中央水研ニュースNo.18(平成9年11月発行)掲載

【情報の発信と交流】
平成9年度第一回海洋生態系システム研究会
川崎 清

 海洋における生物生産を支えているのは植物プラ ンクトンの光合成による基礎生産である。この基礎 生産を衛星から把握しようということで、宇宙開発 事業団が平成8年8月に水色センサであるOCTSセン サを搭載したADEOS衛星(※1)を打ち上げている。 この水色センサを水産研究に役立てるために、中央 水研ニュース第14号で熊田元海洋生産部長が報告 したとおり、中央水研と宇宙開発事業団の間で結ば れた共同研究契約に基づき海洋生態系システム研究 会を発足させ、衛星検証データを収集し水産研究に 役立ててきた。
 平成9年4月25日に平成9年度第一回海洋生態系 システム研究会が中央水産研究所講堂で開催され た。参加は宇宙開発事業団、宮城・茨城・東京都・ 愛知県の各水産試験場、各海区水産研究所・養殖研 究所・水産工学研究所、大学などの研究者で計50名 であった。これまで2回の研究会が開かれていた が、衛星データはまだ取得できておらず、今回が衛 星データを用いた最初の成果の発表の場であった。
 今回の会議では、中央水産研究所所長及び宇宙開 発事業団首席研究員から、水色衛星をとりまく現状 について、特に衛星データを有効利用するためには 現場データが非常に重要であり、特に水産庁の現場 観測値はADEOS衛星の価値を高めるものである、 今後、検証済みの衛星観測データをもっと研究に取 り込んでもらいたい旨の挨拶があった。宇宙開発事 業団からADEOS衛星の現状について報告があり、中 央水産研究所変動機構研究室長からOCTSセンサの 現場検証計画及び昨年の経緯について説明した。以 降、ADEOS衛星DTL装置(簡易型のOCTS受信装置で 準リアルタイムに状況を把握するために開発された もの)についての7件、クロロフィル等の現場観測 についての3件の研究成果の発表があった。
 DTL装置については検証機であり多くの研究者か ら改善すべき点の指摘や要望がなされた。一部ソフ トウェアの不都合については製造業者である日本舶 用株式会社から修正についてのアナウンスがあっ た。北海道区水産研究所葛西研究員や日本海区水産 研究所渡邊研究員からは表面水温・クロロフィルに ついては現場観測データに比ベパターンは似ている ものの低く出る傾向が、指摘された。また、西海区 水産研究所清本研究員からDTLを用いた東シナ海で の研究の結果が報告された。宇宙開発事業団山崎副 主任開発部員から、この成果をもとに現在のDOS版 ソフトウェアを改良し、将来的にはADEOSⅡ衛星 GLIセンサ用のDTLを作成するとの報告があった。
 研究会で対象とする水色センサにはこのほか米国 SeaWiFS(※2)があるが、中央水産研究所変動機 構研究室長から、センサの打ち上げスケジュール等 を説明し、中央水産研究所でも受信する予定である ことを報告した。
 開催時点ではOCTS画像の正式に処理された画像 がまだ一般に公開されるまでには至ってなかったた め、今回の報告はDTLを使った解析にとどまった が、各研究者が水色衛星データに大きな期待を寄せ ている事を感じさせる研究会であった。なお、1997 年末には再び研究会を開き得られた成果を発表する 事になっており、その成果が楽しみである。
(海洋生産部変動機構研究室長)

※1 平成9年6月末に太陽パネルの故障でデータ取得 ができなくなったが、8ヶ月ほど全世界の植物プランクト ンと基礎生産力に関する情報を送ってきている。
※2 米国水色センサSeaWiFSは平成9年8月1日に打ち 上げられ、9月?日から定常運用に入っている。中央水産 研究所でもSeaSpace社のNOAA/HIRPT受信装置で9月末か ら受信を行っている。


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