中央水研ニュースNo.26(2001(H13).7発行)掲載
【独法化を迎えて】 類生産の根幹をなす海洋環境の調査研究
友定 彰
海洋生産部では下図に示されるように,魚類にとっての環境である餌環境まで含めた物理および化学 環境から動物プランクトンまでを一連の現象としてとらえる調査研究と,人類が作り出した放射能の調 査研究を行う。海洋生産部4研究室ともに文部科学省,環境省など他省のプログラムに積極的に参加す るとともに,技会プロジェクト,交付金経常研究に積極的に取り組む。海洋生産部で取り組んでいるの は平成11年度から始めた御前崎沖の定線における物理・化学環境から餌環境の長期モニタリングであ る。一般に,モニタリング調査は1年や2年で特性が解明されるような調査研究ではない。モニタリン グを継続している途中において新たな知見が得られることは勿論であるが,10年20年と続けること によって初めて成果が出るものである。大西洋におけるBATS(バミューダ沖),太平洋のHOT(ハワイ 沖),PaPa(カナダ沖),北水研が継続しているAラインなどは長期間のデータが得られているために, 貴重なデータとなっている。御前崎沖モニタリング定線がこれらに匹敵する定線となるように,部員一 同で調査研究に邁進する。平成13年3月12日に行われた海洋生産部の研究評価部会で,外部から来 ていただいた東京大学の古谷教授から「挨拶は短く,モニタリングは長く」と我々の期待を代弁する発 言をいただいた。このような地道な調査研究こそが水産研究の将来を担う極めて重要な調査研究である 。 変動機構研究室が窓口となる海洋観測資料刊行委員会は,水研・水試の水温・塩分観測データを集め て1年毎に海洋観測資料集を発行してきた。既刊の資料集は1963年までさかのぼることができ,既 に電子化されていてパソコンで取り扱えるようになっている。しかし,それ以前の観測データは戦前分 を含めて段ボール85箱も保管されていて,戦中戦後のデータもこの中に含まれている。紙質も現在ほ ど良いとは言えず,このまま放置しておくと諸先輩方が苦労して収集した海洋観測データが日の目を見 ないことになってしまう。近い将来,何年間かかけて,これらのデータを電子化することを目指す。そ のためには,人手も資金も必要であり,機会がある毎に電子化するチャンスを探す。すべてのデータが 電子化されれば,概ね大正3年(1914年)から存在するデータが電子化されることになる。すべて 電子化されても100年に満たないが,90年前後のデータを見ることによって,地球環境変化をとら えることができるものと期待される。 栄養塩,植物プランクトン,動物プランクトンなど,分析値を出すまでに時間を要するデータは個人 が所有している場合が多い。5年程度以上経過したデータは積極的に公開して,適切な管理者の下で管 理しておくほうがよい。栄養塩類,植物プランクトンのデータセットを環境省の地球環境関連予算で物 質循環研が主体となって収集する予定である。今後は時系列上でデータを解析する機会が増えることが 予想されるので,新たなデータを取得すると同時に過去のデータを掘り起こすことが重要である。 平成5年に,旧ソ連及びロシアが昭和36年以降同年まで,我が国周辺海域である日本海,オホーツ ク海及びカムチャツカ半島東沖太平洋に放射性廃棄物を投棄していたことが明らかになった。この内, 固体廃棄物容器の腐食による放射性物質の長期にわたる海洋への漏出により,海産生物は餌あるいは直 接海水によって汚染される可能性を持っている。増大する内外の原子力施設における事故の危険性と相 まって,日本周辺の海洋は放射能汚染という時限爆弾を抱えている状況にあるといえる。海産生物・海 底泥の放射能汚染レベルを恒常的に把握して安全性を確認し続ける現行の調査体制を維持することは, 先のJCOによる臨界事故のような不測の事態への万全の備えとなるものである。 (海洋生産部長)
Akira Tomosada |