中央水産研究所
中央水研ニュースNo.26(2001(H13).7発行)掲載

【独法化を迎えて】
独法化を迎えての生物機能部の研究紹介
和田克彦

 生物機能部は,全国的視野から海区水産研究所の資源の共通基盤的・先導的研究を推進する目的で, 平成元年の組織改編で発足した。法人化後も組織はこれまでどおり分子生物,細胞生物,生物特性の 3研究室体制で,水産総合研究センターの掲げる中期目標・中期計画に基づいて研究を推進する。即 ち6項目にわたる中期目標のうち主として「水産生物の機能の解明及び積極的な資源造成と養殖技術 の高度化」を達成するため,中期計画の「水産生物の機能及び遺伝的特性の解明と利用技術の開発」 を中心とした研究課題を分担して推進する。また,細胞培養やDNA等の先端的研究施設や専門的知 識等の研究資源を生かして,プロジェクト研究や種々の競争的資金により中期計画の達成に向け基礎 的先導的研究を行う。
 詳細な研究内容は紙面の都合上割愛させていただくが,まず各研究室の紹介を兼ねて平成13年度 現在の経常研究の計画概要を紹介する。

分子生物研究室
 二枚貝は幼生,稚貝から成貝へ,環境の変動に巧みに適応し,成長・成熟する。この過程で,どの 様な生理機能が働いているのかは,充分には明らかでない。資源量の減少,大量へい死,環境汚染な どの問題が起こった場合,貝の体内で今何が起こっているのかがわかれば,より正確に事態を把握し 対策を講じることもできる筈だが,残念ながらまだ不充分である。貝の体内での生理機能の解明の一 つの方法として,生理機能調節の中心となる器官での環境変動に伴う遺伝子発現の変化から,環境適 応に重要な生理活性物質などの遺伝子を明らかにし,それを糸口に解明することが考えられる。そこ でマガキをモデルとして,神経機能と内分泌機能を合わせ持つ内臓神経節に着目し,遺伝子発現動態 の解析手法の開発に取り組んでいきたい。

細胞生物研究室
 DNA多型を利用した資源研究には種判別,系群識別,親仔識別,系統解析,天然集団の遺伝的多 様性の維持に関する研究などがあり,研究の目的によって様々な分析手法やDNAマーカー(標識) が必要となる。これらの研究を効率的に推進するための基礎的な検討を,クロソイやいか類をモデル に行っていく。まず,新たなDNA標識の探索として,主としてクロソイのマイクロサテライト領域 やいか類のmtDNAについてPCRプライマーを多数得るための手法を開発する。さらに,鱗や骨 などDNAの含有量が少ない硬組織からの抽出法の検討を行い,胃内容物の種判別を硬組織に広げて ,食性調査の強力な手段とする。これらの情報を利用して,標識の特性や目的に対する有効性を比較 検討していきたい。

生物特性研究室
 鱗を含めた魚類の骨組織は,種の分類をしたり,あるいは年齢査定を行ったりする上で有用であり ,資源管理の基礎となる生物学的特徴を有している。したがって,骨組織がどのように形成,維持さ れているかを理解することは,骨格を標識形質として利用する上で水産学上重要であるとともに,し ばしば天然水域で問題となる骨格異常と環境汚染物質の関係を推定したりする上でも重要である。し かし魚類では細胞レベルでの骨組織の形成や代謝の機構はほとんど明らかになっていない。そこで, 魚類から骨代謝に関与する細胞を分離・培養し,ホルモン等生理活性物質の影響をin vitroで解析し たり,それらの物質が実際の魚体内で骨代謝の調節にどう関わっているか等を解析し,天然の環境要 因が仔稚魚の骨形成や骨代謝に与える影響を解明していく。

 以上の経常研究の他,現在プロジェクト研究課題としては以下のようなものがあり,他の水研と連 携しながら研究を進めている。
マガキの成長・糖代謝機能の解明,
魚類における温度耐性関連遺伝子の発現特性の解析,
アワビ類の生殖器官形成過程に及ぼす有機スズ化合物の影響の解明,
アユ種苗の健苗性の評価,
種特異的分子マーカーによる魚卵判別技術の開発。

 海区共通基盤研究という非常に広い範囲の分野の業務は,多くのニーズの中から,現在の生物機能 部の持てる研究資源で出来ることを選ぶことから始まる。独立行政法人化を機会に,これまで以上に ニーズの探索や海区水研との連携を念頭に研究を進めていきたい。

(生物機能部長)


Katsuhiko Wada
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