中央水研ニュースNo.31(2003...平成15年3月発行)掲載 |
【情報の発信と交流】
ワーキンググループ紹介
中央水産研究所主催の中央ブロック水産業関係試験研究推進会議,及びその傘下の海洋環境部会,漁業資源部会,海区水産業研究部会では各構成機関から寄せられたブロックとして重点化すべき研究課題,解決すべき課題等について討議し,合意が得られたものについては分野別の3部会の下にワーキンググループを設置し,そこに検討と解決を付託して参りました。今回はそのような仕組みで各部会から課題を付託されたワーキンググループの活動状況を報告してもらいました。 海区水産業研究部会に設置されたワーキンググループ 「沿岸浅海域の環境変動が定着性水産生物の生産性に及ぼす影響の評価に関する調査・研究手法の検討」について 堀井豊充
我が国の大平洋南部沿岸域においては,近年,大型海藻類が消失する「磯焼け現象」の広範囲な発生や,アワビ類など定着性水産資源の減少傾向が著しいなど,沿岸浅海域における生産性の低下が懸念されている。この影響は漁業生産のみならず生態系や物質循環にまで及ぶと考えられ,原因の究明とその対策が急務となっている。生産性における近年の顕著な低下傾向は海洋環境変動との関連が想定されることから,沿岸浅海域における生物資源の変動機構に応じた適切な資源増殖対策を講じるためには,海洋環境,基礎生産力および生物生産の関係を明らかにしていくことが極めて重要である。 しかし,これまでの沿岸浅海域における水産生物研究は主として対象種の個体群を中心に進められてきており,沿岸海洋環境の変動が海域の基礎生産力にどのような影響を与え,それがどのような過程を経て生物生産に影響を及ぼすかについての議論は不十分であった。一方で,海洋学は比較的沖側を主な研究対象としている場合が多く,岩礁域や砕波帯等の複雑な海洋環境にある浅海域を対象とした研究手法は確立されていない。 平成13年12月14日に横浜で開催された平成13年度中央ブロック海区水産業研究部会において,複数の都県から上述の問題点が指摘され,同部会の下部組織としてワーキンググループを設置し,都県および中央水研が共同で問題解決にあたることが提案された。同案は平成14年1月30日に開催された平成13年度中央ブロック水産業関係試験研究推進会議において各研究機関の場所長らにより承認され,標記のワーキンググループが公式な組織として活動を開始するに至った。 ワーキンググループでは平成14年度に2回の会議と1回の打合せ会を開催し,共同調査・研究を進める上で下地となる調査計画案を作成した。計画案では沿岸浅海域の環境調査及び基礎生産力を把握するためのマクロな視点による環境調査と目的種を対象としたミクロな視点による生物調査を並行して実施することによって,生物資源の変動機構の一端を明らかにすることとしている。 調査内容は「海洋環境・基礎生産力調査」と「生物調査」に大別され,前者に関しては,調査項目として,水温,塩分,クロロフイル,13C法による生産速度,SS,光量子量,流向流速,底質形状等の測定観測を行うとともに気象観測のデータベースを整理することとし,各研究機関とも1カ所以上の調査箇所を選定して実施する。 また生物調査に関しては,アワビ類と大型褐藻類を当面の対象生物とし,生息環境を把握するための調査項目として,底質形状,流向流速,動植物相,付着動物相,付着珪藻相を定期的に調べることとした。加えて,アワビ類については再生産の初期段階における発生量水準および減耗が資源変動に影響を及ぼしていると考えられることから,産卵期前後における親貝資源密度,浮遊幼生分布量および初期稚貝着底量を調べるともに,着底後の減耗過程を把握する。また大型褐藻類については漁場におけるアラメ,カジメ,アントクメ,ホンダワラ等の成熟過程,幼芽と成長した胞子体の密度,群落内の年級組成,成長の調査を行い,生産力を把握する。 調査経費について,当面は各研究機関の負担となるが,研究成果をあげることにより,競争的研究資金や行政的経費の獲得に結びつけていきたい。 さらに平成14年度中央ブロック海区水産業研究部会(平成14年12月19日)において,近年深刻な資源状態にあるアサリを対象生物に加えることが提案され,同水産業関係試験研究推進会議(平成15年1月9~10日)において承認された。今後は都県水試担当者との打ち合わせを十分に行い,具体的な調査計画を策定することとしている。 上述のように,これまで資源増殖という個体群を対象とした研究に携わってきた研究者らが,沿岸海洋環境変動という,例てみれば生物生産の源流域に相当する範疇の課題に敢えて挑むこととなった。研究費や調査機器等も不十分な中でのスタートとなるが,共同研究の利点を最大限に活用して着実な成果をあげて行きたいと考える。 関係各位,とりわけ海洋生産,環境分野に精通した研究者各位のご指導,助言を切望する次第である。 (海区水産業研究部 沿岸資源研究室長)
