中央水研ニュースNo.26(2001(H13).7発行)掲載

【独法化を迎えて】
加工流通研究の役割と進め方
-生物生産から食卓まで貫く加工流通研究の推進-
福田 裕

消費者ニーズへの対応で食料供給と水産業を支えてきた加工流通技術
 我国水産業は転換期を迎え,新たな枠組みが「水産基本政策大綱(平成11年12月公表)」で示されま した。その重要なポイントは「消費者の視点の重視」です。その視点に基づいた「水産食料の安定的供 給体制の確立」が加工流通研究の基盤となる政策です。農産物では幾世紀を経て品種の改良が続けられ ,消費者ニーズに応えてきた歴史があります。一方,水産生物は主に海洋で生産され,開放系なので人 為的な品種改良には制約があり,そのため加工流通の技術で消費者のニーズに対応し,需要を開拓して きました。カニ肉テクスチャーのカマボコが楽しめたり,遠洋マグロの刺身を美味しく頂けるのは,そ の一例です。従って,水産食品の加工流通技術の高度化なくして水産食料の安定供給及び水産業の振興 はあり得ないのです。生物生産から食卓までを見通して加工流通研究を推進する必要性がここにありま す。

加工流通研究推進のキーワード
 平成13年度からスタートした独立行政法人水産総合研究センターの加工流通研究の目標は「消費者ニ ーズに対応した水産物供給の確保のための推進」です。この方針に基づき,加工流通部では重点課題を 三つのキーワードで整理し研究を進めることとしました。
1.安定供給
 海洋の漁業生産量は限界に達し,一方で世界人口は爆発的に増加してます。食料の安定供給を図るた め,限りある水産資源からタンパク質等を効果的に回収・利用する技術,未・低利用資源を食品や新素 材に転換する技術,廃棄物を再利用する技術等の開発が地球規模で必要とされています。具体的な課題 として,未・低利用水産資源から機能性ペプチド及び有用酵素の生産技術の開発,廃棄水産物中コラー ゲンの有効利用技術開発,またすり身の品質改良技術の開発等の研究を推進します。
2.品質
 水産業振興と食料の安定供給をハーモナイズさせるには,養殖魚を含め近海資源の高品質流通技術の 開発,また近海資源の高品質加工技術開発による海外水産物との住み分けが重要です。また,国際貿易 の拡大に伴う品質の規格化(CODEX対応等)及び水産食品の市場流通のスピードアップも必要です。具 体的な課題として,生食用魚肉テクスチャーの評価技術開発,魚肉加工品の着色機構の解明,微量元素 の機能性解明,γ線照射の品質への影響解明等の研究を推進します。
3.安心・安全
 水産食品は品質の劣化や微生物汚染による腐敗が非常に速く,また,プランクトン毒等に汚染され易 い特性をもっています。安心安全な食品を求める消費者の要求に応えるために,水産食品の品質劣化, 腐敗,及び食中毒等の危害要因の解明,危害要因の検知技術開発,危害要因の除去技術開発(HACCP対応 等)が不可欠です。具体的研究として,食中毒細菌の迅速検出技術の開発,魚介毒の蓄積と排出機構の 解明,微生物的品質劣化機構の解明等の研究を推進します。

連携協力のより一層の推進
 我国水産加工産業は年間生産金額約4兆円と云う大きな産業であり,しかも全国各地に分布し地域経 済と雇用に大きな貢献をしています。しかし,その約86%が29人以下の零細な業態であるため,都 道府県試験研究機関と水産庁中央水産研究所利用加工関係部等との連携協力による技術的支援体制は, 水産加工産業の発展に大きな役割を果たしてきました。平成13年度からは,この機能をより一層充実 させるため,水産利用加工関係試験研究推進会議のもとに専門的な部会を設けるなどして都道府県試験 研究機関,民間,大学との連携協力を強化した組織に刷新し,効率的な運営を図るよう努めます。

(加工流通部長)


Yutaka Fukuda
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