水産物をスーパーマーケットで購入する比率は
年々高まっています。鮮魚の場合でも7割近くが
スーパーマーケットで販売されています(総務庁
「全国消費実態調査報告」)。水産物販売に対する
スーパーマーケットの姿勢が水産物消費の動向を規
定する時代が来たと言っても過言ではないでしょ
う。しかし、残念ながら水産物流通とスーパーマー
ケットの関係についてはこれまで十分な研究が行わ
れてきませんでした。これからは、水産物産地にお
ける流通課題を研究していくうえでもスーパーマー
ケットをはじめ消費地流通の変化を克明に解析して
いくことが重要になってくるでしょう。すでに中央
水研ニュース第13号でもご紹介したように、消費
流通研究室では水産物流通に変革をもたらしている
産業群としてスーパーマーケット、外食産業、及び
中食産業(弁当惣菜産業)という3産業に注目して
います。そして、これら産業の仕入・販売姿勢とそ
の変化が既存の水産物流通にどのような影響を与え
つつあるかを解明しようと思っています。すでにい
くつかの研究成果を公表してきましたが、ここでは
スーパーマーケットに的を絞って、どのような視点
で研究を進めているかをご紹介したいと思います。
1.店舗大型化とアウトパック化が水産物流通に与
える影響
スーパーマーケットと一口に言つても経営活動は
多様であり、水産物に対する仕入・販売姿勢も様々
です。しかし、研究が深化するに伴い、「業態の違
い」と「店舗規模の違い」の2点に注目することが、
スーパーマーケットの仕入・販売活動の特徴とその
変化を解明していく際に重要であることが次第に明
らかになってきました。そこで消費流通研究室で
は、スーパーマーケットのうち売場面積の大型化を
図る「スーパースーパーマーケット」(売場面積
2,000㎡以上の店舗、以下SSM型店舗という。)
と、売場面積1,000~1,300㎡台で食品販売比率が
80%以上の「食品スーパーマーケット」という2業
態に的を絞って仕入・販売行動に関する研究を行っ
ています。
このうちSSM型店舗に関する研究では、①生鮮
各部門のフロア面積が既存スーパーマーケットの2~3倍
あることから仕入先が大量仕入れと安定供給
ができる取引先にシフトしていること、②フロアの
大型化によって平台によるボリューム陳列やメリハ
リのある陳列が求められ、バラ売りを基本とする大量
陳列によって人時数の削減が期待され仕入条件の変
化をもたらしていること、③店舗が都市型立地であ
るために設備投資額が嵩み、かつ限られた敷地面積
での営業が必然化するためにバックヤード面積の縮
小化が求められていること、④この結果SSM型店
舗では、経営効率化のためにアウトパック化が前提
となり、鮮度重視か経営効率重視かの選択に迫られ
ていることなどが明らかになりました。
既存スーパーマーケットの2~3倍あるスペース
を維持していくためには、大量仕入れ・安定供給が
可能な仕入先の開拓が不可欠であるため、SSM業
態の開発に伴って仕入先を従来の中規模市場から大
規模市場荷受・仲卸へと変更する動きが見られ、中
央卸売市場再編の背景にもなっています。またアウ
トパック化に伴い、流通過程内にカットやリパック
機能を具備した産業群が形成され、取引面でより厳
密な条件設定が行われる傾向が高まりつつありま
す。これらの点は、今後水産物産地が販路を開拓し
ていく上で十分配慮していかなければならない点で
す。
2.食品スーパーマーケットにおける水産物仕入・
販売の諸相
食料品の販売比率が80%以上という特徴をもつ
食品スーパーマーケットですが、我が国のスーパー
マーケットの多くはこの業態に含まれます。売上げ
の企業規模が比較的小さな店舗が多く、店舗の大型
化が進む中でいかに競争力を維持していくかが大き
な課題となっています。平成7年夏に首都圏で店舗
展開している売り場面積1,000~1,300㎡台の食品
スーパーマーケット11社を対象として実施した聞
き取り調査によれば、店舗数が比較的少ない食品
スーパーマーケットでは、単に品揃え数を絞り込む
だけで経営の効率化や競争カの維持を図る企業があ
る一方で、経営の効率化をさほど念頭に置かずに競
争力を強めるために品揃え数が逆に増えている企業
があるなど、水産物に対する仕入・販売姿勢はまち
まちで経営課題も多く見られます。
これに対して店舗数20~30店舗規模の中堅ク
ラスの企業では、大規模チェーンの動向をみつつ鮮
