中央水研ニュースNo.23(1999(H12).1発行)掲載
【研究情報】
第1回アユ冷水病対策研究会報告
杉山元彦
アユ冷水病はCytophaga psychrophira(現在、Flabobacterium psychrophirusに分類することが提唱 されている)と呼ばれるバクテリアを原因菌とする細菌感染症の一種である。 昭和62年に養殖場のアユで冷水病の発生が病原菌の分離により確認されて以来、その被害は全国的 な広がりを見せ、平成9年9月に水産庁が実施したアンケート調査の結果、平成8年には38都府県で 冷水病の被害が広がっていることが明らかとなった。また、これに加えて、オイカワ等の在来の魚種か らも冷水病菌が分離されたとする研究報告が出されるなど、その問題は深刻化しつつある。 このため、平成10年5月に開催した内水面(中央ブロック)水産業関係試験研究推進会議で、緊急 課題としてこの冷水病対策に関する協議を行った結果、関係機関の研究努力を結集して問題解決に当た るために、国の機関が主体的に参加する研究体制の必要性が確認された。これを受けて、関係機関の間 で協議の結果、水産庁資源生産推進部研究指導課、栽培養殖課魚類防疫室等の行政部局、中央水産研究 所、養殖研究所、関係都府県の試験研究機関で組織する「アユ冷水病対策研究会」(図1)を発足させ ることとなった。また、この問題の解決に向けて総合的に対応するため、窓口を一本化する。ことにな り、内水面利用部が研究会の事務局として、その任に当たることになった。 その第1回目のアユ冷水病対策研究会が、平成10年8月24日及び25日の両日にわたって、中央 水産研究所横浜庁舎で開催された。会議には、全国35都府県の水産試験研究機関、東京大学、日本水 産資源保護協会、全国内水面漁業協同組合連合会、水産庁研究指導課、同栽培養殖課、魚類防疫室、養 殖研究所及び中央水産研究所から、計43機関、65名の参加があった。 まず、24日には全体会議のあと、①発生状況及び影響調査分科会(第1分科会)、②予防・治療対 策研究分科会(第2分科会)及び③防疫対策検討分科会(第3分科会)の3分科会に分かれ、それぞれ 担当の検討課題について、研究課題の整理や選定、連携分担等を協議した。 その結果、第1分科会では、天然水域及び養殖場の疫学調査や種苗放流に伴う生態系への影響調査を 実施することになった。また、第2分科会では治療対策研究として、診断技術の開発や既承認水産用医 薬品の導入の検討、加温処理技術の向上等を、また、予防対策研究として病原菌を持ち込まない技術手 法の開発や消毒剤のスクリーニングのほか、ワクチンの開発に関する研究等を行うこととした。第3分 科会では種苗の取り扱いや輸送技術などの面から防疫対策を研究するほか、第1分科会や第2分科会で の成果を踏まえ、防疫対策を練ることとなった。 研究会2日目の25日には全体会議を再び開催し、分科会間の分担調整を行った。また、この研究会 の目的が、各機関の研究成果を全関係機関が共有することにより、アユ冷水病対策技術の全国的な平準 化及びそのレベルの向上を図ることを基本方針とすることを確認した。このため、概ね3年を目途に、 問題解決のための研究を実施するとともに、アユ年度にあわせた節目ごとに、その時点までの研究成果 をもとに、アユ冷水病対策のための暫定的な対策技術マニュアル「防疫対策申し合わせ事項」を作成す ることを決定した。 今回の研究会の決定を受けて、各分科会では現在、研究課題の分担調整や調査研究が精力的に進めら れているが、内水面利用部としては、内水面魚業に関する問題解決体制のパイロットケースとするべく 、今後とも各機関間の連携調整に努力を続けていきたいと考えている。 (内水面利用部長) Motohiko Sugiyama |