中央水産研究所
中央水研ニュースNo.6(平成5年3月発行)掲載

【研究情報】
食品が血管に与える影響を輪切り血管で評価する
浜野かおる

はじめに
 平成9年度の簡易生命表で死因別死亡確率を見てみると、 依然として3大疾病(ガン、脳血管疾患、 心疾患)によるものが多く、男女共約60%が 3大疾病によって亡くなっている。ガンで亡くなる率 は60歳代にピークを迎え、70歳代以降は脳血管 疾患(脳出血や脳梗塞など)および心疾患(心筋 梗塞など)すなわち血管の病気によって亡くなる率が 増加する。ここから考えると“血管の老化をい かに遅らせるか”ということが長生きするコツな のかもしれない。そして血管の老化と食生活は決し て無関係ではない。
 脳卒中モデル動物(SHRSPラット)を用いた 研究において、栄養によって血管の病気が予防で きることが実証されている 1)。血管の病気は薬で 血圧を調節することにより発症を抑制できるが、 高血圧になってからでも栄養を改善すれば脳卒中の 発生率の低下や寿命の延長が認められると報告さ れている。それはなぜか?原因の一つとして食事が 生体内の昇圧物質の産生量、あるいは昇圧物質受 容体の反応性に影響を与え、血管収縮機構に変化を もたらしていることが考えられる。多くの昇圧物 質が血管収縮物質であることを考えても血圧と 血管収縮とが密接に関係してことがわかる。そして血 管の老化は血管収縮機構に大きく影響する。
 “食生活で血管の老化速度が変化する”という 考えがこの研究の出発点である。直接血管収縮率を 測定することで食事による血管組織の変化を早い時期に 察知できるのではないかと考え、私たちは餌 料を変えて飼育したラットの血管収縮を、血管 収縮の作用物質であるノルエピネフリンやアンギオテ ンシンを用いて比較する実験を行った。その実験手法と 結果を簡単に紹介する。

ラット動脈輪切状片収縮能による評価法
 SHRSPラット雌4週令を24匹購入し、 それらを4区にわけ表1に 示した餌料で2ケ月間飼育 した。マグロタンパク質は脱脂したものを用い ミルクカゼインと窒素含量をあわせ配合した。またそ れぞれコレステロール添加区を設けた。 表1の餌料で 2ケ月間飼育した後ラットを麻酔し肝動脈より できる限り採血後、迅速に胸部大動脈を取り出し 血管に付着している組織を慎重に取り除いてチューブ状の 透明な血管にした。血管を心臓側から4mmの 長さに切断し輸切状片としてその収縮過程を比較 した。測定には図1の ような装置を用いた。バッファー5mlで満たした槽内の フックに血管を取り付け、95%0 2/CO 2 ガスを弱く吹き込みながら血管に負荷をかけ、 生体内で血圧調節に重要な役割を果たしている 血管収縮薬ノルエピネフリン、アンギオテンシン I(アンギオテンシンIIの前駆物 質、それ自身に血管収縮作用はない。血管内皮細胞中の アンギオテンシン変換酵素ACEが作用する ことによりアンギオテンシンIからIIが作られる。) あるいはアンギオテンシンI(血管収縮物質) を低い濃度から槽内に添加していき、試薬を加えても それ以上収縮しなくなるところまで加え続ける 。収縮力はトランスデューサーおよびアンプを 介してレコーダーに記録する。図2が 血管収縮を記録したものである。収縮薬の濃度の常用対数 (X)と、その濃度に対応する測定値(Y)をXY平面上 に示してグラフを作る。それらはシグモイド曲線と なるのでその近似式を求め、動脈輪切状片の収縮 が最大収縮の50%となる収縮薬濃度の常用対数 (logEC50)を求める。 一個体のラットから調製した動脈輪切状片で ノルエピネフリン、アンギオテンシンI,IIの 3種類について反応を測定した場合、それぞれの 収縮薬に対するこの個体のlogEC50を 求めることができる。上記のような方法で測定した logEC50の各区における平均を示したものが 図3である。 コレステロール添加区においてタンパク質成分と してカゼインを加えた区とマグロ蛋白質を加えた 区ではアンギオテンシンIIによる収縮に変化が見られた。 これはアンギオテンシンIIによる血管収縮直接反応に 影響が出ていることを示している。2ケ月間餌料成分を 変えただけで血管の収縮反応に変化が見られることがわかる。 同時に実験開始時と終了時に血清コレステロール値 (血清中の総コレステロール量)、血管コレステロール値 (血管組織中の総コレステロール量)、血圧、 および体重を測定したところ、血管コレステ ロール値および血圧はいずれの区においても差は見られず、 血清コレステロール値および体重はコレステロール添加区が 高くなった。しかしながら両者とも餌に加えたタンパク質に よる違いは見られなかった。

魚タンパク質の効果
 魚肉タンパク質をタンパク源として飼育した SHRSPラットでは脳卒中の発生率が低下し 生存日数の延長が認められるという報告1)が あることを考え含わせると、さらに長期間同様に 飼育することにより血管収縮の反応性にさらに 顕著な変化が現れたのかもしれない。今回は SHRSPという特殊なラットを用いたが、 普通のラットを用い同様の試験により血管収縮に 影響が出るのか興味深い。現在厚生省認可を受け ている“血圧が高めの人に適した食品”の中には カゼイン酵素分解物、かつお節酵素分解物、 イワシ肉酵孝素分解物などが含まれている。 これらにはACE阻害作用が認められており、 ヒト臨床試験においても降圧効果が認められて いる2,3)。 マグロ脱脂蛋白質を用いた今回の我々の実験でも 2ヶ月問で血管に若干の差が現れてきている。 しかもACE活性に依存するアンギオテンシンIでの 反応ではなく血管に直接作用するアンギオテンシンIIの 反応に影響が見られる。魚の蛋白質には今まで 言われてきた以上の効果があるのかもしれない。 我々は食事を取らなくては生きていけない。 バランスを考えずに長期問食事を取り続けた場合、 老齢になった時の血管はどうなっているのだろうか?

最後に
 現在食品によって病気を予防するために 機能性食品への関心が高まっている。それらを紹介して いるテレビ番組も主婦の人気を集め好評だ。 ほんとに効くのかしら?と若干の疑いを持ちながらも 紹介された食品を食生活に取り入れる主婦も多い ことだろう。魚の高度不飽和脂肪酸であるEPAや DHAの効果が話題になってから久しいけれど、 魚タンパク質にも健康に良い効果があるようだ。 日本人が長生きなのはやっぱり魚のおかげかも。 魚を食べて長生きしましょう。

(生物機能部分子生物研究室)

参考文献
1)村上哲男,辻章夫,山本和夫,岡本耕造:栄食誌,45,129(1992)
2)菅井隆二,打和秀世,村上梅司,家森幸男:食品と開発,32,37(1997)
3)藤田裕之,安本良一,長谷川昌康,大嶋一徳:薬理と治療,25,2155(1997)


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