中央ブロック沿岸定線調査等検討ワーキング・グループ活動について 秋山秀樹
中央ブロック水産業関係試験研究推進会議海洋環境部会傘下のワーキング・グループとして設置されました「沿岸定線調査等検討ワーキング・グループ(以下,沿岸定線WG)」の平成14年度の活動について紹介させていただきます。沿岸定線WGが設置された経緯は以下の通りです。近年,国および地方自治体の予算の見直し・削減に伴い,ほとんどの都道府県で沿岸定線調査等に係わる事業費が著しく減額され,現状の定線調査を維持することが困難になってきています。中央ブロックでは,ブロック全体の沿岸定線調査等の実施状況を把握し,各定線調査のブロックにおける位置づけや調査の効率化を検討することを目的として,検討ワーキング・グループを立ち上げることになりました。 沿岸定線WGは,中央ブロック(鹿児島県~千葉県)13都県と茨城県(協力県),そして中央水産研究所と漁業情報サービスセンターの合計16機関で構成されております。WG事務局は中央水産研究所黒潮研究部に置き,責任者は石田行正黒潮研究部長,事務担当は秋山秀樹海洋動態研究室長です。また,沿岸定線WGでは各機関に機関責任者と実務担当者を登録していただき,構成員一覧表を取りまとめ,メーリング・リスト(ML)を開設し,意見交換や情報交換および会議報告等を行っております。 平成14年度の主な活動状況は以下の通りです。(1)5月「今後の沿岸定線調査等について」アンケート調査を依頼,(2)6月同調査結果の総括および都県別結果をWebサイトに掲示,(3)8月「平成14年度定線調査実施状況の調査について」調査を依頼,(4)9月同調査結果と中央ブロック海洋観測指針をWebサイトに掲示しました。(5)9月中央ブロック資源海洋研究会(高知市)の中で沿岸定線WG第1回検討会を開催,(6)9月「定線事業への意見集約等について」アンケート調査を依頼,各機関に意見提出をお願いしました。(7)10月第1回検討会議事録とともに同調査結果および総括をWebサイトに掲示,そして(8)12月海洋環境部会で沿岸定線WGの検討経過報告を行いました。 現時点での沿岸定線事業に関する中央ブロックの見解は次の通りです。「国民に安全な水産物を安定的に供給するため,沿岸域の漁場環境の把握は国の責務であり,海洋環境調査は国の委託事業として再構築すべきである。漁況海況予報事業で取得した海洋調査データは我が国で唯一,経月変化まで検討できる貴重なものである。本事業の予算は一律カット体制で非常に厳しく,調査船の運航費は大変であるが,本事業は極力現状維持で継続する。」また,「全国対応の一端を担って調査・研究を継続している」という認識で全機関が一致しています。 次に,沿岸定線WGの特記事項としてデータ解析に関する共同作業が挙げられます。(1)各都県では,実務担当者が自機関のデータセットを整備し,長期間継続して調査・管理してきた海洋観測結果を科学的に分析し,まずは代表点の長期時間変動特性の把握を行っております。(2)中央水産研究所では,参画都県の了解・協力を得て,平成14年12月末現在,都県別海洋調査データセットの構築状況把握を終了し,(1)の結果をブロック共通財産としてまとめようと考えております。沿岸定線WGの共同作業は始まったばかりですが,できるだけ早い時期にブロック共通基盤となる「海洋環境基本図集」を作成するとともに,その成果を一般にわかりやすい形で公表し,資源評価に結び付く海洋情報を収集・提供したいと考えております。 なお,沿岸定線等の海洋調査データは,1963~1993年がすでに日本海洋データセンター(JODC)に登録され,広く一般に活用されております。今後,1994~1997年の同データは品質管理を行った後JODCに登録され,また1998年以降水産庁のFRESCOシステムへ登録していただいた同データは一定の期間を経てJODCへ登録される予定です。 最後になりましたが,中央ブロックでは沿岸漁船漁業が主体であるため,リアルタイム海況データのニーズが高く,漁海況速報への期待も大きくなっています。中央水産研究所ではこのような地域ニーズにも応えるため,各都県の海洋情報を結合した海況情報流通システムの構築を目指しています。ご協力をお願い申し上げます。 (黒潮研究部 海洋動態研究室長)
