中央水研ニュースNo.30(2002...平成14年11月発行)掲載

【情報の発信と交流】
研究室紹介 「海区産業研究室」
福田 雅明

 中央水研海区産業研究室は,平成10年10月の組織改正時に新たに発足しました。発足当時は海区水産業の発展を目途に,経営経済と加工・流通に関する研究を行っていましたが,独法に移行する際に,太平洋沿岸域の資源管理並びに資源培養研究を一層発展させるためには沿岸生態系の研究が必要不可欠であるとの結論に達し,海区産業研究室のテーマを生態系研究に移すこととなりました。
 経常研究では,ヒラメの着底場である砂浜域における底魚群集の構造に関する研究を行っています。我々は着底場を生産の場として捉え,そこに生息する生物に焦点を当て,周年にわたる生物生産を解明して,ヒラメがこの場をどの様に利用しているか明らかにしようとしています。ヒラメ稚魚が毎年着底する江ノ島や葉山で調査を行い,出現する魚種の胃内容物調査,安定同位体比分析,体成分分析等によって群集構造を理解しようと研究を進めています。現在までの知見では,湘南海岸で最も普通にみられる魚種は,ウシノシタ類です。これらの食性は多毛類,甲殻類等の多岐にわたっており,炭素の安定同位体比を用いた解析によっても,幅広い食性が示唆され,同じウシノシタ類でも食物を通じて利用する炭素源が異なっていることが推察されています。また,経常研究の一環として,神奈川県水産総合研究所と共同でヒラメの放流適地に関する研究を行っています。今年は,天然ヒラメの稚魚がいる場所といない場所の3カ所にヒラメ稚魚を9,000尾ずつ放流し(写真1),経時的に採集して胃内容物,核酸比,安定同位体比を分析する調査を行っています。まだ,分析結果は出ていませんが,天然稚魚の生息する葉山では,放流魚が着実に成長しているのに対して,他の場所に放流したヒラメは痩せ細り,2週間程度でほとんど姿を見せなくなりました。今回,共同研究を実施することが引き金になり,神奈川県の研究者と研究発表会を持つことができ,研究の出口を再認識することもできました。
 経常研究以外では,2つの委託事業を担当しています。一つは水産基盤整備調査委託事業として,アワビ増殖場に繁茂する海中林由来の有機物が周辺砂浜域に与える影響を定量的に評価する手法を探っています。我が部では,アワビをキーワードに3研究室がスクラムを組んで取り組み,海区産業研究室では岩礁域の生態系研究を受け持っています。研究所の前にはアワビの転石礁が設置されており,見事なカジメ海中林が形成されています(写真2)。昨年より,転石礁と周辺砂浜域に分布する有機物を安定同位体比分析手法を用いて解析しています。
 二つ目の委託事業として,資源評価調査事業のうちヒラメの資源評価を担当しています。ヒラメは,市場調査で測定できる数が少ないこと,栽培漁業の対象種として放流効果を考慮する必要があること,等々によって資源評価が難しい魚種ですが,本年は関係各県の方々のご努力で年齢別漁獲尾数のデータが集まり,コホート計算ができるところまでたどり着きました。これからもブロック各県の皆様に満足いただけるよう努力していきたいと思っています。
 以上のように,海区産業研究室は生態系研究を中心とした研究を行っていますが,出口は海区水産業への貢献であることは間違いないので,常に他の2研究室と連携をとり,ブロック各都県の要望に対応できる研究を目指していきたいと思っています。
(海区水産業研究部 海区産業研究室長)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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