中央水研ニュースNo.29(平成14年7月発行)掲載

【研究情報】
森田研究員ベストポスター賞を受賞
和田 克彦

 写真のようなポスターで昨年(2001年10月1~5日), 当地横浜(パシフィコ横浜国際会議場)であった日本水産学会創立70周年記念国際シンポジウムで海洋生産部の森田貴己研究員(海洋放射能研究室)がベストポスター賞を受賞した。筆者はこのシンポジウムでプログラム委員とベストポスター賞選考委員として運営に少し関わったので紹介する。シンポジウムの参加者数は1,115名(国内889, 国外226), 参加国数は35, 発表課題数は740件であり,当初予想を上回ったという。ポスター発表は265件でその中から優秀論文21件が選ばれ,最終日の閉会式に合わせて表彰が行われ,賞状と副賞が授与された。
 海洋放射能研究室は, 1970年代の我が国の放射性廃棄物の海洋処分計画(深海投棄計画はロンドン条約において1980年に中止)において深海投棄候補海域の基礎調査(生物部門)を担当してきた。元海洋放射能研究室吉田勝彦室長らにより深海生物の生物相と分布量, 漁業と漁場の実体及びその海洋環境の調査が精力的に調査され, 北太平洋中部の水深5,000-6,000mにおいて深海性ソコダラが多く分布していることや深海への放射性核種を含めた物質輸送(深海生物の餌)が明らかにされてきた。しかしながら, 海洋生物はそれぞれの棲息水深で深海へ輸送される物質をストックしていることは理解されたが, いぜん海洋生物の棲息水深がどのように決定されているかという古典的な問題は不明のままであった。そこで本問題を研究することにより, 海洋生態系構造(海洋における生物の配置)の成り立ちが理解され, 将来的に放射性核種を含めた物質輸送の基礎を築くことを目的として,「沖合深海域における深海生物の適応と生存機構」という課題が立てられた。森田研究員はこの課題の成果の一部を本シンポジウムで発表した。
 成果を簡単に説明すると, 筋肉の主要タンパク質で収縮に関わるといわれるアクチンの重合反応を深海性のソコダラとより浅い所に棲む他の魚を比較した。アクチンは単量体(G-アクチン)が重合して多量体(F-アクチン)となりフィラメントとなることにより機能する。深海性ソコダラ骨格筋のαアクチンは高圧下でも重合するが, 他の魚のアクチンは高圧下では重合が阻害された。この違いが何に起因するかをアクチン遺伝子の配列を決定し, 演繹アミノ酸配列を比較したところ3個のアミノ酸残基が異なっており, この僅かな変化が深海性ソコダラのアクチンを高水圧に適応させていることが示された。
 高水圧の影響を観察するには, 生化学反応時に体積の増加が起きる反応に着目し研究対象として筋肉タンパク質アクチンを対象としたことが今回の成果となった訳であるが, その研究の背景には海洋放射能研究室と調査船蒼鷹丸が長い年月をかけて完成させてきた蒼鷹丸式深海篭網漁法などの試料採集技術があることを忘れてはいけない。このような水産研究所独自の技術と森田研究員の持つ分子生物学的技術の結実が生み出した成果といえよう。今回の受賞をバネに更に研究が発展することを祈っている。
(生物機能部長)
参考
ポスター

Katsuhiko Wada
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