中央水研ニュースNo.28(平成14年3月発行)掲載

【情報の発信と交流】
「第11回世界食品科学工学会議」に出席して
岡﨑惠美子

 平成13年4月22日~27日に第11回世界食品科学工学会議(11th World Congress of Food Science & Technology)が韓国のソウルで開催されたが,その中のひとつのセッションである冷凍すり身に関するシンポジウムに出席する機会を得た。これについて簡単にご報告する。

世界食品科学工学会議の概要
 本国際会議は,食品関係の国際会議としては最大規模で,2年に1度,世界各国で開催されている(前回は1999年10月にシドニーで開催)。今回の開催地が韓国だったこともあり,出席数第1位の韓国に続いて第2位は近隣の日本であり,参加者は150名を越えていた。これに米国,メキシコ,オーストラリア,カナダ,英国が続いた。講演内容は極めて多岐にわたり,食品の栄養,安全性,品質,加工・保存法など旧来からのテーマに加え,疾病や免疫等に対する機能性,廃棄物の問題,国際貿易上の問題,食餌ガイドライン,バイオテクノロジー導入,製造工程の自動化,高電圧パルスなど新技術の導入,HACCP,国際食品規格,遺伝子組み換え食品の安全性など,各種のテーマに沿った48のシンポジウム(講演総数292)が行われた。また,10の基調講演,7のラウンドテーブルディスカッション,ならびにポスターセッション(発表数727)が行われた。

冷凍すり身技術の最近の進歩に関するシンポジウム
 シンポジウム「すり身及び魚肉加工技術の最近の進歩(Recent Development in Surimi and Fish Mince Technology)」の企画は,米国オレゴン州立大学のJae W. Park博士ならびにロードアイランド大学のChong M. Lee博士を中心として進められた。10の講演発表があり,すり身の機能性や回収率・生産性を高める新規加工法の開発,すり身のゲル化の劣化作用をもつプロテイナーゼの耐熱インヒビター,冷凍すり身の品質に及ぼす寄生虫の影響,坐りゲル化のメカニズムと分子間結合,すり身タンパク質の凍結保護に関与するポリオールの作用機序,中国産淡水魚・赤身魚・イカなど各種魚介類の特性とすり身化に関する研究など,すり身研究の各分野における最新の研究成果が報告された。上海水産大学の王氏は,福田加工流通部長がJIRCAS(国際農林水産業研究センター)在職中に同大学と共同研究で得た成果について発表した。
 私は,平成6年以降に水産庁委託事業「機能栄養マニュアル化基礎調査事業」のなかで取り組んだ,「乳化すり身の開発」についての研究発表を行った。
 この研究は,機能性に優れた水産油脂を豊富に含む加工素材の開発を主旨としてスタートしたものである。EPAやDHAなど魚介類由来の高度不飽和脂肪酸のもつ優れた生理機能が一般にも広く認められるようになったものの,これらは酸化による劣化が起こりやすく,また通常の方法による練り製品などへの混入は製品の品質劣化を招くことが危惧されていた。そこで,魚油を安定的に含む冷凍すり身の開発に取り組むこととなった。一連の研究の中で,魚油を強い攪拌力によって微粒化(乳化)させると安定化すること,水溶性タンパク質の添加により魚油の混合比率を飛躍的に向上させ得ること,糖アルコールの添加が凍結による魚油の分離を防止すること,魚油粒子の微粒化はすり身のゲル形成能の向上にも寄与すること等が明らかとなった。これらの研究成果と,今後の展望について報告した。
 シンポジウムではそれぞれの発表ごとに多くの質問や意見交換が活発に行われたが,各国研究者の間に,すり身という共通の素材に対し現場的な観点をも含めて取り組んでいるという暗黙の連帯感があるようにも感じられた。日本からは日本水産㈱中央研究所の木村郁夫博士ならびにマルハ㈱中央研究所の野口敏博士が活発に議論に参加しておられ,海外事情に詳しい両氏に私もかなり助けていただいた。
 冷凍すり身・練り製品を取り巻く状況は時代と共に大きく変化してきている。冷凍すり身が開発された1960年代当初は,利用価値の乏しかったスケトウダラ資源活用の道を拓いた点で脚光を浴び,大量生産・大量消費型の技術として発展した。以来研究も盛んに行われ,魚肉やすり身に関する報文数は膨大な数にのぼる。国内でのすり身生産が激減し海外での生産量が急増している現在においては,厳しい国際競争のなかで統一的な品質評価基準の策定が求められ,その対応がFAO/WHOのCODEX委員会で進められているが,これに科学的根拠を与えるための研究も多く行われている。我が国においても,ねり製品原料としてのすり身研究はほぼ収束しているようにみえるが,地域特性を生かした水産物の活用のための研究は地道に続けられている。今後,すでに築かれたこれらの技術を基盤として,世界の限られた水産タンパク資源を貴重な食糧源としてより人と環境に優しく活用するための研究が果たす役割は大きいと考えられる。

国際会議場
 会議は,2000年5月に完成したばかりの巨大複合施設COEX(Convention & Exibition Center)のなかの会議場で行われた。COEXの展示場では食品博覧会が同時に開催され,盛況であった。付近は高層ビルのオフィスが立ち並ぶビジネスタウンであり,COEX一帯はワールドトレードセンター,都心空港ターミナル,最高級ホテルとデパート,アジア最大のショッピングモールであるCOEXモールなどが複合的に機能し,最先端のコミュニケーション・インフラが完備されている。急成長を遂げる韓国のパワーを象徴しており,まずその規模に圧倒された。

韓国の街の印象
 初めての韓国は,そのエネルギーにひたすら圧倒される感じがした。2泊3日の初日,開港したばかりのインチョン国際空港に到着したのは夕方。翌日のシンポジウムの打ち合わせを兼ねた夕食会に出席。2日目はシンポジウムに出席し,夕刻は学会主催のレセプションに本シンポジウムの日本人出席者とともに参加。そして3日目は帰路に。今回は事情により日数が取れず非常に短い旅程であり,韓国の旅情を味わう暇もなかったが,3日目の朝には水産市場を訪ねてみた。1000万人を越える巨大都市ソウルの胃袋を支える水産市場には新鮮な魚介類や加工品が溢れ,活気に満ちていた。
 街のなかでの人々の対応は非常に好意的であり,ハングル文字が全く理解できずに右往左往しつつも拙い英語を頼りに安心して歩くことができた。あまりに広大なCOEXの建物で迷子になった初日も,現地の職員の連係プレーに大いに助けられ,難を逃れることができたのは幸いだった。彼らは勤勉であり,向上心に満ちているように見えた。短時間の訪韓のなかで,こうした韓国のエネルギーを肌で感じられたことは私にとって大きな収穫だったと思う。いずれあらためて,ゆっくりと歩いてみたいと思う。

(加工流通部品質管理研究室長)
参考
すり身シンポジウムの講演者とともに
会議が開催されたCoex Convention Center
活気に満ちたソウルの水産市場にて
右から木村博士,Lee博士,野口博士,筆者

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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