中央水研ニュースNo.26(2001(H13).7発行)掲載

【独法化を迎えて】
経営経済部の中期的研究方針
平尾正之

 経営経済部は,資源管理型漁業の進展と国内外で適正な漁業管理が営まれるための条件解明に期待が 寄せられる中で,「我が国漁業の発展に資するための資源管理型漁業の推進に関する基盤的研究を行う 。また,安定した漁業生産及び経営の体質強化に係わる研究を推進する。漁業構造の変化,水産物輸出 入の動向,地域漁業構造及び国際的な漁業動向について社会経済的解析を推進する。」目的で平成元年 に設置された。
 平成7年12月1日の1次レビューにおいて,経営経済部は現状と将来を見据えて,「経営経済部へ の研究ニーズは,国内問題と国際問題に分けることができるが,国際対応研究が一段と増加し現在の研 究体制では対応が困難となってきている。そのため早急に国際問題対応研究者の育成,研究課題の絞り 込みを行い,将来には研究室体制の見直しも行いたい。」とのビジョンを持ってレビューに臨んだ。そ の後,2次,3次のレビューを経て,経営経済関連の研究推進についてレビュー委員から指摘されたこ とは以下の2点であった。第1点は,将来の水産業の動向を素描できる研究を展開する必要があること ,第2点は,漁業経営の健全化に資する研究を期待するということであった。経営経済部ではこれらの 指摘を,プライオリティの高い研究として受け止め,以上の要件を満たすための新たな研究体制は如何 にあるべきかが検討され,平成10年10月1日に組織の見直しが行われた。
 その際,レビューで求められた研究の重点化として,水産業の動向を素描(グランドデザイン)する ことに関しては,水産物世界需給モデルの開発と漁業の基地としての市町村の類型化等の研究を推進し ,将来動向の把握に関する研究が推進された。レビューにおけるもう一つの指摘事項である経営健全化 のための研究は,漁業経営研究室が中心となり実施してきたが,これまでの課題数も少ないこともあり ,今後の研究において特に重点化が必要な研究分野となっている。  経営経済部は,4月の独法化によって中期計画の大課題として「水産業の安定的経営と漁業地域の活 性化のための研究」に従事することとなった。特に,「水産物の国内及び国際的な需給・消費・流通構 造の解明と地域振興計画手法の開発」を重点に研究を組み立てることとしている。その主要な内容は, 「国内水産物供給及び漁業経営の安定化を図るため,国際的商材の価格決定要因の解明,漁船等の資本 投入の経済性評価,及び生産基盤・生活環境等の地域資源の経済性評価により流通及び漁業経営の改善 条件を解明するとともに,漁業地域の活性化のために有効な指標及び地域の振興手法を開発する。」こ とである。いわば,平成10年度の組織再編において据えた課題を引き続き研究することになったので ある。
 これらの研究を実施するために,経営経済部で経常的には下記の4課題を実施する。
(1) まぐろ類の安定的な漁獲量と価格水準の解明(適正漁獲量を一定の幅を持って推定し,価格モデル を開発するため,クロマグロ,ミナミマグロ,メバチを中心に海域別に漁獲量変動の相関とラグを解明 する。)
(2) 沖合底びき網漁業における資本投資の経済性評価手法の解明(資本投資の経済評価手法を解明し, 漁船建造にあたっての意志決定情報を構築するため,トン数規模別の資本装備状況,漁獲状況などを時 系列的に把握し,一般的なトレンドを解明する。)
(3) 産地集出荷拠点の効率的配置モデルの開発(IT化を含む物流技術や流通システムの革新に対応した 産地市場の育成に寄与するため,物流計画を作成する上で重要となる事項を網羅した産地市場一次デー タベースを構築する。)
(4) 水産業活力を診断するための「水産業活力指標」の開発(水産業活力指標を新たに構築し水産業活 力診断に資するため,「水産業活力指標」を構成する複数の評価項目を理論的に定式化する。)

 さらに,経営経済部では,プロジェクト研究課題として,
水産加工残滓回収システムの開発に関する研究,
水産物貿易自由化や漁業補助金政策が資源に与える影響評価に関する研究,
沿岸整備事業における簡便かつローコストな事前・事後評価手法に関する研究,
都市と漁村の連携による漁村活性化手法の開発に関する研究,にも取り組むこととしている。

また,社会科学分野として本年より新たに取り組むことになった,特定研究開発促進事業「遊漁と資 源管理に関する研究」は,神奈川県水産総合研究所,秋田県水産振興センター,福井県水産試験場と協 力しつつ研究を進めている。これは,経営経済部が各県と積極的に連携し,漁業現場とより密接に関連 を持ちながら研究活動を行おうとするものであり,水産業に役立つ研究の実施という部の中期的研究方 針に対応するものである。

(経営経済部長)


Masayuki Hirao
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