中央水研ニュースNo.26(2001(H13).7発行)掲載

【独法化を迎えて】
生物生態部のこれからの研究方針
渡辺 洋

 生物生態部の研究方針は水産資源の持続的利用のための調査研究の高度化であり,またそのことは共 通基盤的研究としての位置付けを担っていることを意味している。その中で特に水産資源の加入量決定 機構の解明と,水産資源の管理手法の高度化の二つが主要な研究テーマである。
 前者の研究内容は,モデル海域の代表的な水産資源について加入量を決定する生活史段階を特定する とともに,加入量変動と成長,生残等の生物学的要因及び海洋構造等の物理的環境要因との関係を解析 し,その成果をもとに新規加入量を決定する機構を解明するという取り組みである。課題としては「餌 生物環境に注目した浮魚類新規加入量変動様式の把握」と「浮魚類の資源水準変動に伴う産卵生態変動 要因の把握」の二つであり,どちらも生物生態研究室が対応している。黒潮移行域における小型浮魚類 (マイワシ,カタクチイワシ,サバ類)仔稚魚を含む複数種の餌料の競合と成長・生産との関係を解析 することにより,加入量決定に影響する要因の抽出を試みることと,産卵調査により得られた小型浮魚 類(上記と同じ種)の産卵量長期時系列データを整理し,気象・海況等の変動との因果関係について解 析するとともに,産卵量変動の鍵となる環境要因を抽出するという研究である。
 一方,これらの課題とは別にこのテーマではプロジェクト研究の4課題が含まれている。我が国周辺 海域における漁業資源の変動予測技術の開発というテーマで太平洋においては,生物生態研究室が「サ ンマの初期生活史における生残過程の解明」としてサンマの水塊追跡による同一仔稚魚群の追跡,成長 生残過程の解析により,摂餌・生残過程の定量的把握,野外でのエネルギー収支推定及び成長生残過程 のパラメーター取得等を行っている。また,数理生態研究室が「サンマ個体群総合解析及び個体群動態 モデルの開発」という課題でサンマ資源の変動と環境要因の関わりを,過去の資料から分析した結果を もとに,サンマの死亡・成長・再生産過程を数式化し,個体群動態モデルを構築するという大きな問題 に立ち向かっている。東シナ海においては,資源管理研究室が「マアジの産卵特性の解明」でマアジの 個体ごとの産卵能力に関与する要因を探索するとともに,親魚全体の産卵能力を推定し,その産卵能力 を各年や年級間で比較して変動特性を明らかにすること,また,生物生態研究室が「耳石精密分析によ るマアジ回遊履歴の解析」の課題で耳石含有微量元素分析,体長と耳石径関係の確立及び日周輪解析を 行い,系群判別に最適な微量元素の分析方法,日周輪読み取り手法等を確立することに取り組んでおり ,いずれも研究手法の開発を目指している。
 後者の管理手法の高度化の研究内容は,生物情報及びデータに不確実性が高い場合にも対応できる資 源評価・管理手法を開発することと,複数種動態モデルを開発して,複数種一括管理に取り組むことを 目的としている。課題としては資源管理研究室が「加入管理のための資源評価法および管理基準の開発 」で,TAC(漁獲可能量)対象種を中心に現在のVPA(コホート解析)などの資源評価手法と加入 管理基準のレビュー及び資源評価に及ぼす生物特性の影響評価を行っている。また,数理生態研究室の 課題で「複数種を対象とした動態モデルの構築」においては,多くの数理モデルおよびモデル用ソフト の中から有力なものを幾つか選び,構造を解析するとともにシミュレーション等を行って動態モデルの 方向性を具体的に決定することを目標に研究を進めている。
 また,冒頭に挙げた位置付けとは別に,水域生態系の構造・機能及び漁場環境の動態の解明とその管 理・保全技術の開発のテーマの中で,資源管理研究室がプロジェクト研究として「浮魚類の加入量早期 把握法の確立と資源量評価への応用」という課題に取り組んでいる。GIS(地理情報システム)を用 いて表中層トロールによる稚仔分布量と水温,動物プランクトンとの関連及び漁場への加入に影響を及 ぼす海洋データを検討することを目的としている。この他に課題としては挙げていないが,黒潮研究部 の連携支援として資源管理研究室及び生物生態研究室がマサバ太平洋系群の資源評価,漁況予測,産卵 調査等の業務を担当している。
 生物生態部の研究は共通基盤的研究と位置付けられているため,あらゆる魚種及び海域に対応してい ることが特徴であり,それを基盤に9課題において研究手法の開発と高度化を目指して取り組んでいる。

(生物生態部長)


You Watanabe
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