中央水研ニュースNo.23(1999(H12).1発行)掲載
【情報の発信と交流・研究施設の紹介】
ICES年次科学総会に参加して
岸田 達
資源管理において、予防的措置(precautionary approach)という概念が提唱されたのは1992年 にブラジルで開かれた国連環境開発会議のリオ宣言からである。責任ある漁業の推進が唱えられる中、 我が国においてもこの分野ヘの対応が迫られている。こういう状況の中、筆者はこの方面で先駆的な研 究を進めているICES(国際海洋開発理事会)の年次科学総会に参加し情報収集をする機会を得、9 月にポルトガルのカスカイスへ出張した。
ICESについて:ICESは1902年に設立された国際的な海洋研究組織で、現在の加盟国はヨ
ーロッパと北アメリカの19ケ国である。傘下の研究者は1500人いて、計画遂行のための作業部会
、勉強部会、立案部会、助言部会、さらに研究集会などは常時100を越えている。
予防的措置について:TAC制度のもとで資源管理を行うには管理基準(Reference Points)という
ものを定め、それに沿って漁獲可能量が算定される。管理基準は対象資源の特性をもとに漁獲死亡係数
Fの大きさあるいは資源量Bなどで決められる。説明は省くがF、Bに添え字を付けてFMSY,FMAX,
F0.1,F30%SPR,Fmed,BMSRなどいろいろ提唱されている。ICESで使われているMBAL(最
小生物許容水準)も管理基準の一つである。管理基準には、管理の目標とすべき基準TRPs(Target RPs)
と、これを越えると資源が崩壊するという限界を示す基準LRPs(Limit RPs)がある。予防的措置と
は資源評価の不確実性や加入量変動を考慮し、漁獲死亡係数や資源量が限界の基準LRPsを越えない
よう,資源にとって安全な側に新たな管理基準を設けようというもので、そのための候補(例えば
F30%SPR,Fmedなど)や、新しい管理基準(Blossなど)が検討されている。今年の年次科学総会の
テーマ別会含にも予防的措置に関するものがあり、報告書は13編提出されていた(ご覧になりたい方
は連絡を下さい)。全体的な印象として、予防的措置の導入により資源崩壊の危険は避けなくてはなら
ないものの、生物のことだけ考えて基準を設定すれぱ良いのではなく,社会・経済的目標(産業の存続
,雇用の確保など)の達成とのバランスを考慮に入れなくてはならないという認識が比較的広く存在し
ているように見受けられた。 ボルトガルについて:ユーラシア大陸の最西端に位置する小さな国であるが,ちょうど500年前に はバスコ・ダ・ガマがインド航路を発見し,香辛料貿易で栄えた国である(落ち着いた街並みを見せる この国のどこにそのような進取の気性が隠されているのか不思議な気がした。カスカイスはリスボン近 郊の大西洋に面した保養地で(写真)、白と黒の石を敷き詰めた歩道や裏通り,そこに椅子やテーブル を並べて営業するレストランや喫茶店が印象的であった。 (資源管理研究官)
Tatsu Kishida |