中央水研ニュースNo.29(平成14年7月発行)掲載

【研究情報】
水産系残滓処理(リサイクル)の現状と課題
三木 克弘・樽井 義和・田坂 行男

1.はじめに
 近年,環境問題についての社会的関心が高まるにつれて,水産系残滓の処理やリサイクルについても注目されるようになってきた。経営経済部消費流通研究室では,昨年度加工残滓を中心とする水産系残滓の発生状況及びその回収,処理状況について広域的な実態調査を行った。本報告は,その調査結果に基づき,水産系残滓処理の現状についてこれまでに得られた知見を整理したものである。
2.水産系残滓発生の概要
 水産系残滓とは水産物の水揚から消費に至る一連の流通過程の中で発生する生ゴミを中心とする残滓のことである。その発生の基本的特徴としては,①魚介藻類の種類の多さと利用形態の多様性を反映して残滓の種類も著しく多岐にわたっていること,②水産物の流通・処理段階に応じて多様な発生源があること,③品質低下が非常に速いことから迅速な処理が要求されること,等である。また,水産系残滓はタンパク質等の有用成分が含まれていることから「資源」として高いポテンシャルをもっている反面,「ゴミ」として処理される場合には,上記したような特徴からその回収,処理に要するコストが大きいという2面性をもっている。
 水産系残滓の具体的な発生局面をあげると,①水揚産地段階で発生するもの,②加工産地段階で発生するもの,③消費地段階で発生するもの,というように水産物の流通段階に応じて大きく3つに分けることができる。
 このうち水揚産地段階での発生局面としては,産地市場等での一次処理(例えば仲卸がマグロの頭を落とす等)や加工原魚の前処理工程,養殖産地における一次加工(フィレー加工等),傷やサイズ等の問題から上場されなかった水産物や市場価値のない廃棄魚等である。これらの残滓は水揚直後のものが多いことから総じて鮮度が良好なことに加え,数量的にもまとまりやすいことなどから高度利用しやすい残滓といえよう。
 加工産地段階で発生するいわゆる水産加工残滓については水揚産地段階で発生する残滓に含めて考えることもできるが,あえて前者と区別したのは,流通過程で発生したというよりも独立した産業から発生した産廃的色彩が強いためである。また,その発生量が極めて多いことに加え,発生場所も水産加工団地等で水揚地とは必ずしも一致しない点も加工残滓を区別した理由にあげられる。加工残滓の特徴はいうまでもなく水産加工産地に集中的に発生することである。したがって,その発生地域は水産加工の盛んな東日本から北日本の太平洋岸に集中している。内容的には水産加工の多様性を反映して非常に多種多様な残滓があるが,同一加工産地では類似の加工内容をもつ水産加工業者が集積しているケースが多いことから,同一種類の残滓がまとまって発生しやすいという点では水揚産地段階で発生する残滓と同様高度利用に適するものと思われる。しかし,加工残滓は発生直後は高鮮度であるものの,連続する作業工程の中で長時間にわたって少しずつ発生するケースが多いことから,工場の対応如何によっては品質低下を免れない。その中で水産加工業者の多くは厳しい経営状況に置かれており,本業が優先される結果,残滓の鮮度保持までは手が回らないのが現状である。したがってその処理実態も地域や工場によって様々であり,必ずしも有効利用されているものばかりとは限らない。なお,近年フィーレ等の前処理済みの輸入原料が増加したことにより加工残滓の発生量はかつてと比べ減少傾向にあるものと思われる。
 一方,消費地段階での水産系残滓の発生元としては,小売店(量販店,魚屋等),業務関係(外食店,中食関係,給食関係,ホテル・旅館等)及び中央市場等があるが,そのうち小売店からの発生量が最も多い。消費地で発生する水産系残滓の特徴は1発生元当たりの発生量が小口であることである。また,残滓の内容や鮮度も一様でなく不純物も多いことなどから現状ではフィッシュミール以外の高度利用は難しい。なお,家庭から発生する水産系残滓もトータルとしては相当量に達するものと思われるが,その発生状況や回収コストを考えると,そのリサイクルについては現時点ではほとんど検討に値しないものと考えられる。なお,近年産地段階でフィレー等にされるものの割合が高まっていることから,消費地段階における水産系残滓の発生量は減少傾向にあるものと推測される。
 以上のような水産系残滓発生の特徴を踏まえた上で,その回収,処理の現状についてみていくことにする。
