中央水研ニュースNo.22(1998(H10).12発行)掲載
【研究情報】
平成10年度水産利用加工研究推進全国会議の概要
西岡不二男
中央水産研究所の主催で標記の会議が6月3~5日の3日間、当研究所で行われた。参加した機関と人 数は64機関193名であり、以下のような概要であった。 主催者を代表して小川企画調整部長(所長代理)が挨拶した。当研究所の組織改編が10月に行われる 予定であり、それに伴う研究基本計画の改訂作業を現在行っている。関係するところを紹介すると、我々 の研究は水産加工業と漁業が車の両輪であるという原点に立ち、地球規模での食糧不足、国民の食に対す るニーズ、環境の汚染防止などを考慮した研究の課題化等がある。また、本会議での重要検討事項をHA CCP(危害分析重要管理点監視)にしたのは、消費者の食の安全性に対する関心の高さもさることなが ら、食品工場に精通する巧拙研究機関の連携なしに真のHACCPは生まれないと確信するので忌憚のな い意見を交換し、より実践的な結論を出してもらいたいと述べた。 次いで、行政を代表して中前水産加工課長が挨拶した。加工課は昨年10月に誕生したが、国連海洋法 批准問題、原料供給源問題、労働力問題、環境汚染問題、O-157問題、及びHACCPの導入問題など、水 産を取り巻く課題が多い中での船出であった。関係する課題の補助事業化を進めているものの、特にHA CCPは対象範囲が広く、漁船・市場・加工場の一環体制の構築なしには解決できない課題である。この 課題に取り組むのは時を得ていると自負しているので、官民学の強い連携の下に協力を願いたいと述べた。 平成10年度水産庁等利用加工関係事業及び情勢報告では食品流通局企業振興技術室、技術会議事務局 企画調査課、水産加工課、研究指導課研究調整班、及び海洋技術室先端技術班より、今年度予算の説明が なされ、環境保全の観点から加工残滓を少なくする技術開発や付加価値向上技術の開発を進めるための事 業が多く組み込まれていると報告された。 また、4場所協のメンバーである食品総合研究所と畜産試験場からは、食総研の平成9年度のレビュー で「食と健康の科学的解析の推進」を新たな重点研究領域にしたことと畜産試験場加工部の最近の研究概 要がそれぞれ説明された。 当研究室と都道府県から出された研究成果15課題は、平成9年度「研究成果情報」に掲載されること が承認された。 重要検討課題である「HACCPの現状と今後の取り組みは」については、当研究所加工流通が挨拶し た。 この課題は古くて新しいテーマである。1960年代のアメリカのアポロ計画において宇宙食を担当したバ ウマンが病原性細菌を宇宙に持ち込ませない食品製造システムを開発したことに端を発するが、平成8年 6月に岡山県邑久町で発生したので続いて大阪の堺市で起きたO-157による食中毒は、日本中を震撼さ せた。平成7年に食品衛生法を改正して日本版HACCPである「総合衛生管理製造過程」の承認制度を 施行した厚生省は直ちに食肉加工製品と乳及び乳製品を政令指定し、逐次指定業種を拡大するとした。本 テーマは過去に何回か議論してきたが、具体性に欠けていたとの意見が多かったので、関係する5人の人 に出席いただき総集編として行ったとの経緯説明があった。 総合衛生管理製造過程制度を定めた厚生省からは、従来食品衛生法と異なる点(7則12手順)を詳細 に説明し、9年には練り製品練り製品を指定し、さらに、清涼飲料水等にも拡大するとの説明があった。 企業を育成する立場にある農林水産省(食品流通局と水産庁)からはHACCP手法支援法を制定する と共に品質管理マニュアルの策定と品質管理指導者の育成を行うが、我が国の食文化を熟知したものにし たいと述べた。 指定された練り製品業界からは、モデルを示したものの、業界の大半が零細企業で、実行できる企業は 2割程度であるとの厳しい現状が述べられた。 また、研究機関からは、危害(HA)に指定した場合の根拠となるデータが極めて少ない等の報告があ った。 討論した結果、1)零細企業でも受け入れ可能な製造システムを確立しなければならないが、2)その ためには、病原性生物的危害が起こると指定する行程を極力少なくし、3)指定した場合には、その根拠 を明確にするための調査研究を国の研究機関と企業を指導する立場にある公立研究機関が連携を強めなが ら早急に進める必要があるとの結論を得た。 また、今後検討すべき事項として、そのための調査研究費が認められたときには、中央水研で研究体制 を積極的に組織化し、研究者ライアランスの構築を目指すとした。 品質評価部会と加工流通部会では公設研究機関、大学などから計49課題の報告があり、情報交換が活 発に行われた。 (加工流通部長)
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