中央水研ニュースNo.20(平成10年4月発行)掲載

【研究情報】
中国における淡水魚の流通と利用加工についての共同研究
金庭 正樹

 中国は今や世界一の漁業生産国であり、その生産 高の約半分が淡水魚である。中国各地で淡水魚の養 殖が盛んだが、これらの淡水魚はそのほとんどが活 魚として流通しており、その流通範囲は産地に近い 地域に限定され、また加工されるものは少ない。一 方、海水魚など活魚流通の難しい魚種については、 市場で売られているものを見てもその鮮度は活魚流 通の淡水魚に比べ著しく悪い。したがって淡水魚で も産地から遠い市場に流通させるためには、新たな 流通技術や加工技術の導入が必要になるものと思わ れる。そこで食糧安定供給の一方策として、この淡 水魚を加工して保存性を持たせた製品の開発が現在 検討されている。このような状況の下、国際農林水 産業研究センター(JIRCAS)では、昨年より上海水 産大学と中国の淡水魚利用のための共同研究を開始 した。中国の水産事情については過去に福田裕氏 (JIRCAS主任研究官)が中央水研ニュース(第11号) に書かれているので、そちらを参考にしていただき たい。今回、私は平成9年11月10日から12月 9日までの1ヵ月、JIRCASの短期派遣専門家として 上海水産大学食品学院中日合作研究室に滞在し、同 研究室のスタッフと共同研究を行った。
 上海水産大学は中国農業部に属する大学で、漁 業、食品等の水産系の学院(学科)のほか、文化系 の学科も有する。上海市の北東部に位置し、その敷 地内には東海水産研究所、近くには国際協カ事業団 の協力で設立された上海水産品加工技術開発セン ター等があり、大学一帯は中国における水産教育・ 研究の中心地となっている。食品学院は日本の大学 の食品学科に相当し、教育や研究の内容も水産物の 利用加工に関することが中心である。
 今回の滞在では、中国産淡水魚類の加工・流通技 術の向上のため、「中国産淡水魚介類の流通・貯蔵 過程における脂質成分変化とその制御方法の検討」 と題する研究を行った。具体的には中国産淡水魚 10種の脂質特性を調べ、うち1種の魚肉を貯蔵し、 貯蔵中の脂質の変化について検討した。
 研究には大学近くの市場で購入した淡水魚10種 を用いた。中日合作研究室はまだ機器等の整備の途 中で、私の滞在中にも日本より機材が送られてきて いた。実験装置などもまだまだ十分ではなかった が、幸い私の研究については研究室のスタッフや他 の研究室の協力などもあって不自由なく進めること ができた。結果については現在サンプルを日本に持 ち帰って分析中であるが、今後得た知見をもとに、 中国産淡水魚の新たな加工・流通技術の開発を目指 してさらに研究を進めていく。
 今回の研究に用いた実験方法、分析方法について は、上海水産大学食品学院中日合作研究室の若手研 究者に技術移転が済んでおり、今後日本側と中国側 の間で密接に連絡をとりながら、貯蔵条件等をかえ た試験を新たに組んでいく予定である。いずれにし てもこの共同研究は始まったばかりで、今後中央水 研でもJIRCAS水産部に協力して共同研究を進めて いくことになるであろう。
(利用化学部高分子化学研究室)
参考写真
  1. 四川省成都市の養殖場
  2. 上海水産大学の正門
  3. 食品学院の建物
  4. 大学近くの市場で売られていた淡水魚
  5. 同じ市場で売られていた海産魚(タチウオとマナガツオ)
  6. 研究に用いた淡水魚の1つハクレン
  7. 中日合作研究室の実験台
  8. 実験風景

Masaki Kananiwa
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