーギルによる在来魚の捕食の実態を明らかにするために,120㎝水槽に標準体長5.7-14.3㎝のブルーギルを1個体ずつ収容し,そこに2.5-7.9㎝のモツゴを15個体ずつ放して,どれだけ捕食するかを調べました。その結果,3㎝未満の小型モツゴはほとんどのブルーギルに捕食され,3㎝以上のモツゴについては,ブルーギルが大型になるにつれて,より大型の個体が捕食されることが明らかになりました(6)。もっとも大型の14.3㎝のブルーギルは6.4㎝のモツゴをも捕食したので,ブルーギルは卵や仔稚魚だけでなく,モツゴ成魚をも捕食することがわかりました。一日当たりの捕食量は最大で5.8g,ブルーギルの初期体重の5.6%に達することも明らかになりました。ブラックバスに比べてブルーギルは他魚種を捕食しないという印象を受けますが,ブラックバスが生息していない湖沼では,ブルーギルによる在来魚の捕食も少なからぬ影響を与えると考えられます。
 次にブルーギルを捕食する在来魚として,ナマズに注目してみました。外来魚駆除には日本の捕食者を用いるのが効果的であると考えたのです。またナマズは,産卵に適した湿地や水田が減少したために,近年著しく減少していますが,日本中に分布し,ブルーギルを捕食する在来魚は,ナマズのほかには見当たりません。
 実験では,120㎝水槽に100-1000gのナマズ及び比較のためにオオクチバスを収容し,体長10㎝未満のブルーギルを十分に与えて,捕食量を調べてみました。その結果,もっともよく捕食したナマズは10日間に500gのブルーギルを食べてしまいました。平均してオオクチバスがその体重の4.5%の重量のブルーギルを1日に捕食するのに対し,ナマズは9.4%もの量を捕食することが明らかになりました。
 野外の池において,ナマズがブルーギルを捕食した例も報告されています。水谷・東(1998)は,長崎県の浦上水源池において釣獲した体長50㎝の大型ナマズが,3-4cmのブルーギルを合計8個体捕食していたことを報告しています(7)。11月17日の夜間ですから,長崎といえどもかなり寒い時期です。私たちの実験の結果から,体重300gほどのナマズを100尾放流し,それらが1年のうち200日ほどブルーギルだけを捕食すると仮定すると,体重5 gのブルーギルを11万3千尾,10gのブルーギルだと5万6千尾減らすと推定されます。今後,在来魚とブルーギルを同時に与えた場合に,ナマズがどれほどブルーギルを選択的に捕食するのかについて実験する必要がありますが,ブルーギルを減らす1つの方法としてナマズを活用する道が見えてきました。

ブルーギルを放流する予定の人工池
 3番目の実験は,ブルーギルが生態系に与える影響を人工ため池を使って検証するというものです。上田庁舎内には28m×22mの広さの同形のコンクリート池が2面あり,近年使用していなかったために,モツゴやトウヨシノボリ,エビ類がすみついています。この池に,ブルーギルを放流して,在来魚などに対する影響を調べる計画でいます。ただし,池が2面しかないために,対照とする池数を十分にとることができません。そこで初めの2年間は現状での各種の個体数調査を行い,そのデータを対照として,残り3年間ブルーギルによる影響を調べることにしました。平成14年度の調査ではモツゴが各池に1000-6000尾,トウヨシノボリが50-250尾,ほかにスジエビが生息することが明らかになりました。今後,ブルーギルによってこれらの在来種が減少するメカニズムを調べる予定です。
今後の展望
 他の課題では,日本各地のブルーギルの繁殖生態や摂餌生態,他魚種や生態系への影響,個体群構造についての知見が集まりつつあり,個体数を減らす技術の開発も行われています。釣り,網具やもんどりを用いると相当数のブルーギルを捕獲することができますが,ブルーギル自体が何十万,何百万という規模で生息しているので,より一層効果的な漁具の開発が必要です。ナマズなどの捕食者を用いると,作業が初期の放流だけですむので,少ない労力で大きな効果が得られると期待しています。今後,ナマズの人工増殖を行っている岐阜県や,実際にブルーギルの棲むため池にナマズを放流している香川県と連携して,更なる技術開発を行う予定です。新潟県は,ウグイがブルーギルの卵をよく捕食することを明らかにしています。また長野県はコクチバス雄親魚捕獲用に開発した小型三枚網がブルーギルについても有効なことを明らかにしました。今後も各機関との連携を深めて,事業の成果が実りあるものになるように努力するつもりです。
(内水面利用部 魚類生態研究室長)
引用文献
(1) W. B. Scott and E. J. Crossman: Freshwater fishes of Canada. Fish. Res. Bd. Canada, Bulletin 184 , 1-966 (1973).
(2) 横川浩治: 香川県の湖沼におけるブルーギルの生態, 香川水試研究報告, 2, 47-74(1986).
(3) M. Azuma: Ecological release in feeding behaviour; the case of bluegills in Japan. Hydrobiologia, 243/244, 269-276(1992).
(4) 遊磨正秀, 田中哲夫, 竹内康弘, 中井克樹, 渕側祐一, 小原明人, 今泉眞知子, 佐藤 浩, 土井田幸郎: 瀬田月輪大池における魚類群集の変遷-12年間の生物学 実習の結果より-, Bull. Shiga Univ. Med. Sci. (General Education), 8, 19-36(1997).
(5) 東 幹夫: 移入された淡水魚による生態系の攪乱, 遺伝, 52, 28-32(1998).
(6) 片野 修・中村智幸・山本祥一郎: 実験水槽におけるブルーギルによるモツゴの捕食, 日本水産学会誌(印刷中).
(7) 水谷 浩・東 幹夫: 浦上水源池におけるナマズによるブルーギルの捕食について, 長崎県生物学会誌 (49), 33-35(1998).

Osamu Katano
back中央水研ニュース No.32目次へ
top中央水研ホームページへ