度重視を念頭に手堅い事業を展開していく姿勢をと
る一方、一回当たりの取引量が自社の販売量に見
合った産地と契約を結ぶことによって供給面や価格
面で有利な仕組みを模索したり、他の店と差別化で
きる手段として販路が限定された商品を仕入れたい
という要望を強く持つ企業が目立ちます。このた
め、これからの中規模産地では産地流通対策の選択
肢として中堅食品スーパーマーケットとの事業提携
により、新たな流通チャンネルを構築していくこと
がこれまで以上に可能になってくると思われます。
ただし、中堅クラスの食品スーパーマーケットで
は、バックヤードの効率化を図るために店舗外に
パッキングセンターやプロセスセンターを設けると
ころはまだ見られません。パッキングセンターやプ
ロセスセンターの設置に関しては、店舗数の絶対数
と店舗の分散状況に規定されており、利用効率から
みて店舗数が60店舗程度になることが条件となる
といわれています。店舗数20~30店舗規模で
は、いったん配送センターに一括搬入され、小分け
されて各店舗へ配送された後に、各店舗のバック
ヤードで切り身加工等の作業が行われています。
スーパーマーケットが仕入先や産地に対して持つ要
望は、このような状況の中から生じる経営課題が背
景となっていることが多く、消費地との連携事業を
考える産地はこの点を十分配慮する必要がありま
す。既存の食品スーパーマーケットでは鮮魚部門の
経営改善方策として、①外部委託加工、②商品の規
格化と格付けの実施、③物流面での対策、などに取
り組むところが多く、今後産地としてもこれらに関
する情報を多く蓄積し、十分配慮していくことが販
路開拓上大切です。
3.スーパーマーケットの仕入・販売行動が卸売市
場取引に与える影響
スーパーマーケットの大型化や既存の食品スー
パーマーケットの動向が水産物流通に与える影響と
して中央卸売市場への影響を見落としてはいけませ
ん。平成7年夏以降に実施した首都圏の中央卸売市
場を対象とした調査では、①仲卸業者間の規模格差
の拡大、②需給を反映しない市場価格の現出と品薄
感の醸成、③仲卸業者が担う諸事業のうち加工機能
やデリバリー機能に対する評価が高まる中で、スー
パーマーケットの代行買付や賃加工といった下請
化、系列化の進展、あるいは④中央卸売市場間の競
争激化と中小規模市場の経営悪化、等が今日の中央
卸売市場内で発生している問題として明らかになっ
てきました。すでに中央卸売市場では取引環境の変
化に対応すべく従来の取引メカニズムが次第に変化
してきている訳で、その点は水産物に限った話では
ありません。
ただし、これだけスーパーマーケットが普及して
きたのが消費者のライフスタイルや買物行動の変化
に根ざしていることを考えれば、中央卸売市場は既
存の取引メカニズムに合わないスーパーマーケット
を排除するのではなく、いかにつき合っていくかと
いう視点に立って取引のあり方や取引相手先の開拓
が論じられていくものと思われます。例えば首都圏
では現在、中央卸売市場問の競争が激化する中で中
小規模市場の集荷カや荷揃えの低下問題が生じてき
ていますが、その改善策の一つとして市場自体の専
門化、個性化をいかに図るかが議論されたりしてい
ます。そこでは大量物流に耐えうる施設整備を行っ
て大規模スーパーマーケットの仕入需要に対応して
いこうとする中央卸売市場がある一方で、仕入需要
量はそれほど多くないものの商品の差別化を重視し
た中規模スーパーマーケットと連携を図る中央卸売
市場があるなど、異なる方向をとる中央卸売市場が
並存しうる市場環境のあり方なども議論され始めて
います。
漁業に携わっている方々は、中央卸売市場で形成
される価格を所与のものとして捉える傾向が強く、
販売面を工夫してさらに高い価格を実現しようとい
う姿勢に乏しいところがあります。しかし、以上見
てきたように中央卸売市場がもつ機能は変化し、産
地も従来とは異なる姿勢で中央卸売市場とつきあう
時代がきつつあります。消費流通研究室では、これ
からもスーパーマーケットと水産物流通との関係に
ついて研究を続けていく予定ですが、この点を産地
の方々とも一緒に考えていきたいと思います。
(経営経済部消費流通研究室長)
nrifs-info@ml.affrc.go.jp
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