中央水研ニュースNo.29(平成14年7月発行)掲載
【研究情報】各部の平成13年度の活動と平成14年度の方針

[利用化学部]
水産食品は健康生活の源
池田和夫

 年度計画に記されている大課題「消費者ニーズに対応した水産物供給の確保のための研究」が,水産利用加工分野が行う試験研究の中心となっています。このうち,利用化学部は,水産生物等の成分の理化学的性質及び機能性物質の特性を探索・解明し,これらの利用技術の開発を行うこととなっています。
 平成13年度には,この大課題に沿った経常研究,プロジェクト研究,事業など,24の小課題について試験研究を実施し,研究広報として,学会誌への発表が7件,公刊図書が5件,その他の報告が23件,口頭発表が27件,特許が3件,合計65件を公表しました。主な研究成果としては,DHAやEPA以外の高度不飽和脂肪酸が抗炎症作用などの有益な生理活性を持つこと,ワカメと魚油(魚油を含んだ焼き魚など)の同時摂取が脂肪肝や高脂血症等の生活習慣病の予防に有効であること,水産加工残滓からの効率的な蛋白質の回収及び重金属を含んだ加工残滓からの重金属の少ない蛋白質の回収法の開発,イワシの原産地特定が遺伝子の解析から可能となったこと等が挙げられます。なお,ウニの苦味成分の解明について,素材化学研の村田裕子主任研究官が日本水産学会奨励賞を受賞いたしました。
 試験委員などの対外的な各種委員や連携大学院教官,特別講演などにおいても,求めに応じて対応いたしました。また,他機関との連携協力は,大変重要なことと考えており,契約に基づく共同研究を2件,連携協力した研究を12件,研修の受け入れを3件,海外協力を2件というように,民間,都道府県,JICA,JIRCASなどからの要請に積極的に対応しました。
 これらについては,利用化学部評価部会に報告し,3名の外部評価委員から「初年度の課題が多いという事情はあるが,学会誌などへの投稿が他の報告形態と比較すると,やや少ない」との指摘があり,平成14年度には積極的に対応していくこととしました。この他,一層の試験研究の進展に向けた建設的な助言をいただき,試験方法の小規模な修正などを行なうこととしました。
 また,都道府県の抱える水産利用加工関連の問題を4つに集約し,ブラッシュアップして問題解決を図ろうとする勉強会の立ち上げを水産利用加工関係試験研究推進会議に提案し,了承を得ました。この勉強会は,都道府県が直面している利用加工関係の問題点をアンケートや推進会議「都道府県部会」からの提案として受け,中央水産研究所が集約したもので,①イカ新需要開拓のための技術開発,②水産加工廃棄物の創資源化技術開発,③腸炎ビブリオ対策など魚介類の安全性確保技術開発,④美味しい養殖魚作りと超鮮度保持技術の開発,の4つです。加工流通部長と利用化学部長が全体の責任者となり,課題毎の世話役として室長をあて,都道府県試験研究機関からの参加を募って,平成14年度から勉強会として立ち上げ,ファックスやメール,各種の会議前後に開催する等によって,進めていこうとしています。参加・不参加・脱退は自由ですが,5月15日現在では①は14機関15名,②は38機関43名,③は20機関22名,④は27機関29名の参加申し込みがあります。加工流通部と協力して,勉強会を運営していきます。
 平成14年度は,平成13年度に策定した小課題の2年目に当たり,平成14年度の年度計画として利用化学部評価部会で了承いただいた計画に沿って,試験研究を進めていきます。主な研究方向としては,低利用海藻であるアオサの生理活性機能の探索,水産加工残滓からの血小板凝集抑制物質やセラミド脂質などの抽出利用技術の開発,甲殻類のカラに含まれるキチンオリゴ糖の免疫機能に与える効果の解明,太平洋と大西洋に分布するカイアシ類の脂肪酸組成を解明するために,得られるデータの比較を可能にする互換性の確保のためのドイツと日本での測定法の統一,など原料となる海藻,甲殻類や魚類のように,対象とする水産生物の範囲は広いのですが,低・未利用水産生物や加工残滓などの低・未利用資源の工業素材・工業原料・医薬品・化粧品等への利用を目指して研究を推進していきます。
 また,研修や共同研究などの各種の要請や,研究成果の広報等についても積極的に対応していこうと考えています。
利用化学部長

Kazuo Ikeda
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