中央水研ニュースNo.27(2001(H13).11発行)掲載

【情報の発信と交流】
研究室紹介-海区水産業研究部資源培養研究室
青野英明

 資源培養研究室は三浦半島の西海岸に立地する海区水産業研究部に属しています。相模湾の青い海に面し, また古いながらも比較的大きな魚介類飼育施設を有しており,増養殖対象種の資源培養に関する研究を行うに は恵まれた環境にあります。研究室が立ち上がって間もないので,残念ながら目覚ましい研究成果はまだあり ませんが,ここでは資源培養研究室が行っている具体的な研究内容をご紹介します。
 独法化後の新しい経常研究課題として,アワビ類の成熟に関する研究を始めました。アワビ類の漁獲量は減 少の一途をたどっています。種苗放流も盛んに行われていますが,放流貝の比率は高まるものの漁獲量そのも のは減少してしまうといった状況が各所でみられ,必ずしも資源の底上げには結びついていないようです。こ の研究所の目の前は神奈川県内で最も優良なアワビ漁場のひとつですが,やはり資源の減少傾向が顕著です。 繁殖生理学的側面からこの問題の解決に取りかかろうとしていますが,文献検索を行ったところアワビ類の生 理学的研究の少なさに愕然としました。個体レベル以上の研究は多いのですが,体内の生理機構に関してはほ とんどわかっていません。そういった状況なので,まずは生体試料の取り方や卵黄タンパクの産生やその動態 を調べることに着手しています。
 同じく成熟に関する研究としては,利用化学部機能特性研究室のプロジェクト研究課題に参加させていただ き,クルマエビの成熟試験に取り組んでいます。クルマエビは飼育下では成熟しないため,種苗は天然親エビ から得ています。しかし,資源の減少や疾病の問題があり,飼育親エビを用いた人工種苗生産技術の開発が望 まれています。この課題では飼餌料成分を変えた飼育実験を行い,雌の成熟条件を探しています。飼育は半年 以上に及ぶため,根気のいる仕事ではありますが,興味ある結果が得られつつあります。
 魚類に関しては,ヒラメ体色異常に関する研究を行っています。
白化・黒化現象には様々なアプローチで研 究が行われてきていますが,その発生機構や防除方法の根本的な解明には至っていません。当研究室では,体 色異常の原因となる色素細胞の分化・増殖の条件を解明すべく,主に培養細胞を用いた研究を進めています。
 さて,2001年の初夏に研究所前のアワビ漁場で,素潜り漁業者が操業中に体調不良をうったえ,症状が重い 場合は救急車で運ばれるという事例が続発しました。何かに刺されたことが原因でしたが,その後漁業者が研 究所に持ち込んだ原因生物はカギノテクラゲでした。調べてみると,北日本沿岸に生息するキタカギノテクラ ゲはかなり強い毒をもつとされていますが,カギノテクラゲの毒性についてははっきりしたことがわかりませ ん。海洋生産部とともに漁場を調査してみると,カギノテクラゲとともにコモチカギノテクラゲが大量に捕獲 され,かなり複雑な状況になりました。そこで海洋生産部低次生産研究室の所内プロジェクトに,当部の沿岸 資源研究室とともに参画し,これらのクラゲの生態調査や毒成分の分析等を進めています。
 この他にも飼育施設の利用を通して東京水産大学と魚病関連の研究や,東北大学と魚類の発生に関する研究 等において連携を進めるなど,海区に根ざした研究であると同時に「おもしろい研究をすること」,「応用研 究・現場対応研究であっても基礎をないがしろにしないこと」,「現象解明型,問題解決型研究であること」 を心がけ,常に新しい視点や手法を取り入れた研究の進展に努めています。

(海区水産業研究部資源培養研究室長)


図1.アワビの血リンパ試料の採取


図2.カジメ葉上のカギノテクラゲ(堀井沿岸資源研室長撮影)


Hideaki Aono
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