3.産地における水産系残滓処理方法としてのフィッシュミール加工の実態
 水産系残滓のリサイクル手段としては,今日までフィッシュミール加工が中心となっている。これはかつて安価で潤沢なマイワシを主原料としたフィッシュミール工業が盛んに行われていた中で,水産系残滓についても補完的な原料として位置づけられてきたことがその背景にあるものと思われる。しかし,マイワシの減少によりその条件は大きく変化し,かつては有償で引き取られていた残滓は,その後無償となり,近年では逆に処理料が必要となっている。これはミール工場の経営不振によるものであるが,その主たる原因は原料不足にあると考えられる。すなわちマイワシの減少により,ミール工場の多くは廃業に追い込まれ,残存する工場でも残滓を中心とする原料への転換を余儀なくされてきたが,それによっても稼働率の低下が避けられなかったことに経営不振の最大の原因があるものと思われる。そのため製品(ミール)の売上だけでは経営が維持できなくなったことから,「廃棄物処理業者」としての性格を加味することで,本来ならば「原料」を買い取るべき原料供給者(残滓の発生元)に対して,「処理料」等の名目で費用負担を求めることでかろうじて経営を維持しているケースが増えているものと思われる。一方,残滓の発生元である加工業者等にとっては,残滓が「有価物」から「逆有価物」に変わったことによる経営的影響は少なくないものと思われる。このような事例はかつてミール工場の多かった関東以北の地域に多い。
 一方,関東よりも西の地域においては,水産系残滓の発生に係わる業界の組合(水産加工組合や漁協等)がミール工場を自営しているケースがみられる。これらの地域では元来民間のミール業者が少ないことから,関東以北のように既存のミール業者に残滓処理を委託することが難しいことが自己処理が進んだ原因とみられるが,それに加え民間の処理業者(畜産系の廃棄物等と合わせて水産系廃棄物についても処理を行っている業者等)に処理を委託するよりも自己処理を行った方が中・長期的にみて経済的なメリットが大きいという判断が自己処理を行うモチベーションになっているようである。このようなケースでは,残滓の処理にかかったコストをリサイクルによって生産された魚粉や魚油等の収益によって埋め合わせるといった考え方のところが多い。しかし我々の調査では,このようなケースでは比較的うまくいっているところが少数ある一方,予想外のコストがかかったり,原料不足や製品の販路が少ない等の理由で厳しい経営状況に陥っているところが少なくなく,残滓のリサイクルを事業化することの難しさを示すものとなっている。
4.消費地における水産系残滓の回収0,処理の現状(関東地区のケース)
 次に,消費地における水産系残滓処理の現状をみていくことにする。冒頭で述べたように,産地では水産加工残滓が中心であることから1件の発生元から比較的まとまった量の残滓が発生するのに対して,消費地ではスーパー等から出る残滓(魚あら)が中心であることから1件あたりの発生量が小口であることが特徴である。また産地では水揚状況や加工内容等によって残滓の発生密度や発生状況が大きく異なるのに対して,消費地では基本的に人口当たりの発生量やその内容に地域的な差異は少ないものと推測される。
 関東地区では現在2社の水産系廃棄物処理業者が消費地段階で発生する水産系残滓を中心に回収,処理(ミール加工)している。処理業者によると,現在1都6県の水産系残滓の発生量は家庭から出るものを含め1日約800tと推定されているが,この2業者で700t近くを回収しているという。
 このうち1業者では,1都6県と隣接する2県の約1万8千店舗を対象に水産系残滓を回収しミールに加工している。この業者は廃棄物処理業者として補助金を受ける一方,生産物(ミール)の販売を行うことで経営的に成立している。回収は水産系残滓専門の回収業者への委託によるものが約100コース(1コースは1人の回収業者が1日に担当する回収範囲で,回収ルート上の100~120箇所の回収ポイントからなる),自社回収が約20コースといわれる。外注先は「1人社長」といわれる3~4トンのトラック1台を持った個人の回収業者で,特定の処理業者と長年取引関係を続けてきた中で専属の回収業者のような位置づけになっているものと推定される。これらの回収業者は夜間担当するコースの回収先を回り,店先に出された残滓を回収し翌朝処理業者のミール工場へ搬入する。