中央水研ニュースNo.28(平成14年3月発行)掲載 |
【情報の発信と交流】
「第17回国際海藻シンポジウム」「第7回国際藻類学会」に参加して
丹羽 一樹
今年度開かれた藻類関係の二つの国際学会に参加した。まず,17th International Seaweed Symposium(第17回国際海藻シンポジウム)は2001年1月28日から2月2日にかけて南アフリカ共和国のケープタウンで開催された。 会場であるケープタウンはアフリカの最南端にあり,現地では夏の盛りでありながら朝夕は涼しく,過ごしやすい街であった。この地方の自然の景観は非常に奇異なもので,日本人の私には新鮮な驚きであふれていた。この地域の植物の68%が固有種といわれるほどで,プロテア,ゼラニウムのような肉厚な葉や花びらの草や低木が多く,明らかに日本の草花とは雰囲気が異なっていた。更に雨が多いにも関わらず樹木は全く自生しておらず,これも独特の景観の最大の要因であろう。極めつけは,海岸近くの道端の薮の陰でくつろいでいるペンギン(ケープペンギン)を見つけたときで,このときはさすがに唖然としてしまった。大西洋とインド洋が出会うアフリカ最南端のケープタウン付近は暖流と寒流が交わり良い漁場とのことであるが,周囲は褐藻カジメの一種 Ecklonia maxima の海中林で囲まれていた。食べる機会はなかったが,地元の人が洗面器大の巨大なアワビを獲っていた。社会的には植民地時代の面影が色濃く残り,白人も人種毎に集まって町を作っており,大学も昔は人種毎に設置されていたそうである。この国では人権意識が強く囚人の扱いが良いため,路上で飢えるより刑務所に収監さ れることを望むものも多く,より大きな罪を犯さないとすぐに釈放されてしまうという事情もあり,犯罪が多発しているとのことであった。一人では外出しないように注意され,テレビニュースでは本日の行方不明者というコーナーがあり,国事情が伺えた。シンポジウム会場はケープタウン大学で,世界初の心臓移植を行った病院として有名だそうである。ここはもともと英国系移民のための大学であったが,今では多様な人種が学んでいた。 このケープタウンで行われた海藻シンポには約350名が参加し,ポスター発表を含め約240件の発表が行われた。私は緑藻アオサと紅藻アマノリ類の遺伝子系統解析に関する口頭発表とポスター発表を行ったが,研究内容の近い海外の研究者と議論を交わすことが出来,彼らと知り合いになれたことは非常に大きな収穫となった。彼らの研究データと私の今回の発表内容がお互いに矛盾無く補うものであったことには非常に安堵している。食用ノリを含むアマノリ属紅藻と類縁のウシケノリ属海藻という形態的に異なる二つの属が系統学的に分離できないと言うことが,これまでの18S-rRNA遺伝子やLubiscoスペーサー領域の塩基配列による解析で知られていたが,今回新たにアクチン遺伝子の塩基配列でこれまでの系統解析結果を再確認している発表が見られた。それでも,系統学的なデータから即,二つの属を統合しようと言う動きにならないのは,藻類ならではの特殊な背景によるものである。 他の研究発表の内容は多岐に渡ったが,増養殖,食品化学分野からの話題提供が目立った。これは寒天やアルギン酸等の工業原料としての需要があることに加え,新しい資源としての利用可能性を探る世界的な動きの現れであろう。また,日本海藻協会が展示ブースを開設し,日本の海藻製品(インスタントワカメスープや佃煮等)を配布・販売した。私も少しばかりお手伝いをしたのだが,各国の研究者に海藻の食材としての利用に関してかなり興味を持って頂けたことを直に感じることが出来た。特にインスタントスープは現地のテレビニュースで紹介されるほどの評判であった。 国際海藻シンポジウムは3年に一度の開催であり,次回2004年はノルウェーのベルゲンにて,その次の2007年はイスラエルで開催されることになっている。 一方7th International Phycological Congress (第7回国際藻類学会)は,同年8月18日から25日にかけてギリシアのテッサロニキ市で開催された。 テッサロニキ市はアレキサンダー大王で有名なマケドニア地方に位置するギリシア第二の都市で,古代ローマ時代からの商業都市である。街の至る所から遺跡が顔を出し,ちょうど京都の神社仏閣をレンガ造りの教会やモスクに置き換えたような印象であった。いちばん困ったのは英語があまり使われていないことある。しかもアルファベットが物理式のようなギリシア文字のため,固有名詞ですら解読に苦労する有様だった。土日は繁華街でも商店はシャッターを下ろし,平日でもシエスタのためか昼間でも閉店している店が多かった。そんなのんびりした雰囲気も夕方からは一変し,遺跡や広場の周りのオープンカフェやレストランが夜遅くまで営業し,深夜は非常にぎやかで,南アフリカとは対照的に平和な雰囲気であった。学会では昼食時間を挟んでポスター発表会場で議論する時間が充分すぎるほどとられ,おかげで内容の濃い議論を行うことが出来た。その代わり口頭発表も夜遅くまで続き,バンケットも夜9時から始まり,夜中の2時から花火を打ち上げるという夜型の生活リズムには最後までなじめなかった。 このギリシアでの藻類学会には約800名が参加し,ポスター発表を含め約450件の発表が行われた。ポスター発表の場所が口頭発表会場のすぐそばであったため,常に議論の光景が絶えなかった。南アフリカの海藻シンポでは大型藻類の話題が中心で比較的水産利用に近い内容が目立ったが,ギリシアの藻類学会では微細藻類の研究を含みその分規模も大きなものであった。私のように両方の学会に参加した研究者も多く,彼らと再会できて交流をより深めることが出来た。ギリシアの藻類学会は南アフリカの海藻シンポよりも更に生態学・分類学的な話題が多いという印象を受けた。また,形態分類と系統分類の矛盾に関しても多くの議論が重ねられていたのは,微細藻類の場合でも同じであった。これまでの分類方法を見直す必要性を皆が感じていたが,広い海で多様な種が存在する藻類に関して,これまでの分類を再整理するに足るデータが確保されていないため,今後の研究の進展が待たれているのが現状であった。 国際藻類学会は4年に一度の開催であり,次回2005年は南アフリカのダーバンで開催されることになっている。 両国際学会には,それぞれ20~30人ほどの日本人研究者が参加していた。日本を遠く離れた国で初対面の日本の方々と交流を持てるようになったというのは,非常に有意義な,ありがたい経験となった。 尚,今回の南アフリカの海藻シンポジウム参加にあたっては,井上科学財団の奨学金制度により旅費の援助を頂いたことを申し添えるとともに,両学会に参加する機会を与えて下さった皆様に改めて感謝の気持ちを申し上げる。
(企画連絡室研究員)
nrifs-info@ml.affrc.go.jp |