中央水研ニュースNo.31(2003...平成15年3月発行)掲載

【情報の発信と交流】
ノルウェー・FAOシェア資源管理に関する専門家会合に参加して
西田  宏

 平成14年10月7日から10日の間,ノルウェー王国ベルゲン市の水産局にて開催された「FAOシェア資源管理に関する専門家会合」に出席しましたので,その概要を紹介します。本会合はシェア資源(複数国の漁獲対象となる資源)管理に関する話題提供2件,各国における事例研究13件(以上は全体会議)と,並行開催された3つの作業部会により構成されました。出席人数は22カ国から40人(現地事務局・FAO事務局含む)であり,出席者には個人の見識と経験に基づく論議参加が求められました。なお,シェア資源は広義には高度回遊性魚類なども含みますが,本会合では国連海洋法条約の63条に該当する資源,すなわちtrans-boundary資源(2国以上のEEZ:排他的経済水域に分布する資源)とstraddling資源(EEZ並びにそれに接続する公海に分布する資源)を対象としました。
 話題提供では,まずカナダBritish Columbia大学のMunro教授が,経済学者の観点からシェア資源管理について論じました。ここでは,資源を利用する2者間にゲーム理論を導入して,side payment(= transfer:シェア資源管理にあっては魚種や漁獲割当量の交換,資金援助などにより実現されている。)を考慮した協力ゲームにより両者の収益の最適化が達成されることを示すことで,共同管理の必要性を指摘しました。また,安定的な共同管理を行う必要条件として,共同管理以外に良い選択肢が無いこと,参加国の理性的参加が必要なこと,参加国が多くなるほど共同管理体制に一定の強度が必要なこと,straddling資源においては参入国が地域管理体制下の義務を果たすこと,共同管理には柔軟性と持続力が必要であり特に柔軟性の獲得のためにはside paymentの導入が推奨されることなどが論じられました。次にFAO法務担当のVan Houtte氏が,シェア資源管理の関連条約と協定, すなわち1982年の国連海洋法条約,1995年のストラドリングストックと高度回遊性魚種に関する国連協定などにおける条文の引用によりレビューを行いました。
 事例研究はMunro教授の話題提供内容と対応したものも見られ,side paymentの導入例としての魚種割当量の交換例(国際バルト海漁業委員会体制下でのニシン,ノルウェーの春ニシンなど)も紹介されました。全体としては,隣国間での管理事例が多く見られましたが,多国の漁業が利用する海域での地域漁業委員会による管理例も聴くことができました。
 3つの作業部会は,それぞれA)資源配分問題の解決,B)管理計画や調査に関わる調整, C)管理協定の実行について論議しました。Aでは,zonal attachment(魚種の生活史に対応した分布との関係,漁場分布,資源の利用度などを包括)とhistorical catchが配分基準キーになっていると総括し,さらに,安定的なシェア資源管理を実現するために,TAC配分のみにとどまらない交渉(アクセスアレンジメントや魚種や金額によるトレード),共同管理により得られる長期的な利益の予測,さまざまな不確実性への対応力の重要性を論じました。Bでは,共同管理目標に対する合意形成に関わる問題点,気候変動など不確実性への対処,データの収集と共有化の重要性など,広範な問題について論議を行いました。Cでは,管理の実行のための必要条件について,trans-boundary資源では共有の形態に対応して4種類,straddling資源については1種類のシナリオを作成しました。この各シナリオにおいて,漁船登録,詳細な漁獲活動の報告義務,モニタリングシステム,管理体制の確立が必要とされましたが,特にstraddling stockでは,地域漁業管理機関の設立・支援が指摘されました。
 各作業部会の報告は最終日の全体会議にて行われましたが,全体会議ではさらに,データ収集の科学目的,管理監視目的の両面における重要性が各作業部会でも指摘されたとし,信頼性ある漁船データへの関心が強調されました。また,シェア資源管理について,協力関係にとどまらず管理施策を実行することの必要性が指摘されました。
 私にとってノルウェーは初めての訪問でした。10月のベルゲン(日中の気温5~10℃くらい)は,フィヨルド観光の基地としてはオフシーズンに入った直後でしたが,周辺の山は色づき,夕照時にはきれいでした。
 会議の行われた水産局は,一歩中に入るとモダンな内装で,会議室の机・椅子などもデザインの良いものであり,フランクな議論に適していたように感じました。また,ノルウェーの漁業に関するパンフレットが多く用意されており,理解を深めることができました。
 なお,本会合の正式報告は,今年2月24~28日に開催される25回FAO水産委員会に提出されます。最後に,本会合への出席機会を与えていただいた水産庁国際課をはじめ,水産庁研究指導課,水研センター本部の各位に感謝いたします。
(生物生態部 資源管理研究室)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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