中央水研ニュースNo.26(2001(H13).7発行)掲載
【独法化を迎えて】
黒潮研究部のこれからの研究について
入江隆彦
中央水産研究所黒潮研究部は平成10年の水産庁研究所の組織改正に伴って,南西海区水産研究所外 海調査研究部の組織替えにより新設されました。黒潮研究部として再出発して以来,鹿児島県から千葉 県に至る黒潮流域の資源・海洋研究を担当するとともに,中央水研におけるブロック対応の窓口として ,太平洋系のマイワシ,マアジ,さば類等浮魚類及びニギス等底魚類の資源評価や長期漁海況予報等の 業務を一手に引き受けてきました。無我夢中でこれらの業務を遂行しながら,中央水研の研究基本計画 に基づく新しい研究課題に着手して2年半,ようやく軌道に乗ってきたかと思われる中で,再び独法化 という新たな大波が押し寄せています。今後は水産総合研究センターの中期目標,中期計画に基づきな がら,これまでの研究成果を引き継いで研究を発展させ,業務を遂行することとなりますが,これは平 成12年に水産庁が策定した水産研究・技術開発戦略の重点課題を実行することでもあります。 黒潮の流れには直進,蛇行など,いくつかの型が知られており,黒潮が大蛇行した場合は,遠州灘沖 に冷水塊が形成され,漁業や資源に大きな影響を与えます。また,黒潮の離接岸により沿岸に流れ込む 黒潮派生の暖水が浮魚類の漁場形成に深く関わっていることから,黒潮流路の変動予測とともに,黒潮 流路変動と黒潮内側域の海洋構造の変動との関連の解明が重要な課題として残されています。より基本 的な問題である黒潮の変動機構の解明にはグローバルな視点が欠かせません。 房総半島から薩南海域に至る太平洋中・南部海域は,さば類,マアジ,いわし類,ブリ等浮魚類及び ニギス,ヤリイカ等底魚類の漁場として,また,これら魚類の産卵場,生育場として重要な海域です。 当海域のマサバ,マイワシ等は資源増大期には三陸から道東海域まで回遊し,各海域の主要な漁獲対象 ともなります。国連海洋法条約の下,TAC制導入に伴い,対象となる水産資源の資源評価,動向予測と ともに,より精度の高い生物学的許容漁獲量(ABC)を算出することが要請されており,このために重 要なパラメータとなる年齢・成長,成熟・産卵等の生物特性の把握が重要課題となっています。一方, 浮魚類はマイワシを筆頭に,資源量が大きく変動することが知られており,資源評価の精度向上のため に加入量の変動予測あるいは早期把握と変動機構の解明,加入量変動に及ぼす餌料,海洋環境要因の解 明が要請されています。 限られた人員でこれらの諸要請に応えるためには,優先順位,年限を決めて取り組むなどこれまで以 上に計画的な対応が求められるとともに,中央水研の生物生態部,海洋生産部等基盤研究部門との連携 ,協力の強化をはじめ,関係する各都県及び大学等の試験研究機関との密接な連携が必要です。また, 分野によっては科学技術特別研究員制度等も積極的に活用していきたいと考えます。研究者が育つため には,魚種あるいは手法などに関する専門性を磨く機会が与えられるとともに,プロジェクト研究等を 通じて,学際的な研究を経験することが必要であり,そのような環境づくりを心がけたいと思います。 黒潮研究部は横浜庁舎から遠く離れて太平洋に面する高知市に置かれています。この研究拠点は南海 区水産研究所,そして,昭和42年に設置された南西海区水産研究所時代から引き継がれてきたもので す。独法化を機会にこれまで長年にわたり蓄積されてきた卵稚仔・プランクトンや底魚類等に関する膨 大かつ貴重な試資料をデータベースあるいは所在情報として整理し,今後の研究や所内外からの情報提 供の要請に役立てる必要があります。今春,土佐湾ではマシラスが少しまとまって漁獲されるなど,資 源が減少した現在でも土佐湾は重要なマイワシの産卵場です。資源低水準期のマイワシの産卵生態や幼 稚魚分布,餌料条件等を継続的に調査する中で資源増大への契機を探るなど,研究フィールドに近い場 所に拠点があるという利点をこれからも十分生かした研究を進めたいと考えます。また,底魚類やシラ スに関する地元の研究要望等にも耳を傾ける必要があります。 高知には,こたか丸(60トン)が配置されていますが,こたか丸は小さいながら科学魚探を備え, 各種ネット類の曳網から水深800mまでの底びき網調査もこなす能力のある調査船です。広域・外洋 調査は大型船に頼らざるを得ませんが,その他の沿岸調査においてはこたか丸が引き続き有力な戦力と なることに変わりはありません。そのほか,他の部と少し違うのは同じ部内に資源関係の2研究室と海 洋関係の2研究室が同居している点です。この利点を生かすべく,目下,マアジのプロジェクト研究に 取り組む中で資源,海洋の両部門の連携,協力を実践しているところです。 (黒潮研究部長) Takahiko Irie |