残滓の回収量は1コース当たり1日2.5t程度といわれる。こういった回収業者は回収先から受け取る「処理料」と処理業者に売り渡す料金の両方で経済的に成立(自立)している。なお,自社回収の約20コースは外注ができない「不採算コース」である。これらは海や山に隣接している地区や回収先が広範囲に点在しているような地理的条件の悪さから,1晩(8~9時間)に収支が成立する量の回収ができないようなコースである。赤字を出してまでこのような所からの回収を行うのは,現時点において不採算でも長期的な経営戦略上無視できないためと思われる。このことはミール加工において原料確保がいかに重要な要素であるかを改めて示している。近年,関東地区では2社の水産系廃棄物処理業者と既存のミール業者の間で残滓回収のシェア獲得競争が行われてきたが,事例にあげた1業者が過半数のシェアを占める状況となっている。この業者はこれまでミール業者の廃業や量販店の店舗展開等に伴って残滓の回収エリアを拡大してきたが,その結果回収エリアが著しく広域化したことにより,これまでのような回収車1台に付き1コースといった回収方法では非効率な部分がでてきたことから,1次集荷ポイントを設ける等の効率化を図っている。
 このように1件当たりの発生量は小口であるが,総体としては相当規模の発生量に達するのが大都市における水産系残滓発生の特徴である。その中で1業者が高い回収シェアを占めているのが関東地区の水産系残滓回収・処理の実態である。一方,関東以外の消費地では民間業者よりも自治体や公社等による回収・処理が行われている所が多いようである。そしてこの違いは残滓発生量の多寡に基づくものと考えられる。
5.養殖用餌料としての水産系残滓利用の実態
 これまでフィッシュミール加工による水産系残滓処理の事例をみてきたが,水産系残滓を巡る新たな動きとして,5年程前から水産加工残滓がブリ等の養殖用餌料として利用され始めている。以下,実際に残滓の養殖餌料化の関係者からの聞き取りを元にその実態についてみていく。
 水産加工残滓が養殖用餌料に使われ始めた背景にはいうまでもなくマイワシに代表される生餌の減少と価格の上昇がある。かつてキロ15円程度で入手できたラウンドの生餌(マイワシ)は,今日では中国産メロードや小型のサンマやアジ,サバ等でキロ50円前後はする。それに加え養殖経営上の問題が残滓の餌料化が進んだ背景にあるものと思われる。すなわち,近年養殖魚の販売環境として,養殖魚にも製品差別化が厳しく求められるようになっている。しかし,このような生産コストの上昇に対して製品の販売価格は基本的に低位安定状態にあることから,養殖業は厳しい経営環境にある。そのため養殖経営体ではコスト削減が至上命題となっている。その中で生産原価の65%を占めるともいわれる餌料代の節約は養殖経営にとって重要な課題となってきた。このような中,数年前から生餌(ラウンド)の代替として試行錯誤的に使われ始めた水産加工残滓は,かなり有望な餌料であることが認められ近年急速に普及しつつある。
 我々の調査によると,加工残滓は,①そのまま餌に混ぜて使われる場合,②粉砕して配合餌料と混ぜモイストペレットとして使われる場合,③加熱処理されEP化されて使われる場合があるが,現在のところモイストペレット化されるケースが最も多いようである。餌料向けの加工残滓としては脂肪分の多いサバ,イワシ,サンマ等の評価が高いが,それ以外でも鮮度さえよければほとんど養殖用餌料としての利用が可能といわれている。ただし魚種によっては脂肪分に偏りがあることから,フィードオイルを加えることで成分調整が図られている。これらの養殖用餌料向けの加工残滓は水産加工が盛んな東日本や北海道で発生したものが多く,九州等の養殖産地で使われている。
 養殖用餌料としての加工残滓の利用は始められてからまだ日が浅いことからその評価や利用実態についても一定しておらず,未だ試行錯誤的段階にあるものと考えられる。しかし養殖経営体の需要が大きいことから,今後さらに広がるものと思われる。
6.まとめと課題