中央ブロック研究課題検討ワーキング・グループの活動について 本多 仁
平成14年度より本格的に活動を開始しました中央ブロック研究課題検討ワーキング・グループ(以下,研究課題検討WG)について紹介します。研究課題検討WGの設立の経緯は次の通りです。まず,平成13年度中央ブロック水産業関係試験研究推進会議漁業資源部会及び同推進会議(本会議)において,ブロック共通の研究ニーズを重点化課題として取り上げるとともに,必要な予算を獲得して共同研究を実施するためにブロック内の試験研究機関担当者が意見交換及び研究課題の検討を行うワーキング・グループを設置することが提案・了承されました。これを受けて平成13年度に「中央ブロック研究課題検討ワーキング・グループ」を立ち上げました。 研究課題検討WGの参画メンバーは,鹿児島県,宮崎県,大分県,愛媛県,高知県,徳島県,和歌山県,三重県,愛知県,静岡県,神奈川県,東京都,千葉県,茨城県の1都13県の水産試験場等試験研究機関及び漁業情報サービスセンターと中央水産研究所(生物生態部,海洋生産部,黒潮研究部)の計16機関です。WG事務局は黒潮研究部におき,責任者を石田行正黒潮研究部長とし,事務局長に本多仁資源生態研究室長,事務局メンバーに秋山秀樹海洋動態研究室長を配置しています。各参画機関のWG責任者及び資源分野と海洋分野の担当者の合計60名以上からなるWGメーリングリストを開設して意見・情報の発信・交換を行っています。 平成14年度の本WGの活動状況は次の通りです。(1)平成14年7月,WGメーリングリストの開設と構成県からの要求であった水産資源と海洋環境の関係解明に関する研究素材の募集,(2)9月,素材応募結果:4機関5課題,(3)9月,中央ブロック資源・海洋研究会において全体構想「黒潮域における海洋構造および水産資源の変動に関する基礎研究」を提案,(4)10月,海洋環境条件に敏感に反応するブリ等の回遊性魚類を指標魚種としてこれら回遊性魚類の来遊及び資源変動に関係する海洋環境条件の摘出を出口とする新研究課題「黒潮域におけるブリ等回遊性魚類の生態解明と資源変動要因の摘出」(通称「ブリ等回遊性魚類」)を提案するとともに同課題への参画希望調査(第一次募集),(5)10月末,第一次募集結果:10機関,(6)10月末,日本財団に「ブリ等回遊性魚類」の関連課題「商船フェリーを活用した沖合海洋情報流通システムの開発」(研究代表:秋山秀樹黒潮研究部海洋動態研究室長)を応募申請(参画9機関),(7)11月,ブロック内で研究課題「ブリ等回遊性魚類」の課題追加募集(第二次募集),第二次募集結果:12機関,(8)12月,中央水産研究所内で検討状況報告及び「ブリ等回遊性魚類」の課題提案方針(上記(4)の主旨)を確認,(9)12月,平成14年度中央ブロック水産業関係試験研究推進会議漁業資源部会にて,研究課題「ブリ等回遊性魚類」の概要(ブリによる海洋構造の把握)及び対応方針(農林水産技術会議の研究高度化事業への応募)について説明を行い,課題として適切であるとの共通理解が得られ,推進会議(本会議)へ提案することを了承。 研究課題「ブリ等回遊性魚類」についての本WG事務局から平成14年度中央ブロック水産業関係試験研究推進会議漁業資源部会への提案概要及び確認事項は次の通りです。(1)資源回復計画の第二期対象種候補であり資源評価対象種であるが近年の研究例は少なく事業費調査と連携して研究を進展させる必要があるという理由により「ブリ」を主対象種とした資源と海洋環境の関係解明のための研究課題を提案する。(2)本課題を「平成15年度先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」(農林水産技術会議,研究期間:3~5年)に応募する。(3)本課題の応募申請に向けて,組織対応,新規性,独創性,業界ニーズ,産業・行政貢献,予算規模,緊急性,産官学の連携の視点からも検討する。 本課題については,水研の所内プロ研,一般研究,シーズ研究などへの課題応募も検討しています。また,研究課題「ブリ等回遊性魚類」の立ち上げ集会として,水産海洋学会地域研究集会「豊後水道外域を中心とした黒潮内側域の浮魚漁況」を愛媛県水産試験場のご協力を得て平成15年5月23日(金)に愛媛県宇和島市内で開催する予定です。 (黒潮研究部 資源生態研究室長)
nrifs-info@ml.affrc.go.jp |