中央水研ニュースNo.29(平成14年7月発行)掲載


我が国水産研究の中核的機関の舵取りに任ぜられて
中村 保昭

 平成14年4月1日付で独立行政法人水産総合研究センター理事職の他に新たに先人・先輩諸氏が70年余の蛍雪の下に培われた我が国水産研究の牽引的な役割を義務つけられています中央水産研究所長職を担うこととなりました。当所の勤務は,平成8年以来6年振り2度目となり感慨深いものがあります。先ず当所の歴史を紐解いてみますと,明治30年(1897年)に創設された農商務省水産講習所(現:東京水産大学)の試験部から独立[昭和4年(1929年)]した農林省水産試験場を源流にしています。戦後の混乱で逼迫した食糧事情の克服に向けて,国は試験研究体制の強化を図り,東海区水産研究所[昭和24年(1949年)]として発足しました。その後組織体制の見直しにより,中央水産研究所[平成元年(1989年)]として脱皮を図っています。平成13年4月1日には「中央省庁等行政改革」の一環として,当所を含むすべての水産研究分野を結集(1本部及び9研究所:総勢約800名)した国とは別の法人格を有する一つの「独立行政法人水産総合研究センター」(以下「水研センター」という。)として船出をしました。この中にあって当所は,1企画連絡室,現在9研究部,1総務課及び2隻の漁業調査船(蒼鷹丸:892トン及びこたか丸:59トン)を研究職:90余名,一般職・技術専門職:約30名,船舶職:約30名,計150名余で運営しています。
 筆者は静岡県を振り出しに30年余り,この間,水産庁西海区水産研究所(海洋環境部長・企画連絡室長),水産工学研究所(企画連絡室長),中央水産研究所(企画調整部長),水産庁(参事官),東北区水産研究所(所長)再び西海区水産研究所(所長)に加えて,今春3月まで養殖研究所(所長)にも籍を置き,寒・暖流系を対象とした海区の水産庁傘下の水産研究所,専門研究所はもとより,本庁において研究行政の機会も得ました。
 消費者に軸足を移した農林水産行政(「農と食の再生プラン」農林水産省;平成14年4月)の転換,後程述べます法人統合問題等,話題に事欠かない昨今,「変革の時代・転換期」と言われて久しく,70年余にわたって築れた良き伝統との調和を図り,現状打破の精神の下,新たな水産研究への思いを馳せながら次代に引き継ぎ,着任の挨拶とします。
 独立行政法人化して未だ年余ではありますが,この間本制度により「何ができたか,この仕組みをどのように活かしたか」等が関心事であります。今のところ想定されたメリットの内,①予算等に関しては,戦略的な研究資源の配分,予算の効率的・弾力的な運用,研究資源の重点化が可能,②組織運営に関しては,組織の機動的・弾力的な運営が可能,業績に相応しい処遇等が期待,③共同研究等への柔軟な対応等は,このメリットが活かされている事例であります。さらに④競争的資金獲得に対する職員の意識向上等が,「変わりつつある点」として挙げられます。この中にあって,大きな関心事は本制度の屋台骨でもあります「費用対効果」の提示でありましょう。国民に対して水産物の安定的供給の確保及び我が国の水産業の健全な発展を図るため,国の施策に沿った研究開発を基礎から応用まで多岐にわたる試験研究を戦略的に推進することが当所の第一義的な使命であります。水産研究は主に生物を研究対象としていますので,他の分野に比べて成果を得るまでに長期間・高負担を要し,また,リスクの高い試験・研究等も多くあります。このため民間等へ技術移転やこれを数量的に表現するには困難な点もありますが,国民への負託に応えるには,「単価コスト」の他に,研究開発のスピードアップに示される「時間コスト」を意識し,産業の活性化や国民への利益として説明しやすくしたいと思っています。何にしても一層の「競争的資金の獲得」と「経営的センス」の醸成等,「良きセールスマン・良きスポークスマン」として,一層の意識改革が必要としています。
 他方,これらの業務を効率的に推進するには,国が戦略的,重点的な政策目標,ビジョンを示した中期目標を達成するための戦略的な研究計画(中期計画)において,研究成果はもとより各研究所毎及び水研センター全体の運営状況等について,従来に増して厳正な評価・点検が実施されます。その結果を研究資源配分や業務運営等に反映させるとともに,公表することが求められています。現在,これらを実行に移している段階であります。中でも新たな制度として,評価項目,評価基準を定めて,職員に周知し,公正さと透明性を確保した「職員の評価」を実施し,評価結果を処遇等に反映させることです。特に「職員の業績評価」に当たっては,地域性の強い水産業から国際性が強いものまでの特性に応じた多様で多面的な水産研究の特徴が適切に評価されるよう,例えば,特段の努力や創意工夫等「自己目標の達成度」,「研究成果としての業績」,「事業等に対する貢献」,「組織運営等への貢献」等,多軸で加点方式で,かつ個人の得意とする分野や最も実力を発揮している点に着目してポテンシャルひきあげるものとしたい。「評価は価値を定める他に,価値を高める」との解釈もありますので,評価に当たっては,職員に対して如何に業務に対するインセンテイブを持たせ,これを組織の活力の維持やその向上に寄与させるかが我々の役目です。
