中央水研ニュースNo.18(平成9年11月発行)掲載

【研究調整】
平成9年度水産利用加工研究推進全国会議報告
山澤 正勝

 標記会議は、平成9年5月28~30日に中央水産 研究所長の主催で、水産物の利用加工の研究に関わ る都道府県試験研究機関をはじめ、国立研究機関、 大学、民間研究所等から合計181名(67機関)が 参集して、開催された。
 本会議では、まず事務局から、本年度の重要検討 事項「水産資源の高度利用」をとりあげた背景を説 明した。すなわち、最近の国連海洋法の承認やFAO の京都会議における討議を通して、未利用資源や 投棄魚、加工残滓等の高度利用、ポストハーベス ト・ロスの削減など、将来に向けての食料としての 量的確保及び新しい用途開発が求められている。
 また、これらの問題に対する中央水産研究所の取 組の現状についても説明した。
 話題提供として、東京大学伏谷教授が「水産資源 の高度利用の現状と展望」について、水圏生物から の有用物質(医薬素材、研究用試薬、化粧品、健康 食品、食品添加剤など)の探索から生産に至る多数 の開発の事例および今後の可能性について講演し た。また金庭主任研究官がウニ廃棄物からの血小板 凝集能抑制物質の探索を例に「未利用資源から生理 活性物質の探策」、家常経営経済部長が経済的視点 から「TAC制下における水産加工業の課題」、岡崎主 任研究官が冷凍すり身の水晒し排液の利用に関して 「水産加工排水からの新規な中間食品素材の開発」 について報告した。
 総合討論の中で、都道府県試験研究機関から地域の 未利用資源や加工残滓の利用への研究の取り組み や具体的な民間での商品化例が報告された。北海道 では、ホタテの貝殻、ウロ(中腸腺)、タコの内臓、 魚類の残滓、ヒトデ、養殖付着物など併せて約45万 トンの廃棄物について、産学官の共同研究、民間へ の委託、道立研究機関間の共同研究、などの多様な 利用技術開発の取組み事例が紹介された。宮城県か らは、ホンダワラ科アカモクが秋田県では1億円産 業なのに、宮城県では食べる習慣がなく未利用資源 として扱われているように、地域の食文化の違いに よる水産物の価値の違いについては、長い期間をか けた地道なPRによる新しい食文化の創出の必要性 が提起された。富山県からは、地元では餌料位しか 使い道のなかったソーダガツオの燻製かまぼこへの 利用や頭、内臓、その他全てを使う利用法の開発、 ブナザケの調味すり身への利用、昆布巻かまぼこの 昆布の切れ端から Sea Food Noodle の開発など、 今まで使用されていないものでも、工夫によっては 新たな利用法が生みだされる実例の紹介があった。
 今後の取り組みについて、伏谷教授からは、産学 官の研究機関がその特徴を活かした形で連携しなが ら共同研究をすすめるのが1番効率がよく、国が大 学や民間の二一ズをうまくリードしてアメリカ型の 研究体制をつくってほしいとの意見が出された。
 これらの総合討論を通じて、①未利用資源あるい は加工残滓等からの有用物質の探索・利用に関する 研究は、現在の水産加工業および関連産業にとって 取り組むべき重要な課題であること、②未利用資源 や加工残滓等の利用には、有用物質だけを取り出す のではなく、すべてを総合的に利用する工夫が必要 であること、③研究の取り組み方法としては、1研 究機関が単独で取り組むには幅広い専門知識・技術 が要求されるため、異業種を含めた産学官の連携が 重要であること、などが確認された。
 中央水産研究所としても、これらの議論をふまえ て、未利用資源や加工残滓から有用機能物質の探索 や食用としての利用について、今後とも産学官の連 携を図りつつ研究を展開していく予定である。
 部会については、本年度からねり製品、加工技 術、品質の3部会から流通・加工部会と品質・評価 部会の2部会に変更した。品質・評価部会では、22 課題の発表があり、内容的には、①新しい技術・研 究手法の導入、②衛生・品質評価技術、③原料魚介 類の品質特性、に大きく分けられた。一方、流通・ 加工部会では、22件の発表があり、うち10件が新 製品開発・加工技術研究であり、12件は未利用魚等 からのすり身開発研究の報告であった。
(利用化学部長)

nrifs-info@ml.affrc.go.jp
back中央水研ニュース No.18目次へ
top中央水研ホームページへ