中央水研ニュースNo.29(平成14年7月発行)掲載

【情報の発信と交流】
研究室紹介-加工流通部品質管理研究室
岡﨑惠美子

 食品の「品質管理」という言葉から,「衛生管理」を連想される方も少なくないと思われますが,食品の「品質」は非常に多面的な要素を持ち,定義が曖昧な言葉です。たとえば「高品質の食品」が意味するところは,まず「安全な食品」であることのほか,嗜好面(色,艶,形状など見た目のよさ,味,香り,食感のよさなど)であったり,栄養面(タンパク質の栄養価が高い,脂質が酸化していない,ビタミンやミネラルを豊富に含むなど),生理面(EPA/DHAなど高度不飽和脂肪酸,キトサンなどの機能性成分を含んでいるなど),加工適性(素材として利用するために必要な品質,たとえば冷凍すり身であればゲル形成能の高さが重要)であったりと,その食品によって重要とされる「品質」はそれぞれ異なっています。鮮魚の場合は,その活きのよさ,すなわち「鮮度」が品質とほぼ同義となる場合もあります。品質管理研究室では,上記のような広範な意味での「品質」を対象として,品質の評価法や,加工品の品質を向上させる方法,その原理の究明などについての様々なアプローチを図っています。ここでは,これまでに行った研究テーマの一部について簡単にご紹介します。
魚類に含まれるセレンの生体調節機能の解明
 水産物は他の食品に比べ高濃度のセレンを含み,日本人にとって重要なセレン供給源となっています。セレンは人体に必須な微量元素のひとつで,重金属の毒性軽減作用,がんの再発を防止する効果があり,海外ではセレン製剤が抗酸化機能を持つ栄養補助食品として販売されています。時々,金属の一種?と誤解されますが,イオウと同じVI族元素で,動物体内には,システインのセレン置換体セレノシステインとして取り込まれます。セレノシステインは遺伝子上にTGAコドンでコードされていることから「21番目のアミノ酸」と呼ばれています。品質管理研究室では,魚類の中でもっともセレン含量の高いクロマグロに注目して,魚体内の分布や,筋肉中の存在状態を調べました。その結果,血合筋には普通筋の11倍高い6.1ppmものセレンが含まれ,その大半が水溶性タンパク質態であることを明らかにしました。現在この魚肉由来セレンタンパク質の遺伝子クローニング,LC-MS等による構造解析,培養細胞を用いた生理機能の解析を進めています。
魚肉すり身の品質に及ぼす微粒化魚油の影響の解明
 従来,冷凍すり身中に脂肪が多く含まれると品質が劣化しやすく,練り製品化したときに弾力形成を阻害するとされ,脂肪を多く含む冷凍すり身の開発は不可能と考えられてきました。一方で近年になり魚油には健康性成分が多く含まれることも明らかになってきました。そこで品質管理研究室では,原料の魚肉に魚介類から抽出した油を再度添加して,栄養的・機能的・嗜好的に優れた中間素材(乳化すり身)を製造するための方法について検討しました。その結果,すり身中に含まれる魚油の粒子サイズを小さくすることによって,すり身の保水性やゲル形成性などの品質を向上させることができることなどが明らかとなりました。
魚介類の鮮度低下に伴う遊離リボースの生成と加工品の褐変との関係の解明
 さきいかは色調の白さが,その品質上非常に重要視されています。乾製品であるため,本来は室温で長期保存が可能のはずですが,夏季などの高温季には色調が白色から褐色に変化することがあり,変色した製品は返品処分されるなど問題となっています。これまでの研究により,この褐変現象は還元糖とアミノ化合物との反応(メイラード反応)であり,糖のなかでも魚介類筋肉に存在する遊離リボースが褐変を著しく促進することが明らかとなっています。遊離リボースは,イカの死後における核酸関連化合物の分解過程が主な生成源と考えられますが,イカの種類により褐変の程度が異なるなど不明な点が多く,その機構はほとんど解明されていません。品質管理研究室では,遊離リボースに注目し,イカの死後の鮮度低下とさきいか褐変の進行との関係を明らかにしてきました。今後は褐変の原因を明らかにするとともに,各種イカ類の死後変化の違いが加工品の品質に及ぼす影響を明らかにするなど,研究をさらに発展させていこうとしているところです。
 このほか,いくつかの研究課題を抱えています。今年度の所内プロジェクト研究では,他の研究室と共同で,所内の飼育施設を用い,養殖魚のテクスチャーと環境水温との関係,とくに死後変化についての研究をすすめています(表紙写真参照)。
(加工流通部 品質管理研究室長)
参考
実験風景:表紙写真

Emiko Okazaki
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