中央水研ニュースNo.29(平成14年7月発行)掲載

【情報の発信と交流】
研究室紹介-黒潮研究部生物生産研究室
廣田 祐一

 黒潮研究部生物生産研究室は,黒潮域において魚など水産資源の餌であるプランクトンやそれをめぐる生物を調べている研究室です。プランクトンなどを調べることにより,1)黒潮域における生物生産機構を明らかにし,2)さらに,いわし,さばなどの水産資源の変動原因の解明や予測に役立てることを目指しています。
 プランクトンには生産者とされる植物プランクトンと一次消費者とされる動物プランクトンがあります。植物プランクトンの分布や季節変動などの把握のため,調査船こたか丸やしらふじ丸より土佐湾を中心とする海域において毎月数日採集調査や基礎生産の現場法による培養実験を行っています。また蒼鷹丸や開洋丸などにより黒潮域を広汎に採集調査を行っています。土佐湾を中心とする調査では,植物プランクトンは春季3月から4月に最も多く,基礎生産量のピークもこれに一致してらしいことや,年によっては秋季に第2のピークが出ることがわかってきました。また夏季には黒潮の離接岸などと関係して,冷たく栄養塩の多い下層の水が上昇することにより亜表層の植物プランクトンが増加することもわかってきました。
 動物プランクトンの中でも,プランクトンネットから抜け落ちる原生動物や橈脚類の幼生などの小さなものを微小動物プランクトンと言い,仔魚の餌として重要とされています。しかし日本周辺域における結果は現在あまり多くありません。黒潮域における微小動物プランクトンについては,こたか丸などの調査で採集し,試料を計数するだけでなく,画像解析機を用いて計測を行ってきました。この結果,その現存量(体積)は春季に植物プランクトンにやや遅れて多くなることは,黒潮の沖合よりも内側域で多いことなどがわかりました。
 動物プランクトンは,通常ノルパックネット,MTDネットやボンゴネットなどで採集し,大型船を利用できるときはモクネスや大型の方形枠ネットなども用います。これらの調査により,動物プランクトンは土佐湾においては春季植物プランクトンの増加から1ヶ月ほど遅れて増加し,黒潮の内側域で多いが,さらに沖合では亜熱帯前線より南で量がさらに減ることなどがわかってきました。また土佐湾ではニギスやアオメエソなどの底魚類が水深200m前後の陸棚斜面海底付近で多くなります。同様な現象は諸外国の海域でも見られるとのことですが,この原因として日周鉛直移動する動物プランクトンが関係しているこることが明らかになりました。夜間表層で植物プランクトンなどを摂餌した橈脚類やおきあみ類は,昼間水深300mから400m付近に降下します。しかし陸棚斜面では海底があり,それ以上深く降下することができず海底付近に集まります。幼魚は橈脚類を,成魚はおきあみ類を主に食べ,200m付近に良い餌環境の場が形成されることになります。
 さらに,動物プランクトンの測定についてはOPC(Optical Plankton Counter)を用いてサイズを迅速に求めたり,VPR(Visual Plankton Recorder)を用いて海水中の壊れやすいゼラチナスプランクトンを直接観察することにより実施する試みも行っています。
 このようなプランクトンの調査研究と併せて,マイワシやウルメイワシなどの水産資源がどのようなものをどのくらい食べるのかについても明らかにし,餌環境の状態を明らかにする研究も行っています。仔稚魚は大型のプランクトンネットで採集し,幼魚や成魚は刺し網や釣り調査を行うことにより採集しています。ウルメイワシやアジなどでは昼間陸棚上の海底近くで採集した胃内容物がおきあみ類で占められることもあり,動物プランクトンの日周鉛直移動が底魚ばかりでなく浮魚の餌環境にも大きな影響を与えていることを推測させます。
 これらの研究は,現在「イワシ類等の食物利用実態およびその餌料環境の把握」「資源評価調査事業」「仔稚魚をめぐる食物関係と減耗過程の把握」「VPRによる深海生物および有機物量の把握」「日本周辺海域における一次生産及び関係諸量の推定に関する研究」の課題の中で行っています。しかしこれらの課題の各年度の要求に応えるだけでなく,一方で餌環境に関する継続的なデータを蓄積し,資源生態研究室,資源評価研究室や海洋動態研究室と連携しながら長期の資源変動の原因究明に寄与することを目指しています。
 現在当研究室には,平成14年度までの期限付きでさんごの主任研究官も所属し,「造礁サンゴ群集の健全度指標に基づく生態系管理手法の開発」「サンゴ類によるCO2収支の把握」の課題において,石垣島や土佐湾周辺におけるさんご調査を行っています
(黒潮研究部生物生産研究室長)

Yuichi Hirota
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