中央水研ニュースNo.19(平成10年1月発行)掲載 |
【研修と指導】 平成9年度資源管理研究研修会
赤嶺 達郎
10月7~8日の2日間、中央水産研究所の講堂に おいて資源管理研究研修会が開催された。これは全 国水産試験場長会の要請によるもので、昨年に引き 続き2回目の開催である(昨年の内容については中 央水研ニュースNo.16のp24を参照)。昨年は120名 近い受講生を集めたため、講堂や昼食会場の収容能 力に問題があったが、今年はあらかじめ80名以下 という制限を設けたので、最終的な参加人数は都道 府県の水産研究機関から71名、各海区水産研究所 から9名、水産庁漁場資源課から2名の合計82名で あった。本年度のプログラムは以下の通りであっ た。 10月7日(火) 概論 (赤嶺達郎・中央水研) 資源管理論 (岸田 達・中央水研) コホート解析 (赤嶺達郎・中央水研) 講演「外国と日本の漁業管理」 (馬場 治・東水 大) 10月8日(水) ジオスタティスティックス(本田 聡・北水研) 実例1 (檜山義明・日水研) 実例2 (和田時夫・中央水研) 解析手法 (赤嶺達郎・中央水研) 最初の2題が基礎編、残りの6題が応用編という 位置付けで、赤嶺と岸田の資料についてはテキスト としてあらかじめ参加者全員に配布し、通読したう えで持参していただいた。以下に各講演の内容を紹 介しよう。 概論では主として離散モデルによる漁獲方程式を 説明した。かなり難解な内容になってしまったが、 この要約は水産学シリーズ115「水産動物の成長解 析、(恒星社厚生閣)のp58~61「離散モデルにお ける最適管理方策」にあるので参照されたい。統計 学の教科書として東京大学出版会の基礎統計学Ⅰ 「続計学入門」とⅢ「自然科学の統計学」を紹介し たが、これ一冊だけというのであれば、山田作太 郎・北田修一「生物資源統計学」(成山堂)を推奨 したい。 資源管理論では生物学的管理基準(Biological Reference Point)について、分かりやすい資料を 用いて懇切丁寧な解説があった。 コホート解析の前半では離散型とPope法につい て計算例を示し、後半では昨年の平松一彦博士(遠 洋水研)の資料を用いて最近の手法を解説した。 馬場先生の講演の前半については北原 武「クジ ラに学ぶ」(成山堂)の第8章「欧米と日本の漁業 管理」(p140~162)を参照されたい。後半はタス マニアの沿岸漁業とりわけアワビ漁業におけるITQ (Individual Transferable Quota 個別譲渡可能漁 獲割当)管理の問題点について、現地のスライドを まじえて紹介された。 最近注目を集めているGeostatistics(地理統計 学)については、基本的な参考文献だけでなく、手 法の原理と応用例が手際よく紹介された。 実例1では「漁獲率一定方策による対馬暖流域の スルメイカの資源管理」について、デルーリー法・ CPUEと稚仔分布量・コホート解析・再生産関係など を用いた資源解析と管理方策が紹介された。 実例2では「資源評価・ABC算定の実例一浮魚」に ついて、マサバ太平洋系群を例に、コホート解析・ 再生産関係・SPR(Spawning biomass Per Recruitment 加入量あたり産卵親魚量)管理などが紹介さ れた。 最後の解析手法では最尤法による死亡率推定方法 と、非線型最適化手法の一般論について解説した。 昨年同様、参加者の受講態度は真面目で、ときお り鋭い質問も発せられた。2日間の研修は不十分で はあるが、今年と昨年の研修会資料はテキストや事 例として重要なものが多いので、紹介された参考書 とあわせて今後も各自で勉強してほしい。その際に は各自のかかえるデータを対象に、実際に解析や評 価を試みられることを期待したい。 より高度で実践的な研修会も要請されているが、 日程や講師側の準備を考えれば、全国規模の研修会 としては今回のようなものが限界だろう。今後は各 海区ごとに少人数でのパソコンを用いた実技中心の 研修会が必要だと思う。 (生物生態部数理生態研究室)
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