中央水研ニュースNo.19(平成10年1月発行)掲載 |
【情報の発信と交流・研究室紹介】 食品保全研究室
Food Safety Section, Food Processing and Preservation Division 矢野 豊
食べることは、生存するために不可欠の作業であ り、食べることが生命を脅かすようなことがあって はならない。それゆえ安全性は消費者にとって食品 の最も重要な特性のひとつである。しかも近年の大 規模な食中毒の発生や貿易拡大に伴う外国産食品の 増加は、消費者の関心をますます食品の安全性に向 けさせている。それに伴い、安全性が製品の差別化 の道具となり、逆に言えば、製造者は安全性を高め ることにより付加価値を高めることが可能となって いる。すなわち安全性は製造者にとっても最も重要 な食品の特性のひとつとなっている。このような状 況をふまえ、食品保全研究室は、生産者がより安全 な水産食品を生産していくにはどうすればよいの か、またコストや品質との関わりの中でそれをどう やって実現していくのか、といった製造段階におけ る安全性確保技術の開発とその基礎研究を行うこと を目的としている。 安全性と一口にいっても関連する諸問題は非常に 多く、危害となる要因だけでも食中毒細菌、ウイル スや寄生虫といった生物学的なものから、貝毒や食 品添加物や農薬といった化学的なものまでと、それ ぞれの学問分野が存在するほど対象は広範である。 加えて、消費者の信頼を十分には得ていない放射線 照射食品や新たに出現してきたバイテク食品なども 広い意味で安全性に関連している。当然のことなが らこれらすべてに当研究室が対応することは不可能 であり、社会的な要請度に従って研究を進めてきて いる。最近では主に放射線照射食品の検知技術の開 発を行ってきた。食品への照射は国内的には馬鈴薯 の芽止め以外では許可されていないが、諸外国では 規制緩和の方向にある。0-157対策としても注目を 集め、米国ではつい先日食肉等への照射が許可され る運びとなった。水産物でも、冷凍エビをはじめい くつかの品目で許可されており、水産物貿易が拡大 している現在、これらの製品の日本への輸出圧カも 高まるものと思われる。このような背景から、照射 食品自体の安全性とは別に我が国消費者の放射線に 対する特有な感情を鑑み、消費者の信頼を得るため に、照射食品を検知できることが重要と考え、平成 6年度以降、照射食品を検知する技術の開発を試み ている。現在までに、照射を受けたエビ類などの筋 肉中に、アミノ酸異性体や炭化水素が微量に生成す ることを明らかにしてきており、今後これらを指標 物質とした検知技術の確立を目指している。 個々の技術開発とは異なるが、安全性管理手法で あるHACCP方式を水産食品製造に適用するための研 究も行っている。このHACCP方式についての詳細は 割愛するが、国際的にもその有用性が認められ、先 進諾国では食品製造過程にその適用が義務付けられ つつあり、輸入水産物に対しても適用されつつあ る。食品貿易が拡大する中、国内製造業でもこの方 式の早急な導入が求められている。導入のためには 原料や製造環境を取り巻く微生物などの危害要因の 存在や動態に関する情報が第1に必要であることか ら、現在、当研究室でも、それら危害因子の動態に ついて検討を進めている。 食品はそれ自体生物であり、その特性は生育環境 に大きく影響される。安全性も例外ではない。とり わけ、野生生物が多い水産物にあっては、化学物質 の残留といった危害に代表されるように、生育環境 の保全以外に安全性を確保する道がない。すなわ ち、水産食品の安全性の問題は加工流通部の当研究 室のみで解決される問題ではなく、プレハーベスト に関わる各分野との協力なしには解決できない問題 であると思われる。 (加工流通部)
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