 「中期目標」が5年毎に変更されるため,この目標に沿った「中期計画」が実施できる組織体制,急速に変化する先端科学分野にも果敢に挑戦し得る組織構造及び運営,新たな研究ニーズに対応した効率的でかつ活性の高い試験研究体制等への対応策として,独立行政法人化直後から水研センターの組織改正に着手しています。これを進めるに当たっては「組織改正の基本的な考え方(案)」をベースに,これらの実践を「可及的速やかな改正」及び「中規模の改正」等の観点から所内討議に付しているところです。一部は既に実行したものもあり,人的資源の効率的活用,研究の活性化及び組織の機動性・柔軟性の確保を目標に,各研究所の研究部・研究室の大型化等は事例であり,柔軟な組織運営の観点からさらに掘り下げたい。なお,本組織改正は以下の法人の業務等の統合問題と関係しますが,現時点で不透明な部分もあります。しかし,種々の状況に柔軟に対応できる選択肢を準備しておきたいと思っています。
 平成13年暮れには,やはり中央省庁等改革の一環として,認可法人の「海洋水産資源開発センター」が「特殊法人等整理合理化計画」を踏まえ,「廃止した上で独立行政法人水産総合研究センターに統合(13/12/19:閣議決定)」となり、続いて「行政委託型公益法人等改革(実施計画)」により公益法人の(社)日本栽培漁業協会が、「事業内容の整理・合理化等により国からの委託費等の縮減を図るとともに,特殊法人等改革の整理合理化計画を踏まえ効率的な事業実施の観点から、独立行政法人水産総合研究センターにおいて事業を実施(14/3/29:閣議決定)」することとなりました。想定される平成15年度の移行に備え、現在、水産関係の中核として,基礎研究から応用開発まで担える独立行政法人として,効果的でかつ効率的に事業を実施する組織に向けて,日夜時間との競走で作業を進めています。業務の範囲は,水研センターが現在実施している「水産に関する総合的な試験研究業務」に,海洋水産資源開発センターの「新漁場における漁業生産の企業化調査等の業務」及び(社)日本栽培漁業協会の「栽培漁業に関する技術開発等の業務」を加え,これらを引き継いで行う方向で検討中です。何にしても業務・組織,人事,財務・会計等性格を大きく異にする法人の業務を水研センターに追加する方向で進められています。しかし,当センターとしては,現在の職員の身分,定員管理,予算等に影響を及ぼさないこと、併せて当センターが担う機能が損なわれることのないよう関係当局に働きかけているところです。
 最後に強調しておきたいことは,後継者の育成であります。近年水産研究は,研究領域が急速に拡大し,分野間をまたぎ,しかも水産分野にとどまらず人文・社会科学(経営・経済)までも含む学際的研究も著しく増大しています。一方では,基礎的・先導的研究から生産現場における技術開発まで,体系的・効率的に研究を推進することが重要であり,さらに研究が深化するにつれ,より専門性の高い研究業務が求められています。従来は水産庁研究所,都道府県水産試験場等には,それぞれの分野で造詣の深い研究者が豊富な経験の下に学卒後の若手に対して,的確な指導・対応を行ってきました。定員削減を含む昨今の厳しい人的環境下で,プロジェクト研究の台頭の中これら多岐にわたる研究対応には,研究者のライフステージに沿った確固たる人材育成(OJTによる育成)が何よりも重要であるとの認識の下,研究の継承に全力を傾注したいと思っています。一方では,若者の理科系離れが叫ばれる昨今,「如何に魅力ある職・職場」にするか,「驚き・興奮・感動」により、若者を引きつける場作りが我々の役目であります。
 「水は方円の器に従う」。科学・技術の発展は,これを取り巻く環境次第で如何様ともなり,またこれは試行錯誤の歴史でもあります。世の趨勢も「科学のための科学から社会のための科学」へと舵が切られつつあります。刻々変わる環境の中,情勢変化・ニーズを大所・高所から先取りし,現状維持は退歩であると認識しています。現在社会を映して「乱世は本物と偽物をふるい分けする時代だ」とも言われています。「知恵の時代」、産学官の連携等による技術開発のスピードアップがより一層求められている中,当研究所の使命であります①中央ブロックへの適切な対応②海区共通基盤的研究及び③全国対応基盤的研究の観点から,分野横断的連携及び学際研究の強化,国際的視野に立った研究の強化,試験研究体制・施設等の整備等を図り,当所が持つ水産研究の中核的機能の発揮に向けて一層磨きを掛け,納税者(国民)に対しては,研究成果を相手の目線に合わせて還元し,海を利用するすべての人々に開かれた研究所として,存在感を打ち出すとともに話題性のある研究所として舵取りを担いたい。
(所長)

Yasuaki Nakamura
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