中央水研ニュースNo.26(2001(H13).7発行)掲載

【独法化を迎えて】
利用化学部の紹介と進む方向
池田和夫

 本年4月,水産庁中央水産研究所は独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所として新たな 道を歩み始めました。と言いましても,現実には平成10年10月にほぼ先取りする形で機構改革を行 い,本格的な歩みを始めたというのが正しいのかも知れません。
 利用化学部は「水産食品や水産生物資源を化学の目を通して見ましょう」という考え方を持った部で す。これを,向こう5年間というスパンで俯瞰しますと「中期計画」に掲げられている次の内容となり ます。

低・未利用資源活用及び水産生物成分の有用機能解明と利用技術の開発
(ア)魚介藻類中の機能成分の探索とその特性の評価
 食品循環資源の再利用等の促進に関する法律(平成12年法律第116号)等に対応し,限られた水 産資源を多方面かつ高度に利用するため,水産生物及び加工残滓等の成分を探索し,有用成分の構造と 機能の発現機構を解明し,医薬品素材等としての利用技術を開発する。また,微生物機能等を利用した 海藻の餌料化技術等を開発する。
(イ)健全な食生活構築のための食品成分の生体調節機能の解明と利用
 水産食品の有用機能を解明し,食生活や環境の変化及び高齢化に伴い増加傾向にある生活習慣病等の 予防等に活用するため,有効な魚介藻類の多糖類や脂肪酸等を探索し,有用成分の構造と機能の発現機 構を解明する。さらに,これらを微生物機能等で変換したものを食品素材として利用する技術を開発す る。

 聞き慣れない言葉はありますが,(ア)は主として外見的に形として現れる「物」にする技術開発研究 です。一方,(イ)は基本的には外見は変化せず,主として情報や知識の集積に類する解明的基礎研究と 言うことになります(その後に有効成分だけを取り出して利用することはあり得ます)。これら2者に 互いに密接な関連があることは,言うまでもありません。
 ここで,付加価値という側面から見ますと,(ア)は付加価値を目に見える「物」としてとらえる場合 で,例えば,これまで利用されてこなかった,又は利用出来なかった水産生物資源を利用可能な「物」 に変換する技術開発のことです。顧みられることのない物から有用な「物」を取り出し利用することは ,ゴミの減量(廃棄エネルギーの減少)だけでなく「物」の持つ効能・効果で人に有効に還元されるこ とになります。
 一方,(イ)は,例えば「この水産食品は体にいい」というように,確たる証拠は無いの ですが,漠然とした評判はあると言う食品を調べてみると,「この水産食品の○○○成分は高脂血症を 防ぐ働きがある」とか「△△△と□□□を一緒に食べるとその働きは相乗的に有効となる」と言うよう に,目には見えない機能と言う形で内包されていた情報が付加価値として表出することになります。こ れまでは(ア)のように「形ある物」の開発に主眼が置かれていましたが,最近では,この様な「正確か つ深化した情報」は,決して非力でないことが,いろいろな場面で現れてきています。ある昼のテレビ 番組で「◇◇◇はこの様な理由で☆☆☆予防に良い」と実験結果付きで放送されると,その日の夕方に は,スーパーで売り切れが続出し,晩には食卓に並ぶこととなるのです。
 これまでの「付加価値」が,食感が良くなる,調理しやすい,使って便利,と言うように「物」とし て見える(仮にこれを外的付加価値と名付けましょう)のに対し,確かな情報付きの食品は,外観的な 変化はないのですが,その食品に対する評価を劇的に変化させることとなり,消費の動向にも大きな影 響を及ぼすことになります。この様に試験研究に基づく正確な情報は新規の「物」の開発以上の経済的 ・栄養学的効果を持つ場合が多々あるわけです(仮にこれを内的付加価値と名付けましょう)。利用化 学部はこの密接な関連を持つ二足の草鞋を(交互に,又は,片足ずつに)履いて行こうと考えています。

(利用化学部長)


Kazuo Ikeda
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