中央水研ニュースNo.26(2001(H13).7発行)掲載

【独法化を迎えて】
内水面利用研究を考える
梅澤 敏

 内水面利用部は長野県上田市の千曲川河畔に位置し,内水面漁業を含めた人間の活動と生態系保全の 調和点を解明し,内水面漁業の持続的な利用技術の開発を目標として研究を進めている。その歴史は古 く,昭和16年に農林省水産試験場上田分室として設置され,淡水区水産研究所上田支所,東海区水産 研究所上田庁舎を経て現在に至っている。構成は,魚類生態研究室(3名),漁場環境研究室(4名) ,漁場管理研究室(3名)及び総務分室(2名)から成り,沖縄から北海道に至る全国の内水面に関す る調査研究を行っている。また,科学技術特別研究員(1名),重点研究支援協力員(1名)が配属さ れ,共同で研究を進めている。
 それぞれの研究室の研究内容は以下のようになっている。

魚類生態研究室
 淡水魚に関する生態研究を中心として,生物間の相互作用や生物多様性の維持機構の解明とその保全 技術の開発などに取り組んでいる。具体的にはコクチバス等の外来魚の生態研究,メダカ等希少魚の生 態特性の解明,水田や農業水路が魚類の多様性に与える影響の解明等について,野外調査から室内実験 ,さらには分子生物学的手法等を導入して研究に取り組んでいる。

漁場環境研究室
 水域の汚染や河川改修等の物理的,化学的環境要因の変化が,水生生物の生理や生態に与える影響に ついて調査研究し,水生生物の多様性保全技術の開発を環境面から取り組んでいる。具体的には内分泌 かく乱物質が淡水魚の繁殖形質に及ぼす影響,ウグイ産卵場環境に対する生理的応答機構の解明,河川 周辺の環境が河川の微小生物に与える影響等について,生態学的及び生理学的手法により研究を進めて いる。

漁場管理研究室
 遊漁も含めた内水面漁業のための資源管理,水産生物の適正放流,漁場における基礎生産などの研究 を通して漁場管理技術の開発に取り組んでいる。具体的にはアユの行動特性評価及びその遺伝性の検討 ,アユ漁場における付着藻類群落の生産構造の解明,コクチバス卵や仔稚魚の生残様式の解明とその繁 殖抑制技術への応用,アユの種苗放流が天然集団の再生産へ与える影響の評価等について,河川湖沼に おける漁場管理のための研究を進めている。

 わが国において河川湖沼などの内水面は,漁業の場や農業など種々の用水供給源であると同時に,遊 漁を中心としたリクレーションの場や親水空間として,様々な用途に利用されている。しかし,海面と 違い内水面は水系ごとに細かく分断され,河川改修やダム建設等の治水事業,工場排水や生活排水など による汚染等,人間の経済活動による影響を強く受け,水生生物にとっての生息環境は年々悪化の一途 である。近年河川改修では三面貼りにせず,自然を残した改修方法が検討されているが,まだほんの一 部である。内水面漁業は海面漁業と同様,生態系の生産力に依存している産業であるため,このままで は存亡の危機にあるといえる。
 内水面漁業生産の現状(平成11年度)は,漁業が生産量13万トン,生産額622億円で,生産量 は減少傾向であるが,生産額はほぼ横這いとなっている。魚種はアユ,遡河性さけ・ます類が中心で, これらの減少が生産量の減少を招いている。養殖業では生産量1万2千トン,生産額670億円で,生 産量,生産額とも減少傾向にある。魚種はウナギ,ます類,コイ,アユなどが中心で,コイ,アユ,テ ィラピアが減少している。
 現在の内水面漁業を含めた内水面の抱える問題は,
アユ冷水病によるアユの大量死,
外来魚(ブラックバス,ブルーギル等)による従来の生態系の破壊,
カワウの食害による漁業被害,
メダカ,タナゴ類等希少生物の保護及び環境保全
等が大きく取り上げられている。内水面利用部としては,これ らの問題に対応するとともに,基礎的,基盤的研究を続ける必要がある。少ない構成員でこれらの課題 に対応するには,室間の壁を低くし,プロジェクト研究はもちろんのこと,経常研究についてもできる だけ協力しあい,一つの課題に対しても多方面から研究を進めることにより効率的に研究を進めること が重要と考えている。さらに,中央水研をはじめとする他部,他水研との共同研究を行うことも必要で ある。

(内水面利用部長)


Satoshi Umezawa
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