中央水研ニュースNo.28(平成14年3月発行)掲載 | ||||||||
【情報の発信と交流】
研究室紹介-黒潮研究部資源生態研究室-
本多 仁
世界有数の暖流として名高い黒潮は日本周辺の海洋環境や海洋生物相に大きな影響を及ぼしています。とくに私たちの研究室が面している南国高知の土佐湾沿岸は黒潮の影響を直接受けて水深50mほどの陸棚域底層では真冬でも水温が15℃を下回ることがほとんどないという暖かな海です。このため,土佐湾を中心とする南日本太平洋沿岸域は我が国周辺海域の中でも有数の多様な海洋生物が棲息する海域となっています。このような環境の中で,現在私たちの研究室が取り組んでいる研究課題は,
第二の課題は,「底魚類」つまり海底付近を主な生活場所とする魚類,イカ類やエビ類の分布量の把握や生態解明に関する研究です。南日本沿岸の底魚類は非常に多くの種類から構成されていますが,種類ごとの生物量は比較的小さく優占種が少ないことから漁獲量の多い有用種は限られています。主要な底魚資源としては,ニギス,アオメエソ,マエソ,イボダイ等の魚類やヤリイカ,クルマエビ科のエビ類などが挙げられます。こうした底魚資源に関しては,私たちの研究室の先達がこれまで半世紀以上にわたり,南日本の大陸棚(波打ち際~水深200m程度)から大陸斜面上部域(水深200~400m程度)までの海底付近に棲息する魚類,軟体動物や甲殻類など多様な底生生物の集団構造や生態解明のための研究を行ってきており,この分野の資試料の蓄積は南日本沿岸では有数のものがあると自負しています。私たちは,土佐湾の底魚類の分布パターンを南日本における底魚類の分布の典型として扱うことができると考えていますが,その特徴は次のとおりです。つまり,沿岸から水深110m程度までの浅海系群集(マエソなど多様な魚種構成),水深200~400m(大陸斜面上部域)の深海系群集(優占種アオメエソ), 両者の中間にある水深90~200mの推移帯群集(優占種はニギス)という三つに区分される,ということです。推移帯~大陸斜面上部において高い生物量を示すニギス(地元高知では「沖うるめ」と呼ばれています)とニギスよりやや深い海底に棲息するアオメエソ(同じく「めひかり」と呼ばれています)の生産を支えているのは,海の表層に生産の基盤をおきながら一日のうちに表層から中深層の間を鉛直方向と水平方向に三次元的に移動するオキアミなどの動物プランクトンであることが,これまでの黒潮研究部内各研究室の共同研究により解明されています。 三つ目の課題はマアジのプロジェクト研究課題ですが,まだ2年ながら着々と成果が蓄積されています。四国太平洋沿岸のマアジの産卵期が初冬12月から夏の6月ごろまでの半年間近くにわたることやこれらの沿岸地先の産卵群に由来すると考えられる発生初期の仔魚が2月頃をピークに沿岸域に出現すること,また,表中層~中深層を遊泳する多くの魚類にマアジの稚幼魚が捕食されていることなどが明らかとなっています。 以上,まだまだ発展途上の研究や未解明の課題が多くありますので今後とも皆様のご協力・ご指導をよろしくお願いいたします。
(黒潮研究部資源生態研究室長)
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