 以上,調査によって明らかとなった水産系残滓の処理(リサイクル)の概観についてみてきたが,このような水産系残滓については産地と消費地で,あるいは産地間で発生する残滓の内容や発生条件等が大きく異なっているにも係わらず,その処理方法としては一様にフィッシュミール加工による処理が選択されている傾向がみられる。これはミール加工がこれまで水産系残滓のリサイクル手段として一般的に行われてきたということの他に,最近の養殖用餌料としての利用を除けば,これまでミール加工に代わるリサイクル方法が少なかったことが大きな理由と考えられる。また利用可能な原料(残滓)の幅が広いこともミール加工による処理が広く行われてきた原因と考えられる。しかし既に述べたように,既存のミール工場並びに残滓処理を目的として新たに作られたミール工場のいずれにおいても,近年原料不足等により厳しい経営状況にあることが確認された。これは既存のフィッシュミール加工が大量処理を前提とした技術体系であるためと考えられる。また,近年ミールの需給緩和による製品(ミール)の販売不振や価格低迷も経営不振の原因になっているものと思われる。このような厳しい経営条件の中で,今日ミール工場が経営的に成り立つのは,①老朽化したミール工場や機械装置を更新せずにそのまま利用する(設備費及び減価償却費の節約),②設備の修繕等は極力内部で行いコストに計上しない(修繕費の節約),③労働者数を極端に減らし可能な限り複数の職務を兼務させる(人件費の節約),④回収業務を外部化する(回収コストの節約),⑤残滓をただで引き取る。さらに回収先から「処理料」を徴収する(原料費の節約),⑥原料(残滓)の集荷範囲の広域化や集荷対象の小口化を図る,等,必ずしも正常とは思われないものも含めたこれらの対応策を可能な限り組み合わせたケースである。しかし,それをもってしても厳しい経営状況を克服できないミール工場が多いのが現状である。そのことは,既存の技術体系に基づくフィッシュミール加工に大きく依存する今日の水産系残滓の処理体制が限界的な状況にきていることを示すものと考えられる。
 一方,このような技術的あるいは経営的問題はあるにせよ,事業系の水産系残滓の回収,リサイクルが民間ベースで行われている現状は評価に値するといえよう。仮に自治体等が事業系の水産系残滓の回収,処理を行った場合には,その施設や人件費及び回収,処理費用は多額に上ることが予想される。ちなみに消費地段階での水産系残滓の多くは自治体等による回収,処理が行われ,民間業者がそれに携わっている場合にも補助金が支出されている。そのことは,今後仮に事業系の水産系残滓の民間処理(リサイクル)が行き詰まった場合には,自治体等による処理のために相当規模の行政負担が発生するということに他ならない。このようなことから,今後,水産系残滓の処理(リサイクル)においては,民間ベースでの処理を支援するような技術開発や施策を進めることが重要と考えられる。
 このような水産系残滓処理の今後の方向性としては,①残滓の資源的利用の促進,②残滓の発生条件変化への対応,の2つに大別できよう。前者は,例えばマグロの頭からDHAを取り出すといったことや残滓の養殖餌料化の促進といったように,残滓の分別や鮮度保持を進める中で「資源」としての取り残し部分をより高度に利用する方向である。このような残滓の資源的利用については民間が主体となって技術開発や投資が進められるべきものと考えるが,それについては未だ大きな可能性が残されているものと思われる。後者は,残滓の発生条件(量,質,分布等)の変化に応じて,最適の処理(リサイクル)技術やシステムへの更新が絶えず行われることが必要になるということである。近年,輸入水産物の増加等により残滓の発生量が減少していることに加え,養殖用餌料への残滓利用が進展したことで,ミール原料へ回る残滓の量的減少と質的悪化が進んでいる。このような資源的価値の少ない本来的な意味での「残滓」のリサイクルについては,民間の技術開発や投資も余り期待できないことに加え,その発生や滞留による社会的影響も大きいことから,今後行政が優先的に処理技術(既存のミール加工における省コスト技術や少量でも採算性のある処理技術等)の開発や処理システム(残滓の発生状況の変化にあわせたミール工場の再配置,回収システムの見直し,集中処理か分散処理かの選択等)の構築に力を入れるべき分野と思われる。今後,水産資源の有効利用の一環として,これまで以上に「残滓」の有効利用を図っていくことが求められている。
参考
水揚産地で発生した残滓
フィッシュミール工場の内部
高鮮度の加工残滓
(経営経済部 消費流通研究室)

Katsuhiko Miki, Yoshikazu Tarui, Yukio Tasaka
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